毎週月曜日にNHK第一ラジオで15:35分から放送される「ビュッフェ131」、月に3回くらいは僕が野菜などの農産物について解説をさせていただいている。
本日の放送は「ニラ」。露地物を冬前から植えておくと、だいたい4月~5月から春ニラが出てくるということでこの時期に採りあげた。実際には、露地で栽培されているケースはほとんど無く、ほぼハウス栽培である。なぜかと言えば雨などで叩かれ土が飛散し付着すると、スーパーに並べる際に衛生問題ではねられてしまう。従ってハウスまたはトンネルなどで雨をよけた栽培をする必要がある。そうしてハウスで加温栽培するのであれば、実は年間通じて供給できてしまう。このため、ニラには目に見える旬がなくなってしまった。しいて言えば、鍋物需要期である冬、つまり夜間と昼間の温度差が大きい時期に味が乗る。
しかし、ナチュラルな栽培方法は露地である。その露地での旬というか春先の出回りが今から始まるので、あえてここでニラを採りあげたわけだ。
で、今回のニラはむちゃくちゃスゴイ力を秘めたニラであった!
パッと見でお分かりと思うが、葉の幅が広い。そして今じぶんのモノにしては非常に厚みもある。
健全なうす緑色(どす黒いような濃緑色はあまりよくない)なのも佳い。
このニラは宮崎県西都市からやってきた。宮崎から東京までは宅配でも2日かかる。それなのに、この束をつかんで上に向けても、ほとんどの葉がビンッと上を向く。ダラッと垂れたりしないのだ。
このニラを生産しているのが、西都市の専業農家、後藤さだおさんだ。
昨年の7月に宮崎を訪れた際に圃場にお邪魔した。そのときはニガウリの最盛期をちょっと過ぎたところだった。
「うちは本当はニラ農家なんですよ」
といって見せてくださったニラの株は、まだ養成期で収穫前の、細長いものだった。
ニラは多年草だ。種を蒔いて50日くらいで育つ他の葉物とは性格が違う。まず3ヶ月程度かけて苗をしたてて、これを定植。そこから5ヶ月程度、根茎を養成する。根茎がある程度の大きさになったら捨て刈りといって、地上部の葉茎を刈ってしまう。そしてようやく、商品になる本葉を生やしていくのである。だから種を蒔いてから10ヶ月くらいたってようやく出荷可能になるという、息の長い作物なのだ。
後藤さんのところはほとんどが関西の有力生協、コープこうべに向けた出荷だそうだ。同生協が実施しているフードプランという、契約栽培の取引である。フードプランの基準はなかなかに厳しく、これにレギュラーで採用されているということはかなりの品質であり、環境保全型農業であり、かつ特別栽培品であるということである。
で、本日送っていただくにあたり、地元ならではの食べ方を伺った。
「うーん そうですねぇ うちらはね、軽く茹でて、塩昆布と混ぜたのをお酒のつまみなんかにしますね」
おおっ
むちゃくちゃ簡単!
その他にも天ぷらにすると超旨いなど聴いたが、とりあえず簡単にできるからその塩昆布和えを試そう。
そうして本番前に、NHKのラジオスタジオの給湯室で湯を沸かし、ニラを瞬間的に25秒ほど茹でて水にさらし、キュッと絞ってカットしたものに塩昆布を適量混ぜてみた。
ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
旨い!
なんじゃこりゃ!?
の旨さである!
ホントにビックリした!
噛みしめるとキュキュッという歯滑りのあと、ジャクッと食物繊維層のダイナミックな食感が来て、そこで信じられないほどのフレッシュで軽やかな甘みを包含したジュースがあふれ、同時にニラの「匂い」ではなく「香り」がプワッと立ち上る!塩昆布の塩気とグルタミン酸が程よくからみ、他にはなーんにもいらないパーフェクトな一皿である!
しかもこのヴィビッドな緑色いやエメラルドグリーンの艶ややかなこと!
その辺のニラでは味わえない。
スタジオで、古屋アナ、有江アナが「あれ??美味しい!」と小皿に盛った分を全部たいらげてくれる。
誰がどう見ても官能的なニラである。
ニラでこんなに感動するとは、、、
いや
農産物は全てが実に偉大な芸術作品である。
自然界にあるものは芸術ではない。
人間が関わるから芸術になる。
農産物は、人が品種を改良し、気候・気象にあった作型を試行錯誤し、どんな肥料をいつやるかに考えを凝らし、突発的なトラブルに必死に対応する中で生まれてくるものだ。
自然は偉大である。しかし人間がそれを模倣し、挑み、創り出すものは、より愛おしい。
後藤さんのニラは芸術的に旨い。
俺はこれを国立現代美術館で振る舞いたくなったのである。