こんなに出張続きなのに、出張先でまで知り合いに会うというのはものスゴイ確率である。
名古屋宿泊の夜、京都府宮津のお酢屋である飯尾醸造5代目見習いである飯尾彰浩君から電話があった。
「やまけんさん、名古屋におるんですか?しかもマリオットに泊まってるんですか?今ぼく、そのとなりの高島屋の催事で1週間名古屋滞在中なんですよ!」
そういえば以前も、てくてくと日本橋を歩いていたら彼とバッタリであったことがある。何かしら縁があるのだ。なんでそんなに偶然だと思うかといえば、飯尾醸造は京都府の日本海側、丹後に位置する。京都駅からさらに2時間もかかるロケーションなのだ! そんな遠方から上京したり全国を回っている彼と会う確率のほうが、なんだかんだいって会えない東京の友人達よりも遙かに高いのはいったい何故?
嬉しくなって翌日のランチをご一緒。今回行ったのは、名古屋在住で僕の仕事を不定期に手伝ってくれることになった小林君がイチオシするあんかけスパゲッティ屋、「ユウゼン」である。
「ヨコイやチャオといったあんかけスパの名店が最近、なにか物足りないんですよ!コクがないって言うか、、、このユウゼンのスパは濃いです!」
ときっぱり言いきるので、是が非にでもと思い、行ってきた。冒頭の写真は僕が頼んだミラカンB(大盛り)、ポークピカタと目玉焼き載せである。ここで軽く失敗。ポークピカタは豚肉フィレ肉を卵でとじたものだ。加えて目玉焼きを追加するってのは、卵食べすぎである。
一方、飯尾君は堅実に普通盛りのミラカンに目玉焼きのトッピング。うん、こっちの方がシンプルビューティーだ。
この店のあんかけスパは噂通りコッテリ感の強いものだった。
極太スパゲティ麺を茹で置いたものをさらにラードで炒め、特殊なあんかけソースをかけて供されるそれは、じくじくとラードが麺脇から染み出てソースに混ざろうとするしぶとさだ。
味は、、、
確かに濃ゆくて旨い。
けど俺はやっぱりヨコイのソースが好きかな。という感じだ。ヨコイの、奥の方から少しぴりっとくるようなアノ感じがやっぱり好き。
でもユウゼンのこのスパも、確かに旨いということは間違いなしである。ちなみにランチタイム、ひっきりなしに客が訪れて広い店内に行列ができている。サラリーマン6割、肉体労働者2割、たまに女性という感じの客構成であった。
さて
腹がくちくなってコーヒーを飲みに行く。
「やまけんさんにはこんど送りますけど、こういう本が出たんですよ」
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おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
お酢のレシピ集じゃないか!
しかもアスキーから? なんだなんだすごいなぁ。
飯尾醸造の通販ページでお酢を買うと、オリジナルのお酢のレシピが同封されてくることがある。これは、Web上で連載されているものだ。レシピはもっぱら、素晴らしい料理を創出するお母さんと妹の淳子さんの共同制作だ。
飯尾醸造には二回、取材を兼ねて行かせていただいて、その二回とも飯尾家にてご飯をいただいた。
もう、絶品である。
正直言って料亭とかよりも全然旨いのだ。
こんな感じである。
↑この、万願寺とうがらしの炊いたんが死ぬほど旨いのダ!ああまた食べたい、、、
メインシェフはお母さんである飯尾さとみさん、そしてセカンドでアイデアメーカーになっているのが淳子さんだ。
ちなみに淳子さんは彰浩君と二卵性双生児。全国の百貨店催事で営業の最前線にたつが、そのときは和服(むちゃくちゃ着こなしがいい)である。古くからのファンには、彼女の顔をわざわざ見に来るひとがいるくらいだそうである。
で、このレシピ本、飯尾醸造のお酢を随所に使ったレシピ集だが、「お酢料理」という狭い枠ではない、非常に広範囲に使える料理本になっている。いつも作っているアノ料理にお酢を、という感覚で捉えた方がいいかもしれない。特に、余分な化学調味料など全く入らず、かつ薬味に葱なども使わないというシンプルな肉団子甘酢がらめなどは、腹が鳴る。母娘で中国を旅行し、本場の麻婆豆腐に打たれ、しかし結局和風に落ち着いたというお酢やの麻婆豆腐など、よだれがとまらない。写真も、ピントが一箇所しかあってなくてあとはボケボケの昨今の絵作りではなく、ビシッと撮れているものが多く美しい。
僕は謹呈していただいちゃったのだけど、この本は強くお薦めします。
やっぱり本当に旨い料理を作る人が書いたレシピ本が本物である。
さてレシピ本とともに、強烈に貴重なものが送られてきた!
リンゴ数個とリンゴジュース、そしてそのリンゴを使って醸した、飯尾醸造のスペシャル果実酢「にごり林檎酢」である。
このリンゴは、せんだってNHKの「プロフェッショナル」で放映された、青森で無農薬りんご農家である木村さんのものだ。もうこの人のことはあまりに有名なので説明はいらないだろう。りんごを無農薬で作るということはあまりにも至難の業で、僕の友人の生産者も「リンゴの無農薬は100%無理だべな」と言い切るほどだ。
しかしこの木村さんはそれをやってのけた。
NHK放映後、ひっきりなしに木村さんに引き合いの連絡がくるらしいが、もともと量がないし、これまで真摯に彼を支援しつづけてきた取引先で手一杯だから、そっとしてあげた方がいいと思う。
リンゴジュース、非常にまろやか。
よく混入されている、ごくわずかな苦み、渋みが一切みあたらない。
リンゴは時期を少し過ぎているが、しっかりした味のものだった。
しかし木村さんのりんごの味を表現するのはちょっと難しい。その存在自体が奇跡なのだから。
それにしても無農薬とは思えぬ美しい肌のリンゴであった。貴重なものをありがとう!
で、この木村さんが有名になる前から飯尾醸造ではこのリンゴを使った果実酢を仕込んでいるのである。
宮津はとにかく美しい、海の町だ。
その海っぺりから50メートルしか離れていないところに、飯尾醸造の蔵がある。
ここで、蔵人達がちょうど今の時期にりんご酢を仕込んでいるのだ。
丁寧に現れたリンゴは、業務用のミキサーにかけられ、超・多量のりんごすりおろしになる。
これに酢酸菌を加えてお酢にするのである。超・貴重な木村さんのリンゴを、昔から支援し続けてきた飯尾醸造が渾身のりんご酢にする。強者は強者を識るというがそのいい例ではないか。
飯尾君との名古屋での邂逅とリンゴ酢、リンゴそのものとの出会いは、実に味わい深い余韻を残したのであった。