やまけんの出張食い倒れ日記

大分の県南・佐伯市~蒲江の海の幸を味わい尽くす! その5 蒲江の漁師・村松さんと海に出た!


さていよいよ海に出る。村松さんのブリ養殖場を見せて貰うのだ。

「今日はお客さんだから、一番いい船に乗せちゃるわい!」

といって乗り込んだのは「もじゃこ船」と呼ばれる、厳つい構えの船だ。

「もじゃこ」とは、ブリの稚魚のことだ。ふ化したもじゃこは波間を漂う海藻について外敵から身を守りつつ成長していく。ブリ養殖は、このもじゃこを獲得するところからスタートするのだ。

「海洋資源の保護のため、もじゃこの猟期はきっちり定められとる。だから猟期中は漁師は血眼になってもじゃこを獲る。この期間中は友達であろうとなんだろうと、みんな商売敵(笑)。じゃから、このもじゃこ船は、60ノットも出る凄まじいエンジンをつんじょるんよ。燃料代がものすごいことになるんじゃがの」

とガッハッハと笑いながら村松さんが説明してくれる。

養殖では、稚魚のふ化までが養殖のサイクルに入っていることが望ましい。そうでなければ乱獲で資源が枯渇する可能性があるからだ。しかし、ご存じのようにクロマグロ等、それが難しく頓挫しているケースが多い。ブリに関しても、自然にふ化したもじゃこを獲るところからスタートしているということだ。しかし、ブリについては現在のところは資源枯渇の危険はそれほどないということであった。

グワンとエンジンが大きいうなり声を上げて、いつも軽口の上手な村松さんの表情がひきしまり、湾内をゆっくりと進んでいく。

運転席にはいろんな機械がモニタに接続されている。

湾内のどこにいるかを指し示すGPSユニットや、魚群探知機等だ。水産と農業の違いはこれだ。ITが活躍する場が水産の場合は飛躍的に多い。農用トラクターにもこんな設備がついたら格好いいが、それを活かせるだけの栽培技術がまだないのである、残念!

内湾を越えたあたりからいきなりスピードアップ。

ぐわあああああああああああああああああああ

と咆哮をあげながら船が進む。と、海のなかにぽちぽちと養殖用の生け簀が見え始める。

生け簀は、海に浮かぶ巨大な籠だ。一辺が10~15M程度の鉄枠に、数十メートルの網が海の中に伸びて魚の生育スペースが形作られている。これが浮遊していかないように海底に碇を打っているのである。

「台風が来ると、生け簀ごともってかれてしまうから、内湾に収容するんじゃ。それにはムチャクチャな労働が必要になるんで、見極めが肝要。台風がくるかこないかの日は天気とずっとにらめっこしてるんじゃ。でも、誰かが収容し始めると、みんなつられて我も我もと運び始める。そうすると湾内が渋滞して大変なんじゃ」

実はこの生け簀の中に千匹以上のブリが生息している!僕は数百匹だと思っていたのでかなりびっくりした。消費者が養殖に抱くイメージの中で、「狭いところで密飼いすることでストレスがかかったり、病気になりやすいのではないか」というものがある。また、抗生物質等をどんどん投入することで病気を抑えて、薬漬けになっているという心配をする人も多い。この辺を村松さんにぶつけてみた。そうすると、非常に明快な答えが返ってきたのだ!

「魚の養殖は、『海の農業』じゃ。農業は、畑に人工的な肥料を撒いて、種や苗を植えて、病気になれば農薬や栄養剤を与えて育てるじゃろ?つまり農業は自然じゃなくて人間が自然を模しながら植物を育てる行為。魚の養殖も同じ。健康に育たなければこちらも売り物にできんわけだから、適正な環境を造って育てる。当然のことだと思うぞ」

「養殖は海の農業」とは全く言い得て妙ではないか!
そう、農業は「自然」などではなく「人為」であるし、養殖もまた然りなのである。

「消費者の人たちと話をするとまず出てくるのが薬の話。投薬によって魚が汚染されるんじゃないかという心配があるのはようわかる。でもそう言う人にはこう話すんじゃ。おたくの子供が高熱を出しちょったら、何もせずにいるかな? 薬を飲ませて体調を戻し、徐々に回復させていくじゃろ? 子供の頃にかかる可能性がある重篤な病気には予防注射をするじゃろ? 魚も同じじゃ。 正常に生育できるための最低限の手助けは必要なんじゃ。」

横を見ると、村松さんの友人の船が、生け簀に餌を与えている。水面にばしゃばしゃと餌となる魚が機械でいれられ、それをブリが我先にと食べている。

「昔はあげな機械はなかったんじゃがのう、機械メーカも商売上手で、漁師を楽にするちゅうていろんな機械を造って投入しよる。おかげで船にかける金がバカにならんわい!」

と豪快に笑った後、真剣なまなざしに戻る。

「よく薬剤の残留について悪いイメージを持ってる人がおるけど、厚生労働省が決めた使用量をきちんと守れば、出荷時には残留は絶対に残らない。薬によってブリが曲がったりすると思っている消費者さんもおるようじゃが、そもそもそんな恐ろしい薬は認可されんわい。 漁師にとってそういう問題が起こったら廃業しなければならないようなことになる。だから、薬剤の適量使用は当然のこと。そういうことが消費者さん達には、伝わらんなぁ、、、 ほい、そろそろ戻ろうか」

この一連のエントリで僕が書きたかったのは上記のやりとりだ。
ブリの生育や投薬についての話は、村松さんのWebにも書かれている(まだ途中らしい。村松さん、続きも書いてね!)のでごらんいただきたい。

■村松さんのWeb
http://www.saiki.tv/~muramatu/buri/buri_1.html

「養殖ブリ」については一時、奇形魚の発生がセンセーショナルに報道されたりして著しくイメージを損なった歴史がある。その後、養殖について消費者はあまりいいイメージを持ってこなかったというのが実情であろう。

しかし、魚の養殖は、これからの食料資源の確保を考えたときに避けて通ることの出来ない課題である。

最近、テレビや雑誌で「マグロが消える?」という見出しをみかけることが多い。クロマグロの漁獲制限を課せられ、そして諸外国でのマグロ消費が増えてきたことで、今後日本でのマグロ確保が難しいのではないかということだ。

しかし見ていて悲しいのは、単に「マグロをどうやって確保すべきか」ということにのみフォーカスがあたっていることだ。クロマグロの個体数が激減する要因は間違いなく日本の消費が大きく関与しているわけで、そこになんらかの制限が課せられるのは仕方がないことではないか。僕の、クロマグロ問題についての考え方は「我慢してマグロ資源の回復につとめるしかない」というものだ。これは、無茶な話ではない。秋田県ではハタハタの資源が減少した時、禁漁というワイルドカードを出した時期がある。ハタハタがなくてはならない秋田県民が、その時期は我慢したのである。そして現在、ハタハタの個体数が回復し、県民はハタハタを満喫できている。

秋田県人のこの素晴らしき忍耐を、他の県の日本人が見習えばいいのである。その後、個体数が十分に回復したかどうかをきっちりとモニタリングし、しかるべきタイミングでクロマグロ解禁をはたらきかける。そこからは国際政治力の世界だろう。ただし中国や諸外国でのマグロ消費が増えているということがあるので、日本が我慢しているうちにそっちにもっていかれてしまう可能性はあるわけだが、、、

話がそれたが、水産資源はかように有限のものだ。こんにち様々な食料リスクがある中で、国内での魚の養殖を発展させることは欠かせないことだと思うのだ。天然資源は精妙にコントロールすることなどできないからである。

コントロールできないというのは、天然魚についての根本的なポイントだ。昔、あるスーパーのバイヤーと話をしているなかでこういう話が出た。

「消費者は天然魚には無条件でいい印象を持つけど、実は天然魚ってどこで何を食べてるかわからないんだよね、、、養殖は、生まれてから出荷されるまで、どういう育ち方をしてきたかがきちんとわかる。そうすると、どっちが安全性が高いかという話で行くと、養殖のほうが身元ははっきりしてるんだよね」

この話を聞いたときは、まだ養殖に関する知識があまりなかったので、僕は「そうはいっても、やっぱり天然の方がよさそうじゃん」と思っていた。しかし、養殖の現場と接すると、確かにきちんと管理された養殖魚については安全性が担保されていると考えていいのではないか、と思うようになったのである。

そうなった場合、一番重要なのは養殖業者のひととなりだ。 育てる人の意志が全て魚に反映されるのである。全ての養殖業者が村松さんであればいいが、そんなわけにもいかないよな、、、

さて船着き場の生け簀にも、ブリが養殖されている。

「だいたい成体になってきたのがここにおいてあるんじゃ。」

と網を持ってブリを追いかける!

網に入ったブリは、見事に大きく育っていた。

「やまけんさん、ブリが欲しい時は言ってくれよな、、、ハタやクエなんかも養殖してるからな、送ってやるわい。」

そう、なんとブリだけではなく高級魚であるハタ類も養殖しているとのこと! アラ、クエなんかが、考えられない価格で一本買えてしまうのである! ぜひ一度、「井のなか」や「バルバリ」あたりで一本丸ごとを料理して貰うようなオフ会を開催したいと思うのであった。でもどうせなら村松さんに捌いて貰いたいなー

ちなみにこれが魚の餌だ。

こちらは薬。

このパッケージをみていると、まさに農業資材と同じである。

「養殖は海の農業」

この言葉が僕の胸に深く刻み込まれた朝だった。

「よし、それじゃぁ 蒲江の海のスポークスマンとも言える女のところに行こうかい!」