サツマイモの時期がやってきた。
一部では話題になったが、実は昨年2005年は、甘藷(かんしょ)が琉球に伝来して400年、それがサツマイモとして鹿児島に伝来して300年という記念すべき年だったのだ。
サツマイモは乾燥に強く、痩せた土壌でも育つ(というより、肥沃な土壌では上手く育たない)ため、救荒作物と言われてきた。事実、青木昆陽が江戸時代に幕府に進言して、栽培方法のパンフレット(おそらく和紙だったろうけど)まで作って各地に伝授した結果、サツマイモのおかげで飢饉を乗り切ったという地域が多数あったという。
当然、第二次大戦時中にもサツマイモは優先的に作付けされ、主食となったわけだ。そのせいか、今でも、戦時中にサツマイモをいやと言うほど食べてきた人は「みるのもイヤなんだ、、、」とおっしゃることが多い。これは戦後に育った僕らにはわからない感覚だが、非常に重みを感じる話だ。現代人は太陽が明日も昇るがごとくに食料が潤沢に供給されると思いがちだが、自給率40%(穀物に関しては25%程度。これは先進国では最下位だ)のこの国では、国際的にバランスを欠けばすぐに輸入が寸断する可能性を秘めている。また芋が重要になってくる可能性もあるわけだ。
とはいえサツマイモの世界も非常にバラエティに富んできた。
鹿児島県を中心に、サツマイモ新品種は多数産み出されている。
通常の生食用品種のみならず、βカロテンを含む、ニンジン色の品種や、アントシアン色素の紫色の芋、干し芋専用品種などかなり面白い品種が世に出ている。
が、そうした新品種がスーパーなどの店頭で、明確に名前を付与されて売っているのをあまりみないのはなぜだろうか、、、ある種小売業者の怠慢ではないかと思う。
この国では「○○金時」と呼ばれる芋が多いが、その多くは高系(こうけい)14号という、この国の生食用サツマイモのスタンダード品種か、その系統をくむ品種である。この味ですり込みができているためか、なかなか高系品種にバトンタッチできないでいるという状況なのだ。
でも、店頭でも新品種芋の性質をきちんと説明するPOPをたてて販売してみれば、面白そうだと手に取る人もいるだろう。そろそろそうした努力をして、新しいマーケットを創り出すべきだと思う。
個人的には、「クイックスイート」という品種を推している。実は僕は芋はそれほど好きではないが(ここまで書いてなんだ!といわれるかもしれないが)、そんな僕でも美味しく食べられた。純粋に糖度だけでみればベニアズマや高系14号の比ではないと思う。
さて
関西では「○○金時」が主流だが、関東では少し事情が違う。千葉県でメインに作付けされている「ベニアズマ」が主流品種となっているのだ。
ベニアズマは高系14号に比べると長細い姿形になりやすく、焼き芋には使いやすい。石焼きや蒸かしで加熱したときの食味はネットリ感と甘味が強く、骨太な味を楽しめる。ただし、果肉がやや黒ずむ傾向があり、見た目を気にする料理用途では使われないことも多い。
個人的には、ベニアズマの石焼き芋は最高に旨いと思う。高系14号の代表ブランドである鳴門金時は、徳島県鳴門市に特有の砂地土壌で栽培されるという特殊条件のせいか、上品で美しい香りがする。サツマイモの女王という感じなのだが、ベニアズマにはそういう美しさよりも、野太いコクがあるのだ。
どちらを好むかは人によって違うので、金時好きにはごめんなさい。
で、このサツマイモ、レンジでチンでは美味しく食べられない。芋はデンプンが糖に変わるので甘くなるわけだが、サツマイモのデンプンが糊化(こか)して、βアミラーゼという酵素が糖に変化させるのには60-75℃くらいの温度帯をしばらく保ってやる必要がある。電子レンジは内部温度を一気に上昇させるため、このじんわりした温度帯がないのである。従ってぼそぼそと旨くない芋になってしまう。
ちなみに先述した「クイックスイート」という品種は、レンジで加熱しても美味しい芋になるそうだ。これは、糊化する温度が50℃程度からと範囲が広くなっているからだそうで、理屈としてはその分レンジ加熱でも糊化する率が高まるから、、、だと思う。
まあしかし
面倒かもしれないが、家庭では蒸しをお奨めする。蒸し器がないひとでも、普通の鍋に入れる金属製の蒸し網などを使えば大して面倒ではない。秋の味覚を味わうのだから、一手間かけてみようではないか。