やまけんの出張食い倒れ日記

愛しのかぼちゃ三昧


あまりにも見事ないでたち。これは、かの有名な伝統野菜である鹿ヶ谷(ししがたに)かぼちゃである。もともとは東北・青森あたりで栽培されていた菊座かぼちゃの種子を持ち帰り、京都の鹿ヶ谷で栽培したところ、変異種が発生してひょうたん型になったといういわれがあるが、実際のところはどうだろうか。実はこのひょうたん型というのは、かぼちゃではそれほど珍しい物ではない。だから個人的には、あらかじめこのような形質になることが決まっていたのではないかという気がしている。

さてご存じの人がどれくらいいるかわからないが、かぼちゃには数種類ある。
こんにちスーパーなどで販売されている、果皮が濃緑色で果肉が真っ黄色、食味はポクポク粉質で甘いものは西洋かぼちゃという。しかしこれは実は日本では後発組といえるかぼちゃである。

実はそれ以前は、鹿ヶ谷かぼちゃに代表される日本かぼちゃ(東洋かぼちゃとも言われるが、僕は育種の先生から日本かぼちゃと習ったのでこう称することにしたい)が日本でのかぼちゃのメインストリームだったのだ。ただし日本かぼちゃとは言っても、古来から日本で自生していたわけではない。ポルトガル船がカンボジアから種子を持ち込んだため、「カンボジア○△×」→「かぼちゃ」になったのだというのが一般的な説だ。そうするとますます東洋かぼちゃと称するほうがいいのだろうけど、まあよしとしていただきたい。

日本かぼちゃは中南米原産といわれ、カンボジアで生産されていたことを考えても、高温地帯での栽培に向いている。日本に渡来してからはやはり西日本中心で栽培されていたということである。しかしそうなると陸奥の国(青森)から鹿ヶ谷かぼちゃの原種を持ち帰ったという説がなんなのだろうかということになってしまうが、まあ日本かぼちゃが伝来してから徐々に栽培産地が北上し、青森でも育つように改良されてきた歴史があったのだろう。

対する西洋かぼちゃは南米の高地原産であり、冷涼な気候を好む。日本に持ち込まれてすぐの頃は北海道や東北を中心につくられていたようで、たしかに西洋かぼちゃの古い品種はいまでも北海道の直売農家が種を守っていることが多い。例えば「まさかり」というかぼちゃがある。これは、果皮が極端に堅くなる品種で、実際に僕も試したことがあるが、包丁では出刃だろうが何だろうが刃が立たない。まさかりでも使わないと割れない、ということから着いたネーミングだ。実際には堅い床に思い切りたたきつけて割るというのが簡単な方法で、いったん割って加熱すると、ホクホク感と絶妙な甘さがたまらない名品種である。が、北海道以外ではあまりみかけることはない。このように関東などでは作られていないような古い、しかし美味しい品種が北海道ではまだまだ流通しているのである。

さてこの鹿ヶ谷かぼちゃ、写真のものは実はまだ若い実である。完熟するともっと全体が茶色くなり粉を吹く。ヘタの部分もまだ緑色が残っているところをみても、早めに収穫したものである。しかし型は非常にいい。さすがは京都を代表する卸売業者である京果経由の商品だ。この日本かぼちゃは保存が利くので、もう少し熟させてみる。

実はこの鹿ヶ谷かぼちゃ、NHKラジオのビュッフェ131で紹介するために取り寄せたものだ。かぼちゃは11月くらいにはいるとニュージーランドなどの輸入物にシフトしていく。いまごろが、多種多様な国産かぼちゃの世界を愉しむ最終ラウンドなのだ。

鹿ヶ谷を縦に割ると、みてのとおり種が下の部屋に集中している。これも、同型のかぼちゃと同じ性質だ。

この三種がラジオで紹介した品種。手前左が西洋かぼちゃ。おそらく九十栗という品種。ホックリ甘い肉質だった。右側が鹿ヶ谷。そして奥に見える変な物体がそうめんかぼちゃを半分にくりぬき茹でた物だ。

鹿ヶ谷かぼちゃを茹でた物は、実にえもいわれぬ美しさだ。粉質ではないので、切り口が崩れず、色落ちもせず、このレモンイエローをくすませたような肉質のまま煮上がる。実は日本料理で出汁を煮含ませるように仕上げるのはこの種のかぼちゃである。

手前は日本かぼちゃ、奥は西洋かぼちゃ。あきらかに肉質の違いがわかるだろう。

さて、日本かぼちゃと西洋かぼちゃの他にも極めてユニークなかぼちゃ類がある。それは「ペポカボチャ」だ。「なんだそりゃ?」といわれるかもしれないが、例えば身近な例を挙げると、ズッキーニはペポカボチャだ。

「えっ ズッキーニってキュウリとか茄子の仲間じゃないの?」

といろんな人に言われるが、、、かぼちゃの類なのだ。ペポかぼちゃ。なんとも名前がいいではないか。ペポ。可愛い。

そのペポカボチャで非常にユニークなのがこれ、そうめんかぼちゃ。楕円形のラグビーボールのような形状で、割ると中心には種が詰まっている。これを取り除き、レンジやオーブン、もしくは茹でなどで加熱する。頃合いを見計らって、種の詰まっていたあたりをフォークや箸でかき混ぜると、、、

かぼちゃの実がそうめん状にほぐれて麺になるのだ!

初めて観たときはそりゃあ驚いた。
生の状態の時によく見てみると、たしかに繊維状に、紐状に実が折りたたまれている。しかしなぜこんな麺状になっているのかは知らない。ご専門の方、ぜひ教えてくださいませ。

ちなみに
10年前くらいまではかぼちゃはスーパー店頭でも一個売りが当然のものだった。
しかし今や、4分の1カットや、もっとすごいのはスライスされたパックが販売されている。平均的な世帯構成員が縮小しているから、一家庭で消費しきれないからという理屈はあるだろうが、生産側も販売側も手間ばかりかかって少ししか売れないのでかなり大変だ。かぼちゃは、きっちり作られていればある程度日持ちがする(包丁で切れ目を入れちゃったらダメよ)。むしろ収穫したてのものよりも、低温下でしばらく保存したもののほうが甘くなり美味しくなる。ぜひ一玉かって、いろんな愉しみ方を試して欲しい。