2006年8月 7日 from 食材
6日日曜日、食材塾の第二回を行った。食材塾は、野菜のある品目について集中的に理解を高めるため、特徴的な品種を集め食べ比べを行う会だ。先回は大根で実施したが、今回のテーマはナスである。
ここのところ様々なナス品種と出会うこともあり、時期的には最後のチャンスといえるこの時期に実施した。会場となったのは神泉のアルキメーデ。スタッフ会わせると23名が集まる満員御礼の会となった。
今回はベーシックなナスと特徴的なナスを分類して食べ比べを行った。集めたのは下記8品種だ。
■千両二号
日本で最もベーシックなナスといえる千両の改良品種で、首都圏でもこの品種の出回り量が多い。
今回参加者の皆さんには、このナスを一番最初に食べて標準として考えて欲しいということにした。結果、やはりどういう食べ方をしても中庸で、よくいえばバランスがいい、悪く言えば個性がないという意見が出た。しかしさすがにオールラウンダーであり、造り手の技術もこなれていることから、隙のみあたらない品種だといえる。
■賀茂茄子
賀茂茄子は江戸時代から京都で栽培されている伝統野菜の代表である。京都府のブランド規格としては250g程度の中玉が流通しているが、元来は500g程度まで大きく育てたものが主流で、日本国内の営利品種の中では最大といえる。昭和初期には、京都府左京区上賀茂および下鴨にて10ha程度栽培されていたらしいが、戦争により減少し、昭和30年代に絶滅の危機に瀕したという。その後、平成元年から行政と農業団体が一丸となった京野菜のブランド認証を開始し、栽培面積が拡大した。
現在市場流通している賀茂茄子は山科、綾部などの産地が中心である。発祥の地である上賀茂・下鴨のものは少ない。
現在、多くの賀茂茄子農家は種子を自家採取・自家播種していない。賀茂茄子栽培には接ぎ木作業が必須だが、接ぎ木栽培の時期である年末は、京野菜農家はスグキ作りで繁忙である。このため接ぎ木を外部委託するが、その種屋・苗屋の持つ種を使うことが多いため、おのおのの農家が持っていた種子は伝承されにくくなっている。
ただし京都府から2軒の農家が伝統野菜の種とり農家(種子保存農家)として任命されている。今回試食する賀茂茄子は、そのうちの一軒である田鶴さんのものだ。さすがに食味も素晴らしく、どの参加者からも賀茂茄子は煮ても揚げても美味しいという発現が目立った。茄子界における横綱といっていいだろう。
■山科茄子
山科ナスはその名の通り、京都の山科区で栽培されていた品種である。現在では山科区では数軒の農家しか生産しておらず、生産のほとんどが他地域の農家によるものとなっている。今回調達品も先述の上賀茂・田鶴さんのものである。
形状は電球型で、水ナスのシルエットに近い。果皮も肉質も柔らかく、傷つきやすく褐変しやすいため、市場流通に適さず生産量が減っていったと言われている。
料理ではニシンとの炊き合わせが有名である。また漬けナスとして用いられたときに真価を発揮すると言われている。
■泉州水ナス
水ナスについては以前もエントリで書いたとおりだ。今回も一番人気の品種となったが、栽培環境も特殊であり、一年通じて手にはいるようなものではない。水ナスは、湿度の高い土壌でのみ生産できる品種で、何故か大阪の泉州地域以外では作付けが難しく、他地域では和歌山/石川の一部でしか成功していないという謎が多い作物である。
その歴史は古く、室町時代に書かれたとされる庭訓往来(ていきんおうらい)に澤茄子(みずなす)と記載されている事から、貝塚市の澤地区が発祥と考えられている。
名前からもわかる通り水分の多い野菜で、手で握りしめると水分がしたたり落ちるほどである。昔は果物代わりにのどを潤すのにも使われたということ。関西では有名な野菜で、京都・大阪では漬け物の王様といっても良いくらいの存在価値をもっている。
関東ではそれほど馴染みがないが、近年流通するようになってきた。ただし、関西におけるA品は単価があわず出回らないのが普通である。
■米ナス
中国の品種を米国で改良した品種「ブラックビューティー」を日本に輸入したため、米ナスと言う。丸茄子同様、荷崩れしない、しまった肉質が特徴である。今回調達の米茄子は、奈良県産桜井市(5名の生産者)の準高冷地で栽培されたもので、他産地(高知他)と比較して2~3廻り大きく、緑色のへたが特徴となっている。
実を大きくする為に通常より半月ほど生育に時間がかかり、樹が傷みやすいとのこと。スーパーでも、この大きさににより、売場面積を多くとってしまうと不評の声もあるが、味をよく知っている売参者は、この茄子の品質の良さをわかっているため、高値で取引されるとのことである。(卸・生産者より)。
■長岡巾着茄子
もうこのブログではおなじみとなった、僕のお気に入りの一品だ。
新潟県長岡市に伝わる伝統野菜「長岡野菜」の一つであり、日本のナス品種においてもオリジナル性の高い品種である。
「こんげん茄子、しょーしくて旅のもんには出さんねー」(こんな変な形の茄子、恥ずかしくて他所から来た人には食べさせられないよ)というネガティブな理由で、長い間門外不出になっていたほど、その形状はユニークである。巾着袋を締めた時のような筋が果実全体にはしっている。
明治の中頃に長岡市中島地区で栽培され始めた大型の巾着型のナスで、果肉が堅くしっかりしており、煮崩れし難く、煮てもナス特有の色素が煮汁に溶け出さないのが特徴。
果肉の密度と堅さは日本で栽培されるナスの中でもトップクラスと思われる。従ってその堅さを活かす調理法が求められる。
長岡巾着ナス作りの名人は、通常のナス栽培とは逆に栽培時には一切水やらず、長岡巾着本来の味、旨み、堅さを引き出しているとのことである。泉州水ナスなど他地域の地ナスは栽培に大量の水を必要とするが、長岡巾着ナスは逆であり、その特異性がうかがえる。
■梨ナス
梨ナスは、水ナスの血を引きながら新潟で独自の進化を遂げた漬物用ナスだ。確かに梨という名前だけあって、生食したときの爽やかな甘さと香りが光る。
今回お送りさせて頂きました梨茄子は、果皮の色づきが良く・多収な物に品種改良された梨茄子では無く、昔から生産者によって自家採種されて作られていた昔ながらの品種です。
その為、果皮の色付きが悪く見栄えがしないのですが、最近の品種と比べて皮は柔らかく甘味も強いです。
生でかぶりついて頂くと甘味があるのがよくおわかりになると思います。
お薦めの浅漬けの食べ方として、半分ぐらい漬かった物を刺身の様に切って醤油をかけて食べるやり方もあります。
梨茄子は元々「泉州水茄子」を1930年ごろに長岡で栽培し始めた物が元だと言われています。
ですが今では「梨茄子」と「泉州水茄子」は別物です。
長岡の「梨茄子」と同タイプの「泉州水茄子」は、今では大阪の和泉地方で数軒の生産者が作っているだけのようです。
(長岡市場の仲卸・カネヘイ青果 神保氏)
■薄皮丸茄子
山形県の置賜群の伝統野菜だ。
(以下、山形県置賜群の農業試験場の資料より引用)
生みの親は、南陽市宮内の篤農家沖田与太郎さんが皮の薄いナスを見つけ自家採取したのが始まり。今から50年位前。最初は沖田ナスとも呼ばれていた。沖田さんは、菊づくりの名人で、菊花展の上位入賞者、指導的立場の人でした。
各農家がそのナス苗を分けてもらい、自家採取していた。そのため、ナスの形、皮の固さなどぼバラバラであった。
その後、県園芸試験場で長井市伊佐沢地区で生育、収量調査等を実施。薄皮丸ナスの栽培研究を行い、置賜特産のナスの品種となった。
市場での名称は当初は薄皮ナス、現在は薄皮丸ナス。
薄皮丸ナスの加工
皮が薄いため漬物に最適、しかし、皮が薄いことから塩加減、漬け時間、温度管理など難しい。
大きくなったナスは、賀茂ナスと同様に煮たり、揚げてもおいしい。味噌汁もおいしい。
と、これら8種のナスを、生と煮、揚げという基本的な調理法で食べ比べをした。また、小ナスについては元来が漬物用であるため、15時間一定濃度の塩水で浅漬けにしたものを試食した。加えて、巾着茄子は産地で最もよく食べられている調理法である「蒸しナス」にし、試食した。
皆が試食をする傍らで僕はナスの断面をみたりしていた。品種により心室数が違い、果肉の粗密も大きく違い、また褐変のスピードや度合いにも大きな差が出ていた。
これは千両の断面。
こちらは賀茂茄子。
ざっくりと5-6室にわかれた形質のため、油で揚げて田楽にしたときにさっくりと簡単に切り分けることができるのだ。
これは巾着茄子だ。
時間をかけ、水をできるかぎりやらずに育てる巾着茄子は、果肉の密度が濃くズシッとした重みがあるが、内部は無数の心室が形成されている。種の周りのトロッとした部分が相対的に多くなるため、蒸しナスにしたときのトロ味が形成されるのであろう。
こちらは今回最大級の米ナス。
米ナスは果肉が柔らかく密度も薄い。単体として煮たりしても美味しいわけではないが、油を吸ったときのトロ味の強さなどは、業務需要に圧倒的人気があるというのがわかる旨さである。
参加者はひたすらナスを摂取していた(笑)
最後、アルキメーデの重シェフによるナス料理を数品出してもらう。これで場が生き返った(笑)
やはり素材の味だけで8品種×3通りも食べると、げんなりしてくるのである。
白黒の世界からカラーの世界へと大きな変化だ。
参加者には料理研究家、漬け物業者、食品関連事業者や一般の人など色んな人がいたが、終了後の講評会で、素晴らしい感想をきくことができた。
「私は料理研究家で、いままではナスを切ったらとにかくアクを抜いて、という話をしてきました。でも、”アクは味”とおっしゃるのを訊いて本日あじわってみたら、生の時にどうしようもなく強かったアクが、加熱すると味わいに変化している。これからは『ナスはまずアクを抜いて』という教え方を改めようと思います」
僕がこの日一番言いたかったのはこのことなのだ。
アクとは味である。数十年前の日本における野菜は、品種改良の前段階で、強いアクを含んだものだったにちがいない。しかし今日の野菜品種はかなり持ち味の平準化が進んだもので、水にさらして抜く必要があるアクなど少なくなっているのである。ナスを切って水に放てばたしかに水は茶色になる。しかしそうしてアクを抜いたナスに果たして素材特有の味は残っているのだろうか?このような観点から、今回試食する際にはまったくアクを抜いていない。それをきちんと理解し、感じて下さったということで、僕は今回開催した意義があったと感じている。ありがとうございました、、、
そんなわけで まだしばらくナスが美味しい季節が続く。
色んな食べ方で楽しんで頂きたい。
素材調達に協力して下さった皆様、本当にありがとうございました、全て好評でした。
ご参加下さった皆様、本当にありがとうございました!またやりましょう!
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