やまけんの出張食い倒れ日記

時間の重みが酒の深みになるのだ! サントリー山崎蒸溜所にてモルトの旨さとブレンドの神髄を観た!


とある異業種交流会に参加した夜。サントリーが協賛の会で、各種ウイスキーを参加者に振る舞ってくれていた。僕は「山崎」が好きなので所望しにいったら、ちょっとイタリア人ぽい広報部の二枚目オトコ前の方から声をかけていただいた。

「やまけんさんですよね?一度、蒸溜所に遊びにいらっしゃいませんか?」

マジですか!?

「実はサントリーでは、”オーナーズカスク”という企画をやっているんです。山崎蒸溜所で仕込んだ年代物の樽の一部をお客様に開放し、オーナーになっていただけるという企画です。」

と分厚いパンフレットを繰りながら説明してくれる。
カスクとは樽のことだ。蒸溜所で熟成しているカスクにオーナー制度を導入したということなのだ。1本のカスクから100~500本のボトルがとれるということで、企業が記念に購入したり、仲間と共同出資したりということができる、実に貴重なオーナー制度らしい。

なんといっても、シングルモルトであるというところがココロをくすぐる。
ブレンデッドウイスキーは、様々な個性の原酒を混ぜることで、それぞれの長所を活かした味のウイスキーを作り出すものだ。お米も、実は巧みなブレンドを施したものの方が旨かったりするが、ウイスキーもまた同じだろう。しかし、シングルモルトの潔さ、個性の魅力はそうしたブレンデッドとは全く違う楽しみを僕らに与えてくれる。一つ一つの樽の個性がもろに前面に出てくるシングルモルト。そのオーナーになれるというのはものすごい精神的快楽ではないか!

ぜひ、蒸溜所に観に行きたい!
いや、正直に言おう 飲みに行きたい!

名刺交換をしてお別れした後、しばらくあれは社交辞令だろうなぁ、と思っていたのだが、その後きちんとお誘いの連絡をいただいた!すばらしいぜサントリーさん!

サントリーは山梨県の白州と、京都府の山崎にウイスキーの蒸溜所を持っている。白州は何かと縁があって好きな場所だが、今回は山崎の方にお誘いいただいた。これは単にブログのためだけに行くのはもったいない!と、アスキーで連載中の「旅三昧」でも取り上げさせていただくことにして、いつものごとくF岡総編集長と八木澤カメラマンと一緒に京都へ向かったのである。従って、サントリーさんから足代をいただいているわけでもない。いつものごとくこのエントリもガチンコ勝負の記事である。

しかし「山崎」という駅があるとは知らなかった。そして着いたとたんにもう「蒸溜所の街!」と宣言しているかのような風情である。

この山崎の駅はなぜか観光客でにぎわっていた。でも蒸溜所見学者とは思えないジジババが多い。登山の入り口なんだろうか。時間調整のためコンビニでアイスクリームを買う。すさまじい熱気が押し寄せてきてとにかく暑いのだ!さすがは京都。夏の暑さは並じゃない。はやいとこ、クアッとモルツを飲みたいんである。

しかし山崎蒸溜所まではちょっと歩く。この写真の道の彼方に移っている大きな建物が蒸溜所だ。F岡さんも「うひゃー 暑いねぇ」といいながら歩く。

ここはやっぱりサントリー蒸溜所の街だな、と思ったのは、とにかくべらぼうに「山崎」という小さい看板があることだ。しかしこのシチュエーションには笑った。焼き肉屋の「山ちゃん」という看板の下に「山崎」という看板があり、いったいもうなんなんだかワカランという絵なのである。

さて10分ほど歩き、踏切を渡ると、その広大な蒸溜所が視界をめいっぱいに塞ぐ。視野に納めきれないこの大きな敷地が、サントリー山崎蒸溜所なのである。


資料館の入り口に着くと、誇らしげにSINCE 1923と掲げられている!

そう、サントリー創業者の鳥井信治郎氏が、「赤玉ポートワイン」などの大ヒットで得た資金をつぎ込み、日本に本物のウイスキーをと建設したのがこの山崎蒸溜所なのだ。ということは、ここで仕込まれたもっとも古いモルトは1923年のものということか!いったいそんな年代物のモルトの味はどんなモノなんだろう?

ということを考えていたら、このクソ暑い中を、なんとも涼しげな薄青のスーツを着こなしたミラノ風伊達男が坂を上ってきた。サントリー広報部が誇るミラノ風伊達男・越野多門さんである。 名前もすごい!「こしの・たもん」さんである。いったいこの人何者?というそのルックス、一度あったら忘れられないだろう。

先日、長岡の花火大会に行ったとき、その辺にあった週刊誌DIMEのページをめくってたら、この越野さんがドドーンと企画広告ページに掲載されているではないか!ひえええと思っていたが彼の容姿なら当然か。検索してみたらちゃーんとWeb化もされていたので、リンクしてしまおう!

■DIME男前プロジェクト
http://www.digital-dime.com/otokomae/004.html

「ようこそお越しくださいました! 暑かったでしょう、こちらのテイスティングルームにお越しください!」

山崎蒸溜所では一般向けの見学ツアーがあるので、全国からひっきりなしに人が訪れている。ちゃんとガイドの女性がついて、蒸溜所見学をできるのだ。このツアーも実におもしろそう。年間で14万人(!)が訪れるという。

しかし!
カスクオーナーは、そうした一般の見学とは全く違う待遇となる。当たり前だ、だってオーナーだもの。
蒸溜所の建物の上にしつらえてあるテイスティングルームへと進むと、エレベータを下りたところに、涼やかな水色の制服を着た美女が立って待っている。

「今日、皆さんをご案内するお手伝いをしてもらう松本さんです」

外の熱風の世界からひんやりした室内に入っただけでも極楽なのに、いったいここはドコ!?と思わんばかりの歓待である。おそらくオーナーズカスクの見学をしにきた人は、コロッと参っちゃうだろうな。その念はテイスティングルームに入って確信となる。

美しい竹林をのぞむ部屋に、豪華な木製カウンターがしつらえてある。その背後の壁にはずらりとならぶモルトの山。こんな部屋を仕事部屋にしたい、、、

この写真の右側にいらっしゃるのが、チーフブレンダーの輿水(こしみず)精一さんだ。つまり、山崎蒸溜所のブレンドの頂点に立つお方である!この人が味を決めているのである!

「ようこそお越しくださいました。私もたまに東京に出たときは、オーパ門前仲町店に遊びに行くんですよ」

ええええええええええええええええええ
本当ですか!
ぜひ今度ご一緒に、、、

輿水さん、全く偉ぶらず、腰の低い方で逆にこちらが恐れ入る。
早速、蒸溜所内を見学することに。一般ツアーとは違い、チーフブレンダー輿水さんの解説による蒸溜所めぐりである!ゴージャスリッチなことこの上ないではないか!

これまで日本酒と焼酎、ワインの仕込みを見学したことがあるが、ウイスキーは初めてだ。
とはいっても蒸留酒。焼酎の仕込みとそれほど代わりはしない、、、とはいうものの、その製法やポイントはやはり大きく違っていておもしろい。日本酒や焼酎の場合は、米のでん粉質を酵母が糖化して、その糖をまた酵母がアルコール化する。

一方、ウイスキーの素材である二条大麦は、芽が生えかけの状態、つまり麦芽の状態にすると、糖化酵素が発生し、自らを甘く糖化するという特性を持っている。本当に、この麦が糖化しているのを舐めると「甘い!」と驚くのだ。

3本並んだ瓶に、原料となる麦芽とそれを粉砕したものが入っている。

そしてこの黒いカタマリが、ウイスキーをウイスキーたらしめる重要な役割を担う”ピート”である。
昔、何かの海外小説を読んでいたらこのピートという言葉が出てきて、いったい何だろうと思った。その後、違う本で「泥炭」とかかれており、これまた何か?とますます迷ったものだ。

ピート(泥炭I)とは、植物が炭化し石炭になる前の段階のものだ。このピートを燃やして燻して麦芽を乾燥させるときに、あのスモーキーな香りがつくのだ。シングルモルトの中でもラガブーリンなどの銘柄を飲むと、初めて飲む人は「グワッ なんだこの煙っぽい香りは?」とのけぞってしまう。けれどもその強烈な香りに慣れるてしまうと、それなしではなんだか物足りない、癖になってしまう味わいなのだ。

そのピートの現物の横に、おもしろい農具を発見。

これ、ピートを掘り出すのに使う鋤(すき)である。
実は僕は農具が大好きである。学生時代に自分の畑を耕す際に持っていた鍬(くわ)は、近くの農協でもっとも高い価格の業物を購入した。農具はその土地の風土を反映している。耕土の堅さによって鍬の刃や柄と刃の角度などが変わったり形状が変化する様が実に佳いのだ。このピート用の鋤は、スコップのように足でピート層を切り分け掘り出すためのものだ。この形状でできるところを観ると、ピートは存外に柔らかいのだろうな。

さてこのピートで燻香をつけられた麦芽が甘~いジュースとなり、いよいよ酵母が添加されてアルコール発酵するのである。

大きな樽の中を覗くと、ぶくぶくと発酵が進んでいる。いわば日本酒におけるモロミである。

こいつを飲んでみたいが、酒税法上、やってはいけないので、残念。

ここで立派なアルコールとなった麦酒を蒸留することで、ウイスキーのニューポットと呼ばれる透明な液体ができるのだ。

蒸溜所内にででーんと鎮座する6機の蒸留釜。この蒸留釜は2機の対になっており、対面に同じ形の釜が対をなしている。つまりウイスキーは二回蒸留するのである。

「おもしろいもので、この蒸留釜の形で味や香りが変わります。この、単純な形の釜からは、骨太でストレートな味と香りのモルトが生まれます。ひょうたん型に球が二つついているような釜からは、香りが強調されたようなモルトが生まれます。こうした釜の形状を考慮しながら仕込むことになるんですよ。」

なんと!非常におもしろいではないか!
釜の形状によって味が変わるというのは、日本の蒸留酒(たとえば焼酎)にももっといろんなバリエーションができるという可能性を示している。

これらの釜はスコットランドで職人が打ち出して作る業物だそうだ。こんなのを輸入するのは大変だろうなぁ、、、普通の町工場2つ分くらいの面積に6対、計12基の釜が鎮座している風景はムチャクチャ絵になるんである。

さてこの蒸留釜から出てくる液体は、、、

「コレがウイスキー?」

とびっくりしてしまうような無色透明な液体である。そう、蒸留したてのニューポットとよばれるウイスキーには色はついていないのである。これを樽に詰めて熟成させることで、あの深い琥珀色の液体に変化するのだ。

「じゃあ、いよいよカスクを観に行きましょう、、、」

こうして僕らは、山崎蒸溜所の心臓部といえる、数々の樽が眠る宝庫に、足を踏み入れたのだ。