大阪のホテルでFTPできなかったのは、通信回線の問題ではなく、単にアンチウイルスソフトの問題であった。先日から、年間更新料のいらない、ソースネクストのウイルスセキュリティ・ゼロをインストールして使用しているのだけど、そのファイヤーウォール機能をonにしたままだとFTPできないようだ。そんなこんなで更新ができなかったのである。
さて
大阪での公的・仕事的もろもろを終え、疲れ切って、大阪在住の親友・ガイチに連絡をする。
「おうおう来てるのか。俺もメシは食ったけど、いくわ。何か食いたいもんあるか?」
「そうだなぁー もうソースばしばしのお好み焼きとか串カツ食いたいなー」
「いまからかよ!わかった ちょっと考える」
僕のようなわがままな友人を持つと大変だなぁ、と我ながら思う。
こちらもすでに会食を済ませていたのだけど、ちょっと疲れた身体と精神がどぶどぶのソースを欲している。
新阪急ホテルのタクシープールでガイチと落ち合ってキタへ。
「とりあえずお好み焼きやな」
と連れて行ってくれた店は、当然関西風だろうと思っていたらなんと広島お好みの店であったことが判明。
「あっちゃぁ~ ま、しょうがないわ、とりあえずくっとこ」
ということで、ミックス天と豚ネギ焼きを軽く食べ、生ビールを飲む。
いい店だったが、僕的にはもっと濃いソースをドボドボと摂取して、明日への活力として変換したいという気持ちだったので、少しだけ消化不良。
「どうする?ギョーザにするか串カツにするか?」
「そりゃー串カツだよ!」
「わかった。それじゃ素材重視派の店にいこか」
と、とあるビルの4Fへ。それが「川と山」という串カツ専門店であった。
店内は、想像していたのと全然違い、バーか?と思うようなカウンター形式(テーブルもある)の店構えだった。中には焼酎の瓶が並び、カウンターの目の前に揚げスペースがしつらえてある。まだ若そうな店主がニコニコと好い笑顔で応対してくれる。
お任せだと、20種の串カツをぐるりと揚げてくれるので、腹が一杯になったらストップと言えばいいというスタイルだ。
「じゃ、とりあえず20種いってみよう!」
串カツの店には数回足を運んだが、大阪の人にとっては本当にソウルな位置づけにあるとはいえ、べらぼうに旨いとか、そういうことを楽しむもんじゃぁないのだな、と思っていた。しかし、中には純粋に旨い串カツを追求する店があるということもわかってきた。
「あのなヤマケン、串カツ店には二種類あってな。一つはこの店みたいに素材重視で、いい素材をその持ち味を引き出すように揚げていく。もう一つはネタに仕事をして揚げるような店。例えばキスの実でなんとかのすり身を巻いてあげて、、、とかそういうヤツね。今度はその、色んな仕事をする店にもいってみよ」
ということだが、今日の僕の気分的には素材重視派でよかったと思うのである。
さて目の前には4種のタレ(ポン酢、ソース、和風だし、塩)が並び、そこへ先付けの一口カツが並ぶ。
「鮎をパン粉有り、無しの両方で味わって頂きます。タレには、ハラワタを甘苦くしたソースを漬けておりますのでお好みで、、、」
この鮎カツが実にイけた!
カリッと揚がったきめの細かいパン粉の層の歯触りを楽しんだ後に、ホックリ、ギシッと詰まった鮎の身肉からジュッとジュースがしみ出してくる。そこに甘苦いというハラワタソースの甘さと苦さが絡んで、どうにも溜まらなく美味しい。
ここは単なる串カツ屋ではなく、きちんと日本料理を修めた人がやっている創作串揚げ料理屋なのだな、と認識を新たにしたのである!
次に出てきたのが、なんと椀だ。
お椀の蓋に刻みを入れて、鱧を揚げた串の両端がぴょんと飛び出るようになっている。
「この鱧揚げを汁に落として、衣が柔らかくなったあたりで身をほぐしながら食べて頂くと美味しいです」
と言われたのだけど、鱧カツが秀逸だったので、そのまま食ってしまった!
椀は一番出汁に鱧の頭と骨からとった出汁を足したのだろうか、これもきっちりとした味に決まっている。やはりますますタダモノではないのであった。
そこからはもう怒濤のごとく20本をたいらげるだけだった。
どこかの鶏肉だったと思うが、ミンチの肉でチーズを巻いてある。囓ると中のチーズがツーッと溶け出て美味。
そして驚いたことに短角牛が出てきた!
「岩手の短角です」
「えっ なんでこんな素材を、、、」
「僕、岩手出身なんですよ。」
なんと!
この若店主、岩手出身なのである。
ここぞとばかりいろいろ訊いてみると、予感はしていたのだが、やはり辻調理学校の出身であった!
店で一緒に働いているもう一人もその同期生だという。
さすがは辻調、、、
「岩手の美味しいものをさりげなく店で出していこうと思ってやってます。毎年、産地にいって食材をみる旅をしているんですよ」
と、食材に対してとても真摯な態度を持った店主なのであった。
エビ、魚、万願寺唐辛子、レンコン、芋などさまざまな趣向をこらした串揚げを楽しみながらあっというまに20本。
最後は枝豆のリゾットを串揚げ(というよりコロッケか)にしたもの。これが実に旨かった!
枝豆の香りがきちんと弾ける火の通し具合、米は和洋折衷のいいあんばいの味付けがしてあり、思わずもう一本食べたくなる味だった。
最後の締めにお茶漬け。
お茶漬けといっても、きっちり引いた出汁をかけるものだ。大根の角切りが共に茹でられた出汁がご飯にかけられ、塩昆布が別皿で提供される。出汁を一口すすると、なんともいえぬあまやかな香り。一番出汁の鰹臭さのない、野菜中心のまろやかな出汁だ。
「うす~い一番出汁に、串につかった野菜や肉の端っこを全部いれて出したスープなんですよ」
と教えてくれたが、この茶漬け、旨い。最後の食事は断ることもできるらしいが、これを断ってはいけないと思う。
いや、すばらしい20串と食事であった!
酒も飲んで、これで一人6000円程度、十分に見合う金額である。大満足して店を後にした。
「どーする?ギョーザは?」
「いくに決まってるじゃん!」
最後は大阪の一口餃子。
ガイチいわく「全然話しにならん」という味だったので店は載せないが。
一通りメシを食った後にこれだけ食べてしまった。大阪・キタは実に情深い食の街である。
さすがにもうはいらん。ホテルに帰り、とにかくひたすら寝るだけであった。