大阪は東部市場の卸である東果大阪の福村さんから、泉州の水茄子が届いた。来週のNHK第一ラジオの「ビュッフェ131」の特集が茄子だからだ。この水茄子と賀茂茄子、巾着茄子を採り上げることにしているのだ。
僕はこの茄子という果菜が大好きだ。
栄養価は実はそんなに高くないし、あってもなくてもいいような存在ではある。しかしこの日本で、キュウリや大根についで、地品種が多様に存在する作物だと思う。新潟や山形などの茄子王国では、多種多様な茄子がそこかしこに見られるのだ。そういう、品種の多さ・おもしろさを伝えられればと思う。
で、水茄子である。
市場から送ってくれるということは、すなわち小分けしていない箱でくるということだ。3列×5列の15個、大きな水茄子が入っている。この季節の風物詩である水茄子を色んな食べ方で楽しみたいなら、ドサッと箱買いするのが乙ですぞ。
水茄子の形はなかなかユニークだ。千両のような長卵型でもないし、賀茂茄子のような丸茄子でもない。強いて言えば京都の山科茄子を大きくしたような形状だが、どういう系統なのだかは僕にはよくわからない。育種の先生にいろいろ訊いてみたいものだ。
この水茄子は、大阪の泉州の名物であることはよく知られている。一般に「泉州でしかこの水茄子はよく栽培できない」と言われるが、泉州以外の産地でも作られてはいる。ただ、泉州のような旨い、水を多量に含んだ水茄子に仕立て上げたのを味わったことはない。やはり土質と栽培方法において、泉州ならではのオリジナルがあるのだろう。
テレビなどで紹介されているのを見た人もいるだろうが、なんで水茄子と呼ばれているかというと、とにかくその実に多量の水分を含んでいるのである。下の写真は、切った水茄子を握りしめたものだ。手にしずくが付いているのがわかるだろう。絞って水が滴り落ちるほどなのだ。
で、泉州の生産者のものは、この汁が透き通る甘さなのだ!渋みやえぐみの全く感じられない、爽やかさまで香る素晴らしいジュースなのである。これが泉州と他産地の水茄子の大きな違いだと言える。
食べ方は、基本は生で刺身(縦半分に切り、それを横にかまぼこのように切って刺身醤油で食べる)だが、包丁の金気を嫌うので、木のへらなどで切り込みを入れて手で裂くというのが奨励されている。こうすることで断面が微細な凸凹になるので、醤油などが絡みやすくなるということもあるだろう。ただし手で裂いた身には、醤油よりも酸味をきかせたドレッシングの方が合うような気がする。ということでさっそくドレッシングで軽く和えていただく。水茄子の、水分で膨満とした身肉を噛むとシュワッとジュースが染み出てくる。そのジュースとドレッシングの酸味が和して、あまりに旨い!本日のみで5玉食べてしまった。
しかし意外に知られていないのが、この水茄子を加熱して食べると旨いということだ。
長島農園から届いたトマトでソースを作ってパスタに和え、そこに多めのオリーブオイルで火を通した水茄子を加える。実は水茄子を加熱すると非常に美味しく食べられるのだ。おそらくそう言うと多くの人が「もったいない!」と言うだろう。実際よく言われる。けど、そういう食べ方をしたことがない人に「もったいない」などと説教されるいわれはない(笑)試してみれば、もったいないどころか「何で今まで食べたこと無かったんだろ」と言うはずだ。水茄子のジュースが保たれたまま加熱され、身がトロトロになり、モロッと口の中で崩れていく感覚はあまりにも官能的なのだ。これを高温の油でさっと揚げるともっと旨い。煙が出るくらいに油の温度を高くして、水茄子を投入すると水分が凄まじく爆ぜるので蓋をする。表面が茶色くなるくらいに火が通ったのを食べてみると、これはもう悦楽の味なのだ。
泉州水茄子の時期は今が最盛期だ。一時期にしか食べられないものだ。思い切って箱買いしてみるのもいいのではないか。大阪近隣でなくても、八百屋さんや、市場が近くにある人は、仲卸に数日の余裕をもって頼めば買えると思うゾ。