やまけんの出張食い倒れ日記

とうとう開店! 期待の純米酒お燗居酒屋 「井のなか」in錦糸町 心からおめでとう!その1

東京周辺に住んでいる居酒屋好きに朗報だ。
このブログにしょっちゅう「純米酒伝道師」という触れこみで僕が登場させる「工藤ちゃん」こと工藤卓也氏が、念願の自分の店を出店した。

店名は「井のなか(いのなか)」。

徳利やお猪口に描かれたトレードマークが蛙(かえる)なのをみれば、その店名の意はおわかりになるだろう。

工藤ちゃんは、純米酒好きの間では有名な人だ。
東京駅からほど近い茅場町の交差点の地下にある「五穀家日本橋店」という店がある。大店なのに、お燗づけのスペースがあり、純米酒を銘柄毎にお燗づけして出すというスゴイ店だった。僕はこの店によなよな通っていたものだ。著名な料理雑誌の日本酒セレクトの一員として登場したり、業界からも評価されている人だったのだ。

その彼が店を辞めた。辞めた後、彼の迷走が始まる。自分の店を出したいと思い走り廻るが、しがらみの中でその思いを果たせず苦しむ彼をずっと観ている時期が続いた。僕の壮絶な食い倒れ結婚披露パーティーの裏の仕切りをやってくれたのもその頃だった。ていうか、あの時期だから手伝ってもらえたんだろうと思う。

そんな、工藤ちゃんにとっては悶々とした時期が実に2年半!も続いたのだ。そして決意の瞬間が来た。

「やっぱり俺、失敗してもいいから自分で店を開きます!」

そこから約一年、ようやくここに店が結実した。本当に紆余曲折があったけど、心から祝福したいと思う。

店は錦糸町という、山手線内からだと「ちょっと行きにくいなぁ」という場所にある。しかし総武線秋葉原駅からすぐだし、実は都心から近いエアポケットなのである。その錦糸町の北口から歩いてほんの100メートルくらいのところに、店がある。

燗酒とコの字カウンター 「井のなか」
東京都墨田区錦糸2-5-2
03-3622-1715

営業時間: 17:00~23:30(金曜と祝前日は翌3:00まで)
日祝休


実はこの「井のなか」の開店は3月31日。なぜ4月1日にしないのか?
それは彼の奥さんの誕生日だから(笑)
その前に、レセプションと銘打ってお世話になった人達へのお披露目会があった。

日曜日のこの日に伺うと、知ってる顔が沢山席に座っていた(笑)。まずは北千住バードコート軍団。

「おっそいよぉ~もう呑んでるわよ!」

と、野島さんの奥さんであり、バードコートの酒選び担当であるチーさんが笑う。
野島さんは、工藤ちゃんの「炭火焼きの技術を教えて頂けませんか」という求めに応じて、数回レクチャーをしてくれていたのである。なんと幸せなヤツなんだろうな、工藤ちゃんは。

写真の鷹勇の古酒は、バードコートからの差し入れだという。しっかり僕も味見せていただいた。

さて店内に入ると、すぐにコの字カウンターの端に突き当たる。そこに飾られているものが奮っている。

僕の本があるのはご愛敬だが、その左にあるのは日本酒造りで使われる麹蓋(こうじぶた)。そこに描かれているのはなんとあの「夏子の酒」の作者である尾瀬あきらさんのサインだ。この他、レアなアイテムが結構飾ってあるので、それを愉しむのも粋な酒肴だ。

この「井のなか」の料理をとりしきるのは、この3年、工藤ちゃんと寄り添ってきた五十嵐君だ。

日本食の修行をしながらDJも務めるイケメン調理師なわけだが、彼が本格的に日本料理の腕を振るう舞台ができたというわけなのだ。工藤ちゃん、五十嵐君、そして工藤ちゃんが五穀家にいた時代からずっと一緒に仕事をしてきた浅見君がこの店の布陣だ。

で、浅見君が突き出しを運んできてくれたのだが、そのお盆というか箱をみて驚いた。

「なんだ、これも麹蓋じゃんか!豪勢だな!」

本当に酒造で使われていたものをいただき、おぼん代わりにしているという。酒好きには堪えられない趣向ではないか。

突き出しは美味しいだしを含ませた菜の煮浸しに、ホタルイカの酒漬けだ。

この突き出しの煮浸しをたべただけで、店の方向性がぐっとみえてくる。化学調味料を使わず、丁寧にとった各種の天然だしをベースに料理を仕上げている。その塩加減・塩梅はギリギリの濃度で、酒にぴたりと寄り添わせている。これは正統な日本料理を修行した五十嵐君ならではの皿だ。

「いや、これなら素材を出してみたくなるね」

とつぶやくのは、長島農園の当主・勝美君と、彼が連れてきた三浦の漁師、ウスイさんだ。

ちなみに工藤ちゃんはこれまでダッチ大会とかで長島農園に足を運んでいる。当然、この「井のなか」では勝美君の野菜が各種料理に使われることになるのである!特定の百貨店や生協以外の一般にはあまり販売していない長島農園野菜を、ここでは食べることが出来るのである。

「じゃ、まずは春鶯囀(しゅんのうてん)のお燗から!」

と、工藤ちゃんが燗づけを始める。

日本酒とくに純米酒は、その酒質によって最適な燗の温度が違うらしい。それも工藤ちゃんに任せると「この酒は45度くらいがいいです」とか「この酒は一度70度くらいまで上げてから温度を冷ます『燗ざまし』が美味しいんですよ」とか、とにかく酒によってすべて温度設定がきめ細かに変わっていくのだ!

しかしやっぱり彼にはこの姿が一番よく似合うな。つくづくそう思う。

「じゃあ、ウスイさんからいただいた鯛をいただきましょう」

と五十嵐君が、漁師ウスイ氏の持ち込み鯛をさばき始める。

マグロ赤身のヅケと鯛のそぎ切りのお造りが豪華に並んだ!

鯛は三浦・横須賀の天然モノだからね!にんまりしながら、当日あがったばかりにしては、旨味も感じられる鯛の実を美味しくいただいた。山梨の美しい純米酒・春鶯囀に非常によりそういい味だ。

ちなみにこの猪口の底に描かれた蛙がトレードマークなのだ。
このマークを描いたのは、カンちゃんこと神澤柚実子さんだ。彼女と、イタバシ師匠(少年マガジン「Boys Be」の原作者だ)が、この店の意匠についてかなりの手を入れて居られる。なかなかの決まり具合ではないか!

「鰻の串焼きと長島農園の葱を煮たものです。飯尾醸造の富士酢を使っています」

カリッと焼き上がった野趣溢れる鰻の串の下に敷かれた葱は、先日のエントリでも紹介した長島農園の白ネギ・ホワイトスターだ。これを飯尾醸造の酢とだしでトロリとするまで煮たのが実にイイ。ほのかな酸味が鰻の脂をほどよく流すのだ。

「いや、飯尾醸造さんのお酢は使い勝手がいいので、バンバン使いますよ!」

「ありがたいことです!」

と、飯尾醸造の若き跡取り、あきひろクンが隣で微笑む。

じつはまだ時間がなくて書けていないが、この飯尾醸造のお酢の醸造蔵に見学をさせて頂いたのである。工藤ちゃんももちろん同道。ぼんぼり京橋店のジャイアンも同道。オーパ門仲店の水澤君も。このエントリもぜひ楽しみにして頂きたい!

さて この店で大きな位置を占めるであろう料理が出てきた!

「鰆の西京焼きと、豚肉の炭火焼きウイキョウのタレ載せです」


おおおおおおおおおおおおおおおおおおお
これは素晴らしきプレゼンテーションではないか!

ちなみにこの豚肉は、何を隠そう鹿熊(かくま)養豚場のLW豚である
覚えておいでだろうか、工藤ちゃんを連れていって再開した、あの鹿熊さんとこの美麗な脂をもつ豚なんである!あの後、鹿熊豚をいたく気に入った工藤ちゃんは茨城まで通い、取引をさせていただくことになったということなのである。紹介してよかったぁ~

しかしこの料理、絶品である。コクはあるが臭みはない美麗な豚の肉質に、長島農園のウイキョウ(フェンネルである)をミキサーにかけて様々な調味料と合わせたタレ。ウイキョウの独特な清涼感のある香りが、豚の炭火焼きという、くどくなりがちな料理を澄み切った味わいにしてくれる。

その裏側に盛りつけられた鰆にはあん肝ベースのソースがかけられている。これがまたこっくりとしたいい味で、鰆のホロリとしたはかない食感と味をひろげてくれるのだ。もうこの時点で酒の消費量がぐんぐんとあがっていってしまっているのだ。

ただし申し訳ない、。この料理については、

「定番メニュー化はちょっと難しいので、その時その時のお薦めで趣向をこらしたのを出していきます」

ということであった。いや、この時、ウイキョウの季節であり、しかも鰆の季節であったことが幸いした。旬とは本当にはかなく一期一会のものだ。

「いやー いい感じですね」

と唸るのはお料理ジャイアンことぼんぼり京橋店の小池ちゃんだ。

実はこの店の厨房ができあがってから、バードコート野島さんだけではなく、小池ちゃんも招集され、料理をいくつか五十嵐君に伝授しているのだ。

「もう、休みの日なのに工藤さんが『頼むから一日身柄を貸してくれ!』っていうんですよぉ~」

といいながら、かなり楽しそうにガンガンと鍋をぶんまわしていたジャイアン。工藤ちゃんは彼にも足を向けて眠れない。

「はい、くるま麩でタラコペーストをお食べ下さい! パンを出したんじゃ当たり前なんで、こういう趣向で、、、」

というのが、実にマッチしている。

麩のからりと乾燥した食感とタラコの油分がマッチして、これもまた酒を誘うのだ。

向こうでは、

「あー工藤さん、ビールはこうやってつぐといいよ!」

と厨房に入った野島さんが、ビール注ぎ教習を始めている(笑)

ちなみにビールはサッポロ系、当然ながらエビスの生、そしてギネスのサージャーもついているので、あの「プシュッ」と泡立つ黒いギネスが飲めるのである。ビール党も楽しめるに違いない。これで、T.Y.ハーバービールとヨナヨナエールがあれば完璧なんだが、、、

「どうも、おめでとうございます!」

と入ってきたのは、Barオーパー門前仲町店の水澤君夫妻だ。

観て頂きたい、モエシャンドンのどデカボトルである。さすがやることが違うなぁ

「ありがとうございます!」と感動の工藤ちゃん。これ、いつ開けるんだろう。抜染する時はぜひ声をかけて下さい→工藤ちゃん

水リンのみならず、水リンの前年度のバーテンダー技能競技会日本チャンピオンであるカツマタさんもご来場。ちなみにカツマタさんはオーパから独立し、銀座並木通りにバー・フォーシーズンズを開いている。ここも素晴らしきバーである。

「長島農園のタケノコです!」


炭火でじっくり焼かれたタケノコが出てきた。堀たてのものをハンドキャリーで持ってきてくれたので、あく抜きも何も必要なし。皮付きのママじっくりと炙ったタケノコを豪勢に豪快にいただく。

ホコホコと熱いタケノコ片に木の芽味噌を塗って囓る。これ最高の気分である。


「やまけんさんこれ、タラコを酒粕に漬けたものです」

おお、これはもしやコイツを薄切りにしたのね!

ちなみに酒粕は某蔵の大吟醸粕であるとの由。

芸がなくて申し訳ないが、これまた最高。大吟醸の酒粕の風味が染みているせいか、魚卵臭くないのである。しかも塩分は辛くなく、しかし頼りなくもなく、燗酒を飲みたくなるいいあんばいにチューニングされている!

「こちらは京芋をだしで煮含めたものを揚げました」


こっくりとだしを孕んだ芋はネットリさっくりとしており、白味噌餡と融和していく。五十嵐君、あんたホントに板前だよ、と唸る。

そして本日最高の逸品が運ばれてきた!

「井のなかコロッケと命名しているんですけど、、、月替わりくらいでいろんな面白いコロッケを出そうと思ってます。本日は、蕎麦のコロッケです」


このコロッケを割ると、蕎麦をマッシュした中に挽肉などが混ぜ込まれた、ポテトと同じようなコロッケができあがっているのだ!

これが実に秀逸。蕎麦アレルギーの人には勧められないが、ポテトを使ったコロッケよりも、風味が強くネットリ感もあり、実に美味しい。醤油味のくず餡がまたマッチしている。この店に来たら井のなかコロッケは絶対に注文した方がいいだろう。

この後も旨い料理が数々並べられた。

■海老のすり身パン包み揚げ

■タケノコご飯

■長島農園ホウレンソウとハッサクのサラダ

■トビウオのつみれ汁

実はこれが素晴らしい椀なのだ。

トビウオといえば味と個性の強い魚だが、まったくしつこくなく上品ささえ漂う下処理で、プリンプリンな団子になっている。しかもこの椀のお出しも実にすばらしい一番ダシ。

「鰹節は、そりゃ最上のものではありませんけど、かなりはりこんでます」

という五十嵐君と工藤ちゃんの顔には、かなりの自信があった。うん、この椀、実に素晴らしいです。本物のお出しの旨さを実感できるこの一品、ぜひ味わって頂きたい。

「ホントにうまいね!」


長島君も自分の野菜がうまく使われていることを喜んでいるようだ。よかった。こうして食い倒れネットワークは無限の連鎖をしていくのである。


これが「井のなか」レセプションだ。

実はこの日から2週間たらずしかたっていないわけだが、その間に大きく修正が入っている。料理の塩加減、酒の温度の調整、そして店内のオペレーション。

正直言ってまだこの店、開店したてでオペレーションが上手くいっていない。席が多いのに3人しかおらず人手が足りない。調理もホールもまだスムースには廻っていない。今、席についても、オーダーに来るのも遅ければ、料理や酒が出てくるのも遅いということになるかもしれない。
それを予めご了承頂いた上で足を運ばれると愉しみやすいと思う。でも、もちろんそれはこれから修正されていくはずだ。

左から五十嵐、工藤、浅見の三氏。
ちなみに工藤ちゃんが持っているお燗づけマシーン「燗助(かんすけ)」に注目。

なぜか僕のマークが入っているのである。工藤ちゃんは義理堅い人だ。色んな人が彼を助けようとしている。おそらく一ヶ月後にはいろんな雑誌やメディアでこの店が紹介されるだろう。
時間はないぞ、オペレーション改革をいそいでね。

さて
正式開店後どうなったか?それは次回エントリでレポートしよう。
まずはおめでとう、工藤ちゃん!