新幹線から降りてすぐに仰ぎ見た山形の空は、それこそ抜けるような青さだった。改札を出たところに、山形県庁の職員にして、山形中の農村・集落をまたにかける地域興しコーディネータである高橋ノブさんがニマーっと笑って立っていた。
「よう、ヤマケンちゃん、待ってたよ。」
僕ら一行は、僕と嫁さん、フジテレビの撮影クルー3人の総勢5名だ。1月29日放映の「スタメン」を観た方は、まあどんな会の映像を目の当たりにしたと思う。まさにその撮影を兼ねた旅だったのである。
僕と嫁はノブさんの車に乗り、テレビクルー一行はワゴンタクシーでの追跡(!)となったのである。
昨年白鷹町を訪れた時に感動した、山形市内を望む山からの風景は、やはり絶品中の絶品だった。おそらく今頃はもう雪で一面真っ白だろう。
「ヤマちゃん、まあどんな会の加工場に行く前にョ、またうんめえ水があんのさぁ」
と車を向けた先には、五番御神酒(ごばんみき)という札が立てられた林があった。
林に足を踏み入れてすぐ、ん?と違和感を感じる。眼をしたにやるといきなり水面!
違和感は、あまりの透明度のため、水面を最初感知できなかったことに発していたのだ!
水面から数十センチ下には白い砂地。その砂がところどころ噴煙のように噴き上がり、水がこんこんと湧き出ているのだ。
「ここの水ん中にはサ、ちっちゃな海老が生きてるんだよ。その海老は水質が悪くなると生息できねーの。ちょっと掬ってみようか」
と高橋さんが柄杓で海老をおいかけ、すぐに柄杓の中に捕まえてしまった!
この写真の、柄杓の左上の方に黒く小さな影が見えるのがその海老ちゃんだ。この海老ちゃんを飲み込まないように水をそっとすする。限りなく清廉で柔らかい、超軟水のあま~い味が口中を冷やし、そして染みこんでいった。素晴らしい、、、これで緑茶を煎れたいものだ。
ちなみに山形市内からこの道を通ってまあどんな会のある白鷹町まで、なんと道一本で曲がらずに行けてしまう。民家をみやると、軒下に緑色のしわしわとしたものがつり下がっているのをみかける。
「あれが青菜(せいさい)だよ。漬物にするには、葉がぴんぴんした状態じゃ漬けにくいから、日に当ててしなびた状態にしてから漬け込むんだわ。」
なるほど、青菜漬けは一旦干してから漬けこむのか!陽光で干すことにより旨味も増すのかも知れない。ちなみに青菜と書いて「せいさい」と読むこの菜っぱ、激ウマの漬物であるいわゆる高菜の仲間なのだろうけど、植物学的に同じなんだろうか。すみませぬリサーチ不足です。
さて車は白鷹町へ入り、さらに上っていくと、道の脇に「まあどんなレストラン」の看板が掛かっていた!
「まあどんなレストラン」は、春から秋の間の、スキーロッジが閑散期になる間にまあどんな会が借り受けて営業する、予約のみのレストランだ。
スキーロッジだけに、景色は最高!実に雄大な山形の景色が拡がる。なんだろう、山形の山並みは、なぜか万人に懐かしいと思わせるような、枯れた味わいがある。出羽三山のような修験道の厳しいイメージもあるが、白鷹の山並みはとても優しく眼を癒してくれるのだ。
「あー 懐かしいなぁ、、、」
とつぶやいているのは、フジテレビのディレクターであるワタナベさんだ。彼はなんと山形出身。
「今回のロケ、無茶苦茶気合入ってるッス!」
ということなのである!
さてまあどんなレストランに足を踏み入れると、まあどんな会の面々が一同揃いのエプロンで立ち働いていた!
「あら、いらっしゃ~~~~~~~い!」
荷物を置いて厨房に入る。ここで彼女らの傑作郷土料理が食べられるのか!
と思って冷蔵庫を観て驚愕した!
「今日の料理にこんにゃくは入れないでください」
そう、何を隠そう僕はこの世でこんにゃくだけは食べられない!
物心つく前に、すき焼きに入っていた大量の糸コンニャクを喉に詰まらせ、戻してしまって以来受け付けないという、意識の形成前に深~く深層心理に刻まれた傷跡なのである。
ちなみにオーパ門前仲町店のトップバーテンダー、水澤君もコンニャクが食べられない!僕らは魂の兄弟なのである。自慢できないけど。
「いんやぁ~ やまけんさんが好きじゃねぇっていうから、今日の料理は芋煮もなぁんにも、こんにゃくいれてないんだよぉ!」
と、まあどんな会のリーダーである佐藤洋子さんが半分あきれ顔で言う!ごめんねぇ これだけは無理なのよ。
「あれ、何作ってるの、それ?」
「これはね、凍み餅(しみもち)。」
そう、カリッと揚げた餅をトロッと甘辛いタレにひたしたのが、まあどんな会の名物「凍み餅」なのである!
ご覧の通り全くの手作り。機械の入る余地がほとんどない、まさに土地の食べ物そのままの姿を残している人達なのである。
「さあ そんじゃぁ加工場に行く前にお昼ご飯を食べようかねぇ!」
やった!座敷に上がると、すごいラインナップの料理が立ち並んでいた!なんとこれが予約で食べられる定食デラックスバージョンなのである。
本当にテーブル一杯に、山形の農村の、本当に土の香りと地域の文化性の薫りがする食材が並んでいた!
■ワラビの一本漬け
醤油ダレに漬け込んだ長~いワラビの一本漬けは、飯のあてにも酒のアテにも最高なのだ!
■キノコと菜っぱの煮たヤツ、だと思う
ご覧の通り鮮やかな菜の歯触りと濃い緑の味と、甘辛い味付けが果てしなくご飯を呼ぶのだ!
■鮎の塩焼き 最初「アマゴ」と書きましたが鮎の間違いです(汗)
この鮎ももちろん天然物だ。内臓まで綺麗な味。
■アケビの味噌焼き
揚げたアケビの間にゴボウとニンジンと味噌で炒めた餡を挟んだもの。
アケビを食べたことがない人にはどう説明したらいいだろうか、、、茄子の身がもっとしっかりとしてほろ苦くて風味が強いものと言えばいいかな。これがまた白飯と酒を呼ぶのだ!
■特製のヤーコン漬け
ヤーコンは芋のような根菜で、シャキシャキした食感と糖度の高さで独特な風味を持つものだ。まあどんな会では漬物にしているが、これが実に抜群の食感なのだ!
ちなみにこれがヤーコンだ。
そしてこの綺麗な紅色は、実は木の実でつけているそうだ。なんてんのようなこの木の実、名前を失念したが、実に可憐な色づきの漬物なのだ!
そしてこれが無くては山形の冬は始まらない、青菜(せいさい)漬けだ。
しっかりとした塩で漬けることで、植物の乳酸と旨味がガチッと引き出される。ざくっとした食感、染み出てくる青菜のジュース共に最高である!
■芋煮(こんにゃく抜き)
はい、山形県の人には申し訳ない、こんにゃく抜いてもらいました。これがまた絶品!
関東以南の人間にはこの芋煮の旨さはあまりイメージできないだろうが、山形や仙台の里芋の旨さは実に格別なものなのだ!植えられている品種も、栽培上のこだわりも他産地には絶対に真似できないんではないだろうか。しっかりした食感がありながらトロリととろけ、ほのかに甘い香りが立ち上るこの芋はどうやったらできるのだろうか。謎である。
もちろん芋だけではなく塩蔵してあるキノコ類も豊富に入っている!これ、なんだっけ。タモギ茸だっただろうか、、、ネトッとした食感、濃い風味のダシが出る旨いキノコなのだ!
まあどんな会の人達からみれば「いつものご飯」なのだろうが、僕らには本当にご馳走以外のナニモノでもない。
「大根の煮付けにはよ、なんばんの粕漬けを少し入れてあるのよ。」
そう、なんばんの粕漬けは実は調味料にもなる!
大根の煮付けを通常通り造りながら、大さじ一杯くらいなんばんの粕漬けを加えると、途端に酒粕の甘さとコク、唐辛子の辛味とニンニクやゴマ、クルミなどの複雑な美味しさが解放されるのだ!
「これは美味いねぇ!」 早速真似することにした!
「あい、おまちどおさま。これが今年度版のなんばんの粕漬けです。」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっと
出たぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
これが今年度版の粕漬けである!
甘くて辛い!美味くて辛い!デモとんでもなく辛い!あのなんばんの粕漬けの今年度バージョンなのである。
「今年は昨年より美味しいよ。だってほとんど原料はみんなで作ったものだもの。」
この言葉はこのあと加工場にいって立証されるのだ。さて今年度版の味を味わってみる。
炊き込みご飯の上にちょいと載せて一口食べてみる。
最初、酒粕の甘く薫り高い粒子が鼻孔に抜ける。そして瞬間的に、唐辛子(なんばん)の強いアタックが舌をびりびりと震るわせる!そしてにんにく、クルミ、ゴマなどの複雑な風味が第二段階として鼻孔を抜けていくのだ!
「美味いねぇ~ 辛いねぇ~ いやぁ 辛い! やっぱ辛いよッ でもマジで美味い!」
「それにねやまけんさん、今年の漬物は昨年のより美味いわ。『やんばえ漬け』っていうんだけどね。」
いやもうはっきり言ってこの漬物がまた実に美味い!
昨年度、セットにいれた「まあどんな漬け」よりもこの「やんばえ漬け」の方が一段と旨い。
紫蘇の実やニンジン、キュウリ、大根などが細かく刻まれて漬け込まれていて、ご飯に載せるとプアッと香るシソの実と甘辛い醤油の薫りが堪らない!
ああああああああああああああああああああああ
最高じゃないか!
この昼ご飯だけですでに3杯、ご飯をお代わり。具のたくさん入った芋煮も2杯お代わり。
いつでもやってやるぜ!の臨戦態勢なのである。
そして一服した後、加工場に向かったのである、、、
(続く)