今年もまあどんな会の「なんばんの粕漬け」の仕込み時期が近づいてきた!
ということで山形は白鷹町にまあどんな会の面々を訪ねに行ってきたのだけれども、山形水先案内人である高橋ノブさんから、
「腹一杯りんご食べてもらおうと思ってなぁ。ここの朝日町ではさぁ、世界中の色んなりんごを作ってるんだけども、料理用とか色んな展開ができる原料になりそうなりんご品種も作ってるんだわ。」
と言われていたのだ。いつもの通りノブさんの車に乗って白鷹町を出て、近隣にある朝日町の役場にてりんご担当の阿部さんの運転する車に乗せていただく。
「さあ、これから山の中に入っていきますよぉ!りんごの畑の中に、ひょこっと一軒家が建ってるっていうような、りんごしかない集落です!」
そう言って車が分け入っていったのは、本当に道路にりんごの枝だがせり出している集落だった!
車を停め、一軒の農家さんの園地に、ずんずんと分け入っていく。ちょうど収穫の合間の茶の時間をしていた皆さんが僕らを迎えてくれた。
「まぁりんご食べてや」
と手渡されたりんごの蜜の入りようと言ったら無かった!
皮のまま齧り付くと、カシュッっという小気味よい音と共にジュワッと泡立ちながら染み出てくる甘酸っぱい果汁の香りが口に満ちる。酸味と糖度のバランスがとれた、旨いりんごだ!
「いま獲れてるのは「ふじ」ですね。ふじにも通常の品種と、着系と言われる色の濃い品種があって、市場では着系のほうがいい値がつきますけど、味は通常品種の方が旨いですよ!」
確かに、着系よりもこの通常のふじの方が味が強くて旨かった!彼はまだ20代前半のりんご農家だ。しばらく町勤めしていたらしいが、
「やっぱり四季が感じられなくて、もどってきちゃいました」
ということだ!素晴らしいではないか!
しばしりんご談義を訊いてゆっくりさせていただいた。「りんごかぁ、、、」と、少しトーンダウンしていた僕の脳と味覚に、最初からガツンとバッティングされたように刺激が入った!
「じゃあこれから集落を降りて、違う地域に登っていきまーす!」
阿部さんの先導のもと、今度は川を挟んで対岸の山の中腹の園地に降り立つ。
絶景が望めるすばらしい景観だ。
「ここはね、生協とか個人出荷ですぐに売り切れちゃう農家さんですよ!」
先ほどの集落のりんごの枝だの仕立て方とは少し違うような、園地の作り方が全く違うことに面白みを覚えるのだった。
「うちのりんごはね、ちょっと他の農家さんとは作り方が違うんだよ」
と言いながら横割りにしてくれたりんごの断面は、もう蜜だらけである。
ちなみにりんごに「蜜が入っている」というが、この蜜とは文字通り蜜であるということではない。これは、りんごの体内で生成されるソルビトールという物質が、完熟してくると細胞壁から染み出してくるため、このような蜜が入った状態になるのである。
だから蜜とはいっても蜜ではない。ただし、完熟しないとソルビトールが染み出ないので、蜜が入っているということは完熟である、つまり旨いということは明らかである。
りんごの講義を伺いながら、この日おそらく4個目くらいになるりんごをいただいた。かなりハラが冷えてきたが、実にレベルの高いりんごばかりで、食べざるを得ない旨さなのである。
「ではつぎに、、、そうだな、区長さんのところにでもりんご盗みにいくっぺや!」
むろん「盗む」というのは冗談だ。
この区の区長さんという方の家もまた立派な選果部屋つきのものだった。
「ちょうどいま、選果をしていたら雨が降ってきてね、」
と淡々と笑う区長。ここでもりんごを割ってみると、凄まじい溢れんばかりの、いや溢れた蜜がものすごい!
区長さんのりんごも味が凝縮されたもので、あの果汁ジュワッと湧き出る感が凄い!
そう伝えると、強面の区長がにんまり、なんともいえない、いい笑顔をする!
「さって、じゃあ不味いりんごジュースでも飲んでもらおうかい?」
というノブさんの声で、僕らは役場の近くにある、とある建物に入ったのである。(つづく)