やまけんの出張食い倒れ日記

いのしし旨い!

岡山のT君からイノシシが届いた。

留守電に、

「あのぉ~今、イノシシの血抜きをしとるんですが、いるようでしたら送ります。」

要るに決まってるぜ!食いたい!

このT君は、数週間前に築地の「うまいもん屋」で呑んでいる時に、「やまけんさんのブログみて岡山から来たんですよぉ~大満足でした!」と出会った若者である。市の職員でもありながら農業者でもある彼の目線が強く、まっすぐなところが一目で気に入った。その後、岡山物産展で出展していたという見事な桃太郎ブドウを送ってくれた。

品種は瀬戸ジャイアンツだが、同類のものと比べて明らかに栽培技術が上の人が作ったのだろう、超絶絶品であった。小売店では一房4000円以上になるのではないだろうか。

その後、また東京に来ると言い、「匠に行きたい」というので、御礼に寿司をご馳走した。

「東京の寿司も旨いですのぅ!」

と感動して帰っていったと思ったら、この電話である。イノシシ、大好きだぜ。

送ってきてくれたのは骨付きの腿(もも)肉、ロース&バラ、そしてスペアリブだ。全部で2Kgくらいあるだろうか。

「岡山ではどうやって食べるのよ。」

「そうですねぇ、モモ肉はトンカツならぬシシカツにして食べると旨いですねぇ、その際には味が濃ゆいので豚肉より屋や薄目に切った方が旨いです。ロースは焼いても佳いし、シシ鍋やシシ汁にしてもいいですよ。」

うおおおおおおおおおおおおおおおおお
なんちゅう旨そうな!

ということで早速 塩と胡椒を振り、小麦粉をはたいて卵に通し、パン粉をつけてカラッと揚げ、シシカツにする。

ぐ、 ぐ、 グレートに旨い!!
なんじゃこの優しい食感と、湧き出る芳醇な旨味!
獣肉特有の獣臭など全くしないゾ。むしろ、豚肉よりも上品。牛肉よりクセがない!
思わず5枚も食べてしまった。

これは、日本橋ぼんぼり京橋店の小池ちゃんの火の通し方を参考に中をレア加減に揚げてみました。ていうか分厚くてこうなっちゃった。これも美味なり。けど、個人的には火を通しきって脱水したほうが旨味が出ると思う。
野生のイノシシは、ジストマや寄生虫を持っていることが多くリスクが高いので、レアで食べてはいけません。私の揚げ方がはヘタなのでこうなってしまいました。皆さんは真似をされませぬよう、、、

あまりに旨いので久しぶりに加賀谷とタケを呼んでイノシシを焼く。

二人ともイノシシは初めてだという。「ちょっと匂いがきついんでしょ?」というのを、ふふふと笑ってとにかく焼いて食べさせた。

「!」

「う、旨い、、、」

二人とも、10秒ほど声が出ない。
それほどに旨いイノシシ肉だったのだ。ちなみに調味料は塩と胡椒だけ。
こんなに旨いのも、イノシシの血抜きと処理が旨いからだ。筋の周辺、血が混じった箇所は若干あの獣臭がしたが、それにしても上品な肉である。
バラとロースは薄切りにしてミソ仕立てのイノシシ汁にした(イノシシ肉を煎って油を出し、昆布出汁と共に煮る。根菜類をイノシシ油で炒めて一緒に煮て味噌で仕立てる)。
イノシシ肉はどんなに煮込んでも堅くならない。そして上品かつ野趣溢れる味である。
T君、ご馳走様でした。噂の奥方にいずれお会いしたいものです。

このイノシシ、関西以南ではかなりの個体が人里に現れている。山中に食べ物がないからである。そして人里でねらい打ちされるのは畑である。人間が食べて旨いものはイノシシが食べても旨い。なにせ、自然状態の植物ではなく、品種改良して味を追求したのが作物だから、彼らにとっては夢のご馳走である。畑を荒らさないわけがない。そう言うわけで、今や岡山の中山間地での栽培は、畑を電気柵で囲ってイノシシが入ってこられないようにしなければならない。当然、高いコストがかかる。

「だもんで、我々はけっこうイノシシを食べる機会が増えています」(T君)

イノシシは旨いが獣害は困る。
しかし獣にとってみれば、環境の大変動の中で山中に食料が無くなり、人里に降りざるを得ないのであろう。人の営みと自然の営みをどのように合わせていけばいいのだろうか、そろそろ人間の方が生活レベルを下げていかないといけないのかもしれないなぁ、と旨いイノシシを突きながら、それが実現可能なのかどうかを胸の中で問うてみた。