さて 帯広に行ったら必ず寄る店といえば、帯広インデアンカレーと吟寿司である。もう過去何回も書いているので今更解説はしないが、ここの牛トロ寿司を食べると、「生の牛肉を寿司になんて、美味しくないよ」という観念が一変するはずだ。脂の融点を計算し、特定の肥育農家の牛のみを仕入れ、そしてオリジナリティ溢れる秘伝の味噌で味付けをするというその手法は、とにかく一度試してみる価値ありなのだ。
実は今回帯広に来る直前に、吟寿司から生いくらの醤油漬けが大型タッパー一杯に届いた!僕の「全国出張食い倒れガイド」に掲載させてもらったことで、かなり喜んでもらっているらしく、ありがたくいただいた。ご飯よりもイクラの方が多いイクラ丼を3日連続で食べてしまった!その御礼も兼ねてと思って暖簾をくぐったのである。
「いらっしゃい! 、、、あっ やまけんちゃん!」
と、金ちゃん、息子のケンちゃん、そしておかみさんが迎え入れてくれる。
「なんだ来てくれたんだぁ、座って座って!」
「うん、でもこれから帯広の農協さんとメシにいくから、少しだけつまんでいこうと思ってさ。」
そう、JA幕別の皆さんとこれから焼き肉である。その前に少しだけつまんで、、、と思っていたのだが、やっぱりこのアテは大きくはずれることになるのであった。
この店にきて食べるべきは牛トロ寿司だけではない!十勝は海洋王国でもあるのだ。特にシャコ、穴子は絶対に欠かせない。みれば今日も旨そうなシャコが入荷しているではないか!
「シャコはね、雄雌がはいってるから、どっちも食べてって!」
ちなみにここのシャコは北海道産である。「築地から買ってるんじゃない?」と僕に連絡してくれた人が居るんだが、やはりこれは北海道の漁港で上がったものだそうだ。その産地名は何度聞いても忘れてしまうのだが、、、
「はいよっ 子持ちね!」
おおおおおおお
なんと端正なたたずまいだろうか。腹から覗く卵がはかなくも美しく、旨そうである!
卵をはらんだメスは、養分が卵に行ってしまっているから身の旨さはないが、しかしホックリとした卵のふうわいが格別である。これに甘辛のツメが絡んで絶妙の味わい。
「ほい、こっちはオスね!身の旨さを味わって頂戴!」
出た!吟寿司の仕入れの良さを代表する絶品シャコである。注文が来てから皮をバリバリと剥いて握るこのシャコに匹敵するネタは、北海道ならではのものだ。北海道で食べる寿司に、シャコは欠かせないと思うようになったのは吟寿司にきてからだ。
僕が日本最高と思う瀬戸内のシャコとも違う、もう少しキリッとした絞れた肉質と清涼な風味は、寿司ネタとして絶品だ。
「やまけんちゃんサンマの酢〆め食べてよ!刺身より旨いよ!」
北海道の秋刀魚が刺身で食べられない鮮度のはずがない。それをわざわざ酢〆めにするのには意味があるはずだ。果たして並べられた端整な酢〆め秋刀魚の、あまりにも美麗な外観にうっとりしてしまった!
いささかの崩れもない銀皮の剥き目、くっきりと厚い脂肪層、美麗という形容詞以外の何があろうか!
一口に頬張ると、秋刀魚の身は瞬時にトロリと溶けて無くなった。しかし舌の上には青魚の匂いは一片も残らない!酢〆めすることで余部な脂の特性を消しているのだ。ともすればダラリとした旨味の塊になる秋刀魚の身が、隙のない美しい香りの塊になる。それが酢〆めの効用だった!
「うま~~~~~~~~い!」
「そうだろう?そうだろう?」
金ちゃんは、客とのコミュニケーションで盛り上がっていく寿司職人である。カウンターに座り、出てきた寿司は瞬時につまみ、旨かったら「旨い!」を表現して食べ進むべきである!
そしてたたみかけるように、吟寿司第二の看板である穴子だ。
この穴子はきっちりと焼きの仕事が入っている。江戸前のふんわりした煮穴子ではない、穴子の味がギチッと詰まったこのスタイルが僕は大好きである。
「ようし それじゃあ行こうか!」
金ちゃんの目がぎらりと光り、そして牛トロの準備が進んでいく。
おおおおおおおおおおお
いつ来ても続々する瞬間なのである!
「へい! 醤油つけないでそのままね!」
といつものフレーズで牛トロ寿司、牛トロ軍艦巻き、そして牛トロ巻きが出てくる!
もはやこれらについてはその旨さを書き尽くした。美しさだけを掲載したい。
■牛トロ寿司
■牛トロ軍艦
■牛トロ巻き
いやもう最高である。一息いれながら金ちゃんとケンちゃんの仕事に魅入る。
「やまけんちゃん、だめだよもっと食いな!」
いやもう これから焼き肉行くから無理だよぉ と思いながらついついネタケースをのぞき込んでしまう。
寒い国でないと旨くないものの一つが海老だ。ボタン海老はそろそろムッチンムッチンに肥っていい感じだ!
果たしてそのはちきれんばかりの身は甘みと蝦味をたっぷり湛えた素晴らしいものであった。
そのとなりにある真つぶ貝が、これまたプックリとでかい、実にソソるプレゼンテーションだったのだ!
このつぶ貝がまた最高!ビキンビキンに引き締まった身を噛む毎に、特有の磯の香りと旨味がキューッと解きほぐれていくのだ。
いやあ ここらでやめとかないとさすがにきつくなるだろうな。本日はここで打ち止め。
「そんなこと言わないで、JAさんとの飲みが終わったらまた顔出しな!」
まじすか?では余力があったらということで、、、
「やまけんちゃん、ちょっと記念撮影しようね!」
と金ちゃんがバタバタとカメラを取り出す。ケンちゃんがニヤニヤしながら紙アルバムを差し出す。
「うちに来て頂いた特別な人だけを載せたアルバムです。やまけんさんも殿堂入りですョ。」
これがそのアルバムだ!
おおおおおおおおおおおおおおおおお
たしかに有名人ばかりである。
○○○とか○○○○○とか○○○○○○○○とか!
ここに僕も並ぶのである。
これぞ光栄の至りであった。食い倒れ冥利に尽きる。
勘定をしてもらおうとするが、「ダメダメダメダメダメ!」とお金を受けとってもらえない。うーん 悩むところだけどご馳走になります。
こうして一日目の夕飯第一陣が終了し、そしてこれから本陣へのまっしぐらなのであった。
(つづく)