「うちの店は南山というんですが、南山というのは全国に現在7店舗あります。僕の店は一乗寺にありますので、一乗寺の南山、略して「いちなん」です!」
京都の土地勘が全くないのでよくわからなかったのだが、一乗寺は京都駅から少し入ったところにある。河原町のホテルからタクシーでしばらく行った東大路通りのロードサイドに、目指す南山が発見されたのだ。
■「いちなん」 南山 一乗寺店
〒606-8114 京都市左京区一乗寺北大丸町51
電話番号 075-721-6937
営業時間 18:00-23:00
http://www.ichinan.com/index.html
Webページをみた印象とは違ってかなり(?)コッテリとした店構えだ!
表からバシバシと撮影していると、厨房内の孫さんがと目が合い「アハァー、恥ずかしいなぁ!」と笑いながら僕を出迎えてくれた。
「ようこそおいで下さいましたぁ!」
元気印の孫さん、人当たりの柔らかさは俳優のごときである。
入口脇に厨房カウンターがあり、テーブル席と座敷、そして二階席がある造りだ。
「二階席の上にも特等席があるんですよぉ!後でね、、、(ニヤリ)」
厨房に近いテーブル席に座り眺める。孫さんを含め3人がところ狭しと動き回っている。
メニューを観るとすべて良心的価格というか、学生が沢山入っているのをみても、大衆店価格である。
「やまけん、最初のビール何にする?ギネスでもいいし、ヨナヨナエールもあるよ!」
おっ じゃあまずはヨナヨナにしておこうかな!と、すたたたとアテがテーブルに並ぶ。
「まあまずはアテでビール飲んどいてね!肉とか焼いてくるからね!」
しっかり味の付いたキムチやナムルに加え、ズッキーニのナムルが出てきた。これがマジ旨。
熱を通ししっとりしたズッキーニがしんなり、シャックリとした歯触りだ。韓国産のズッキーニでないとこの味、このシャッキリ感がでないらしい。これ、おかわりしてしまいました。
それと旨かったのが、韓国風の塩辛。
「うちのお母ちゃんが、やまけんがくるっていったら『これだしな!』って作りに来よったんよ。」というその韓国風塩辛、よくこなれててビールのアテに最高であった!
さて そうこうしているうちに、京都大学農学部の若手助手ホープである大石登場。そう、しばらく前のエントリで賀茂茄子を送ってくれたのが大石である。
夜の予定がどうなるかわからなかったので事前には京都に行くと言ってなくて、今日になって「暇なら来てよ!」と連絡したのであった。
「いきなり呼ぶなよ~早めにいっといてくれよ~」
悪い悪い。でも来られてよかった!
「じゃあ、これ食べて下さいねぇ~ ハートですぅ!」
と孫さんが出してきたのが、牛の心臓ハツ、関西ではハートである。
ニンニク醤油で和えられたハツは、シャッキリトロリとした歯触りで鮮度の高さを間違いなく感じた!
この一発で内臓系の仕入れの素晴らしさを確認。続いてレバーがやってきた!
胡麻がまぶされたレバーを岩塩入りごま油に浸して食べると、このレバーがまた甘い!
色も赤身麗しく、綺麗な内臓だ。
「旨い!孫さんモツの仕入れ、いいですね!」
「うーん、やっぱりどこの業者さんから仕入れるかで決まっちゃいますからねぇ、うちがお願いしているところは、素晴らしいんですよぉ。だから僕は殆ど何もしれないんですけどねぇ(笑)」
さて お次は僕が取り寄せて感動した蒸し豚2品が出てきた!。
「手前のがアゴ肉、奥のが三枚肉です!」
皮付きの絶品蒸し豚は昨日紹介したばかりだ。そして割と堅いはずのアゴ肉が、ブリブリと歯を押し返す食感に柔らかく蒸し込まれている。
この蒸し豚の旨さを100%引き出すのが、韓国オフクロの味とも言える辛酢みそ「チョジャン」だ。
蒸し豚を食べる時にはいつも、韓国では豚の食べ方が洗練されているなぁと感嘆せざるを得ない。蒸した豚をタレに漬けて食べるだけで、なんて複雑玄妙な旨さを現出できるのだろうか。
まあとにかくこの「いちなん特製蒸し豚」は一度食べてみて欲しい。もう僕は自分の家で蒸し豚食べたい時は孫さんにお願いすることに決めた!
「はい~ やまけん、生ハム食べてねぇ!」
おお、出た!これは生ハムと言っているけど、冷燻された豚肉である。ベーコンの食感というより本当に生ハムに近いのである。
「うわっ 本当に生ハムみたい、、、ネットリしてる!」
と大石も喜んでいる!
冷燻と温燻の違いは一目瞭然である。どちらが美味しいということではないが、いずれ僕もぜひ冷燻にチャレンジしてみたいと思わせるネットリ感、風味であった!
「じゃあその生ベーコンとウインナーを焼いてみて下さいね!」
と出てきたのがこれだ!
このウインナーがまた旨いのだ、、、ウインナーは凄く塩梅が難しくて、過剰に味を付けるとしつこくなって旨くない。ギリギリ薄目の繊細な味加減が必要なんだが、いちなんのウインナーは絶妙なのである。
「ほい、豚焼いてきたよ!」
とカウンター内で焼かれた豚の肩ロース。
ゴロゴロとしたニンニクと一緒に食いまくったので、明日の吐息はもう想像したくないのである。
お次は豚三枚肉をサンチュに包み、特製のゴマだれを塗って巻いて食べる「サムギョプサル」である。
「鶏も焼けたよぉ」
焼き加減が重要なネタは厨房内で焼いてくれるのがこの店の特徴。カリッと最適加減に焼かれて出てくるのだ!
「はいぃ~ 今日はラムも焼いてみましたよぉ、火加減は保証しませんが、、、」
うおおおお 全然最高な火加減ですよ!の骨付きラムが出てきた!
ここは無二路か!というジューシーなラムである!
「学生向け焼き肉とは違うぞこれ、、、絶対に外観をもう少し変えた方がいいと思うけどなぁ、、、」と独りごちる僕であった。
「孫さん、モツ焼いて食べたいなぁ、モツ!」
「うーん やまけんゴメン!今日はあまり無くてね。関西ではホソっていう小腸くらいなんだけどいい??」
と言って出てきたホソがまた、とろける旨さなんである!
関東ではシロと言うけど、噛み切れないのが多い!ここのホソはトロッととろける感じで、しかも臭みが全くない端麗な味である!
「ぜーんぶ業者さんのおかげなんですよぉ。下処理が最高なんです。僕は本当に最低限の手間をかけるだけですよぉ」
と謙遜するがこの店、入店したらとにかくモツを大量発注するのが吉であろう。
さてこのいちなんのテーブルに乗っているステンレス缶がある。この中に満たされているのが、昨日のエントリにも少し書いた「ヤンニョム」である。
ヤンニョムは韓国の練り味噌というべきものだが、京都ではラーメン屋などにもこれが置いてあるらしい。しかし、このいちなんのヤンニョムは超特製なんである!
「実はですねぇ、、、やまけんに感謝しないといけないんです。まあどんな会のなんばんの粕漬けにヒントを得ましてね。もちろん僕、いの一番に買わせてもらって食べました!感動しましたよ、、、すごく複雑で美味しい!しかも、エゴマとクルミが入っているのに感動しました。で、うちで作っているヤンニョムにも使えないかと思ってね!クルミではなく韓国料理でよく使う松の実とエゴマを混ぜてみたんです!そしたら奥行きが深くなって本当に旨くなったんですよぉ!本当にいい食材を教えてもらって感謝です!」
おおおおおおおおおおお
まあどんな会のなんばん粕漬けがリスペクトされ、そして遠く離れた京都の地でこうやって美味しいヤンニョムに影響を与えている!素晴らしいことではないか!
このヤンニョム、うちに送られてきているのは、肉料理の際にかならず食卓に並んでいるほどの出現頻度である。どんな料理にも会う、万能調味料なんである!もし「いちなん燻製工房」で何か取り寄せてみようと思ったなら、絶対にこのヤンニョムを逃すべきではないゾ!
■いちなん燻製工房
http://www.ichinan.com/shopping-online.html
ここで嬉しいゲストが登場!絶品ケーキを焼いて下さった松下さんその人である!
本当に奥ゆかしい方で、最後の最後まで僕に名前すら教えていただけなかった。その方が披露パーティではフルーツケーキを焼いて下さり、来場して下さった。本当に嬉しかったのだ。
「松下さんのおかげでね、うちでノンアルコールドリンクで出してるアイスティーも美味しいのを教えてもらってね!」
というこのアイスティー、マジで絶品!「なんだこの薫りは、ピーチ?ローズ?何だかわからないけど複雑でフルーツ香がして旨いョ!」
アルコール大好きな人でもこのアイスティーは飲んだ方がいいゾ。脂が洗われて感覚をリセットできる!
松下さんも加わり、賑やかに鉄板が彩られていく。
カルビも脂を落とし、適度な部位にカットされているのに注目。
「僕は、脂を食べるような和牛の高いのは好かないんですよ。美味しいと思わない。赤身の旨さをきちんと味わえて、お客さんも安心して食べられる価格の牛肉を仕入れてます」
というのに僕も賛成。黒毛和牛の霜降り肉も旨いけど、サシが入れば入るほどいいという風潮には待ったをかけたい。実は僕のこのWebで焼き肉の話が入る時には必ず書いていることだけど、肉はサシより熟成が命だ!と思ってやまないのである。
「やまけん、イチボも食べてみて下さい」
と焼かれて出てきたイチボ肉も、リーズナブルで美味しい!
塊を焼いてレアで出てくるのを少し鉄板で温めて食べると、赤身のトロリとした旨さが立ってくるのだ。
〆はビビンパ。
「まだ食べるのぉ?」と言われながらガシガシ掻き混ぜていただく。この店のナムルは旨いので、ビビンパにすると最高に旨いだろう。ヤンニョムもタップリ放り込んで混ぜまくって、サンチュに包んでいただく。
この後、暖かいタレで和えた麺もいただき、満腹。お客さんも全員帰って片づけ進行中だ。
「そろそろ帰った方がいいかな、、、」と思ったら、孫さんがニヤッと笑って「第二部は上でやりましょう!」と。そう、この店の二階はライブハウスになっていて、そのまた上に登ると、気持ちのいい屋上なのである!
「ここはね、どんなに京都が暑くなっていても風がヒンヤリと吹いてて涼しいんですよ!大文字もばっちり見えますし、最高な場所なんです!」
おお、本当に居心地がいい!コーヒーが入り、静かに気持ちよくクールダウンするひとときがやってきた。
贅沢なことに、そのコーヒータイムのアテは松下さんのバナナケーキだ。しっとりとバナナタップリ、チョコレートも仕込まれたこのパウンドが最高に美味しいのだ!
なんで松下さんは絶品ケーキを売らないんですか?と訊くが、静かに微笑んで「そのつもりはないんですよ、、、」と言うばかりだ。夭逝されたご主人のことを想いながら焼いているというそのケーキや焼き菓子、絶品なだけに非常に惜しいのだが、いずれきっと他の人の口にも入るようになるだろうことを願って止まない。
「やまけん、これが僕の燻製器なんです!」
おお!これがあの数々の逸品を産み出す薫製機か!中に入っている煙突は、冷燻時には外に出て、室外でチップを燻して煙だけを誘因するようになっているのである。あー やっぱり屋上スペースとかあった方が燻製ってやりやすいよなぁ。ひたすらウラヤマシイ。でもまあ、燻製はプロに任せるか。
涼やかな一時を楽しみ、12時を回ったところでお開きにする。本当に気持ちのよい時間だった。
この屋上での会話で登った話題だが、いつか関西オフ会をやりたいとも思う。
「関西の美味しい店をもっと紹介しなきゃ!」
まったくである。「やまけんの全国出張食い倒れガイド」で関西編は、カレー三軒しか無かったしね。いずれやりましょう、、、
焼き肉「一乗寺 南山」は、ちょっとその前を通りかかっても気付かないような外観である。学生向けじゃないの!と思ってしまうだろうが、店主・孫さんのホスピタリティは最高である。ココでは書かない彼の波瀾万丈な半生と、南山という焼き肉レストランを巡る歴史は、彼の料理にいっそうの奥行きを与えていると思う。お金を無茶苦茶かけて、超高級な料理を食べに行くという感覚ではなく、工夫に工夫を重ね練り込まれた味、誠実な味を楽しみに行くのがいいだろう。予約する時に「食い倒れ日記をみて」と言えば、いろいろ用意してくれるだろう(と思う)。
今日も僕は、お土産に買わせてもらったまたあの蒸し豚とヤンニョムを食べるのである。ああ、夜が待ち遠しい、、、