さて佐藤家に行く前に、高橋さんに「面白いところ廻るけど行くかい」と言われ、もちろんついていくことに!
「白鷹町はな、川を挟んで一方が技術的な仕事、一方が農業や食品の仕事をする地域に分かれてるんだ。俺の家も実は白鷹にあるんだけど、技術的な方にあるんだぁ。」
訊いてみると、技術的とはいっても、一般の工業ではない!
「ん~例えば紙漉きだな。白鷹町は和紙の有名な産地なんだわ。」
ここで、ザ・地域興し屋の顔がいきなり覗いた!
「実はよ、紙漉きをやる人間がほとんど居なくなってさ。やばいっていうんで、俺の女房に修行させてやらせているんだよ。だから女房は和紙職人として認定を受けてる。またこれで周りからは『あいつは女房を売った』なんて言われてさぁ(笑)」
な、なんと!
スゴイ話である!
地域の消えゆく伝統工芸を守るために、自分の伴侶をその職に就かせるとは!
「もっとも、女房が職人始めたら、和紙の原料の楮(こうぞ)の生産を俺もやらなきゃいけなくなっちまってね。忙しいったらありゃしないんだ。今は農家さんにお願いしているんだけどね。」
とフッフと笑う高橋氏。この人、極めつけの確信犯である。
「荷物とりにいかないといけねーから、ちょっと寄ろう」
と、その和紙工房に寄らせてもらう。
もう作業は終わっていて、これは和紙を漉く台を掃除しているところだ。
傍らには、漉いた和紙の水分を抜くために重しを載せているものがあった。
高橋さんの奥さんがまた素敵な女性であった!あまり話はしなかったが、パワーと暖かさがある。高橋さんのような陽性タイプの人に、同じく陽のエネルギーを持つ人が一緒になっているというのは、考えただけでもパワフルなことだ。和紙葉書を買わせて頂く。
「さてと、じゃあこの辺の産直場を廻ろうね。」
車でぐるっと町にでて、まずはスーパーに隣接された、野菜の産地直売所へ。
「俺は、ここは好きじゃないんだ。スーパーが客寄せに造った直売所で、利用されてる。直売所は、不便でもいいから独特な場所にないといけない。あと、とにかくそこでしか出来ないものをやらないと意味がないんだ。」
農家の直売所は、5年ほど前から火がついて全国で展開されている。しかし数年経った現在では様々な問題が噴出していることを知っているひとはあまりいないだろう。商圏の食い合いも問題だが、もう現役を退いた高齢農家さんが、趣味でやっている産品をタダ同然の価格で出すことがあり、意欲のある若手農家が自分の販売に見合う価格がつけられないという問題もよく耳にするところだ。
でも、一般の人にとっては直売所はなんとなく楽しいワンダーランドである。僕もこの直売所で不思議なものを見つけた。「岡ノ台ごんぼ」つまりゴボウである。
「実はこれが和種のゴボウの古いそのままの姿なんだよ!一部の農家に眠ってた種を最近、復活させたグループがいるんだ。でもね、ここのごんぼよりもいいのを出す直売所があるから、そっちにいこう!」
と、すぐさま移動。着いたのは田んぼの中建てられたビニールハウス内で営業している直売所だ。
ここでも売り子のおばちゃん達に「やあやあ」といいながら入っていく高橋さん。いったいこの人のネットワークはどこまで、、、
「なりはひどいけど、こっちの方が数倍の活気があって、地元の人も面白いもんを出してくるんだよ!ほら、あったよ、これが岡ノ台ごんぼだ!」
おおおおおおおお
これは初めてみた!お分かりだろうか、長さは通常みかけるゴボウの3分の1くらいと短く、その代わりに中太りの姿形だ。握っても親指と中指が届かないくらいの太さがあるのだ。
「こいつを鍋に入れると旨いンだぁ、、、」
もちろん購入!こういう地域にしかない野菜を見つけたら絶対に買い込むのが僕の習性なのだ!
「やまけんちゃん、そういえばさ、面白いもんがあるんだよ!りんごの漬け物って食べたことある?」
な、なに?????
「りんごをね、塩漬けにしてあるんだよ。こいつがねぇ、、、口じゃぁ旨く説明できねーけど、素晴らしいもんなんだよ。よし、回り道していくかぁ!」
と、やおら携帯を取り出し、生産者さんに「いまから分けてもらいに行っていいかい?」と確認をし、車は大きく回り道をすることになった。
「これから行く生産者さんは、直売所を仲間内でいっしょに立ち上げて成功させた人で、自分で蕎麦も打つし、すごく多才な人なんだぁ。ああ、それとビールの原料のホップ栽培ではこの辺で知らないひとはいねぇ。」
そう、実は白鷹はホップの産地なのである。
さて生産者さんのご自宅に歓待される。
「そうかぁ、食ったことないんかぁ、ちょっと待っとけ。」
と冷蔵庫をごそごそと探って、持ってきて下さったのがこれだ!
うおおおおおおおおおおおおおおおお
間違いなくりんごだ!
リンゴが塩をされ、重しをのせて発酵させたのだろう。色が適度に抜け、しなしなしているが、まさにリンゴである。
ナイフを入れるとこんな感じだ!
「直売所に試食品をおいとくと、パインと間違える人がいるんだよ。」
と言うように、テクスチャーは正体不明の果物という感じだ。
さて口に運ぶと、りんごよりも洋梨のまだ熟していない食感のようにシャリっとする。そして微かな塩気を感じた後に、熟成された果物の香りと酸味、抑制された甘みが噴出する!
「おおおぉおっ、、、これは初めての味覚だ、、、」
美味しい! しかし初めての味覚世界であり、その世界の受容に時間が少しかかる。なんというか、高貴な味だ!決してキワモノ的な味ではない。切り分けてお茶受けに出しておけば違和感なくみないただくだろう。いや、違和感無く、ということはないな、みな驚き、感動するだろう。
「昔はこの辺では当たり前のように漬けてたんだけどなぁ。落ちたリンゴを漬けるんじゃなくて、最初から漬物用に、いい実を選んでたんだぁ」
ということだ!いや実に素晴らしい!文化をみてしまった、、、
確実にこの日、僕の味蕾とシナプスは、味覚のダイナミックレンジが拡がる体験をした。感動である。
御礼を述べて辞する。
「いやどこまで拡がるんですかね高橋さん、、、」
「まだこれからだんべ。」
そう、夜はこれからなのだ。一路、佐藤さんのご自宅に向かうのであった!
(続く)