今日は秋田県太田町の米の仕事で秋田入り。この冬はじめての雪景色に出会った。途中で止んだが、車のフロントガラスにシンシンと当たってくる雪を見ていると、いかに現在の関東で冬を感じにくくなっているかを実感してしまう。
空港から1時間少しの道すがら、産地の直売所に寄って頂くと、また関東ではみない面白いものが沢山あった!
「ヤマモト先生(←と呼ばれている)、秋田では、芹(セリ)は根っこも美味しく食べるんですよ。ほれ、こうやって売っているのも根がきれいに洗ってついたまま売ってるでしょう?」
おおおおおお 本当だ!関東では芹の根はきれいに取られて売り場に並ぶが、秋田ではこの根を賞味するという。そう、千住葱のエントリでも書いたが、植物の根は実にその植物そのものの味がするものなのである。しかし芹の根の部分を好むとは恐れ入った!
「だから秋田県では他県と違って、根が旨い品種を植えているんですよ。」
なんともビックリである!根が旨い品種なんてのがあるのかぁ!
「昔はどの家庭でも田んぼの畦の間に植えていたもんですが、最近では基盤整備とで田んぼをきれいに作り直してしまうので、芹を植えるスペースが無くて。だから芹専用の田んぼがあるんですよ。」
そう、芹なんて実はそこらへんに生えているものだったはずなのだが、、、これはまた、芹の根っこを食べに来ねばなるまい。
太田にあるもう一つの直売所を覗くと、素晴らしいアイテムを発見!なんと秋田県が世界に誇るスモークである「いぶりがっこ」の原料となる、いぶり大根である!
昔のエントリを読んだことがある読者さんならおわかりだろうが、いぶりがっことは、干し大根を燻したものを麹などで沢庵(たくわん)に漬けたものだ。ちなみに「がっこ」とは秋田弁で漬け物のこと。いぶした漬け物という意味なのである。
枯れ木のようなテクスチャーだが、鼻を寄せると確かに燻煙香がする!直売所には複数の農家のお母ちゃんが商品を持ってくるので、このいぶり大根もいくつかある。そのそれぞれの燻煙香がオリジナルなのだ!
考えてみれば、いぶりがっこは家庭によって大根の味、干し具合(脱水の具合)、燻煙の木の種類、塩加減、漬け床の材料によって千変万化の味になるはずだ。文化多様性万歳!秋田を旅行することがあったら、空港のお土産屋に売っているいぶりがっこではなく、郊外にある産直所で買うことが出来る、真空パックされただけの無愛想ないぶりがっこの一本ものを買い求めて頂きたい。大概、生産者の名前が書いてあるから、できれば複数購入して、味を比べてみて欲しい。本当に全部違う味なのだ!
さて太田町の農協事務所に行くと、玄関口に漁協の軽トラが停まっていて、なんとハタハタをトロ箱で販売していた。
「一箱3200円でいいよ!」
と、ブリコの詰まったハタハタを販売している。こんな内陸まで売りに来ているところをみると、おそらく水揚げが多すぎて売れ行きが悪いんだろう、ということだった。
会議が終わった後、生産者さんと話しをしていたら、
「ヤマモトさん、ぜひうちの米を食べてよ!今すぐ持ってくるからさ!」
とわざわざ米をとりに帰って持ってきてくださった!
貴重な、特別栽培米である。ざっくりいうと化学肥料と農薬使用量を通常の半分以下にして育てる農産物を特別栽培と呼べるのだが、栽培方法の大きな変更を余儀なくされるので、通常栽培から転換するのは大変な苦労を伴う。
「やっぱり通常栽培と比べると収穫量が落ちるんだよね。あと、米の粒が大きくならないから、通常米と同じ網目だと落ちる米が多いんだよ。」
米は、粒の大きさが規格化されており、定められた網目(メッシュ)から落ちてしまう小さな米は等級が下がってしまう。で、化学肥料と堆肥などの天然資材では肥料成分が化学肥料とは違うため、作物の大きさが必然的に変わってしまう。端的にいえば化学肥料を使うと作物の図体がでかくなる傾向があると思う。でも、化学肥料の割合を少なくした方が旨いと、僕は思う。
この国の農業技術の世界では化学肥料と有機質肥料の差異について語ることがタブー視されているきらいがあるのだが、流通関係者としての個人的な眼からは、ある程度以上の技術を持つ生産者が栽培したものについては差があるといわざるを得ない。ま、その分、作物の重量が減ってしまうのだ、きっと。
ということで脱線したが、減化学肥料で栽培しているので、米粒の大きさも若干小さくなってしまい、等級が下がってしまう率が高いということなのだ。米穀店やスーパーで特別栽培米をみて欲しいのだが、おそらく通常よりは高い。なんでかな?と思う人も多いだろうが、そういうわけなのだ。では味は絶対に通常栽培米より旨いか?といわれると、それはそうとは言い切れない。生産者の技術、産地に由来する土質・水質による味の差があるだろうから、、、
けれども、農薬と化学肥料の使用量を減らし、苦労して作られている米を応援して欲しい。さらに味の違いがどうか、試してみて欲しい。
「ま、俺たち生産者からみたら、明らかにこっちの方がウマいっす。」
と彼は断言していらっしゃった。それがすべてだろう。そんな苦労をして作られた米だ。これはきっちりと味わせていただくことにする。
秋田にはそんな食材が一杯なのだ。秋田県人は口下手で宣伝もヘタなので、都市部で秋田をアピールするのには無理があるように思う。だから、こちらから秋田に出かけるしかないな、とも思う。
しかし、秋田県の課題は、旅人が秋田の本当の”家”の文化に触れる環境がないということだろう。よく友人から「そんなに美味しいなら私も旅行に行きたいから、いいコースを教えて」といわれるのだが、僕のblogを観て頂ければ分かるとおり、観光ルートではないところに素晴らしい秋田の文化があるのである。一番いいのは、農家に民泊させていただくことだが、つても何もなければ夢物語だ。
グリーンツーリズムという、農家民宿を拡張したような構想・動きがあるのだが、これがもっと簡易にできるように整備して欲しい。秋田、山形という東北の素晴らしい文化では、グリーンツーリズムはすっぽりとはまるはずだ。うーん そういうプロデュース出来たら面白いのになぁ、、、
生活者の皆さんはそういう声を色んなところであげましょうね。というオハナシ。