12月6日朝、やっと書き上がりましたぁ、、、先週はマジで忙しすぎ。
冬と言えば鍋、鍋と言えば、主役の具材は魚や肉だとしても、どうしても欠かせないものがある。そう、葱(ねぎ)だ。
関西でも最近では食卓に上るようになっている、白く太い軟白部分が優美な長葱。僕の家では必ず納豆の薬味用に葱を常備しているし、無論薬味以外にも焼いたり似たりと、かなり汎用性の高いマストアイテムである。
さて
「葱商(ねぎしょう)」という業種をご存じだろうか。文字通り葱だけを扱う流通業者のことである。
流通に関わる者として、僕もその存在をうっすらと知っては居た。長葱のみが上場され取引される市場が東京の下町・千住にあるということ。そこで取引される葱は選り抜かれたものばかりで、業務筋にしか並ばず、小売店で見かけることはない。しかし、そんな特殊市場をこの眼で見たことはなかったのだ。
「やまけんさん、葱商の安藤さんを紹介しますよ。」
と声をかけてくれたのは、このところ1週間とおかずに会っているバードコートの野島さんだ。実は今年の初頭、バードコートを舞台に、雑誌「やさい畑」食べ比べの連載向けのテイスティング会をしたのだ。テーマはもちろん長葱。主立った種苗会社の葱を10種集め、葱を煮る・焼く・生の三種で食い比べをしたのだ。その時に安藤さんが駆けつけ、テイスティングに参加してくれた。実に的を得た、的確なコメントをくれた安藤さんが持参した千住葱は、ここだけの話だが10種の種苗会社のどの葱とも違う、プロの業務用に特化された凄みのある品質だったのである。
その後、彼の店である「葱茂(ねぎしげ)」に遊びに行こう、行こうと思っていながら足が伸びなかった。そして今回、野島さん宅で大・鍋パーティーをしようということになり、その主役として、安藤さんが極上の千住葱を持ち込んでくれるということに相成ったのである。
「鶏肉だけさばいちゃって、葱茂に行きましょう。ここから10分くらいのとこです。」
と、ダアン、ダアンと中華包丁で奥久慈シャモ2羽分をぶつ切りにしながら野島さんが言う。
「やっぱりねぇ、葱の質が明らかに他と違うんですよ。実はこれから、僕の師匠の和田さんの店(銀座バードコート)と、大阪の「あやむや」さんっていう店にも葱を送ることになったんですね。これもみんな食べてみて即決だったんです。『値段はどうでもいいから、いいものを送ってくれ』ってね。プロはそういうモンなんですよ。」
ふうん、すごいなぁと思いながらバードコートの包丁類をみていたら、なんと「葱茂」の刻印入りの菜切り包丁を発見!
「の、野島さん、何すかこれ!?かっちょいい、、、」
「あぁ、それは安藤さんが取引先さんにあげてる菜切り包丁でね。僕らみたいに肉を切るのが主だと、使う包丁は刃が厚いんで野菜は切れない。薄刃の菜切り包丁だと、繊維を壊さないですっと切れるんですよぉ」
うーん 俺もこの包丁欲しい!
3Kgの鶏肉をさばいて、葱茂へ行く。千住のToposから裏通りに入ってすぐの住宅街の中に、一階がガレージになっている3階建ての瀟洒な家がある。
なんとここが葱商「葱茂」なんである!
「こんちわぁっす」
おお、安藤さん!半年以上ぶりの再会である。
この人はなぜかいつも黒いファッションに身を包んでいる。どの写真観てもそうなんだよな。とりあえず葱商っていう格好ではない感じだ。
20畳くらいのガレージスペースで、もう大半の出荷を終えたのだろう、段ボールが一山残っているだけである。
ちなみに彼は葱市場の「仲卸」である。市場は卸と仲卸から成っている。卸が大きなハコを持っていて、そこに全国から集荷し、仲卸に対してセリを行う。
この卸売市場、県や市町村が開設する公設市場と、民間の市場がある。公設市場の方が様々な保護があったり、規模が大きかったりするのだが、民営の市場にはそこにはないおもしろさがある。その一つがこの「専門性」だろう。千住の場合は長葱専門だが、まだまだ枝豆専門の市場など様々な民営専門市場があるのだ。
で、仲卸の彼は、卸のところに集まった長葱をセリで買い求め、顧客に販売していくというのが業務になる。通常の仲卸は、スーパーや飲食店に卸すわけだから数十種類の品目を販売するわけだが、安藤君は長葱だけ!である。従って、どこで買う長ネギよりも圧倒的に高品質でなければならない。そしてその通り、千住の葱市場には、とにかく最高品質の葱が集まってくるようになっている!埼玉の越谷などの近郷産地の葱農家から、本当にいい品質の葱がけが上場されるのだ。プライドの高い農家ばかりだそうで、「出来が悪かったら一切出さない、つまりその年の1回分の儲けは捨ててしまう」という。ちなみに葱は生育に6ヶ月くらいかかるので、年に二回のチャンスしかないのだ。このように、業務用のプロが目利きをする市場に、農家のプライドを賭けた逸品が集まる。そうでなければ専門市場が生き残っていけるハズがない。
「いやぁ、おかげさまで忙しいですよ。貧乏暇無しってね。じゃ、やまけんさんにおれんちの扱い品を観てもらわなくちゃね。」
と言いながら、ガレージ奥にある冷蔵倉庫の扉を開けた。5度くらいの冷気が流れ出てくる向こうに、宝の山がみえた!
「もう、取引が大体終わってるから少ないけど、朝一番で来てもらうと、葱で埋もれてるよ!」
観てのとおり一本の麻縄で数十本の葱を縛ってまとまりにしている。これが葱取引の単位なのだそうだ。
「でも、別に本数が決まってるわけではないんです。その辺は持ち込む生産者さんによってなんだか違うんですよねぇ(笑) で、今日の鍋にはこっちの極上品を持っていきますよ!」
と言う、これが極上品だそうだ!
「まぁ、まだ霜にあたってないからこれからもっと美味しくなるんですけどね。今日のところはこれでいいでしょう!」
この葱束、持ってみたらかなりズシッと来る。15Kgくらいはあるだろうか。商売柄、葱の等階級の決め方に興味があったので訊いてみた。この箱を観て欲しい。
葱茂が出荷する葱は、金・銀・銅というグレード分けがされている。等級はおそらく肌のキメの細かさ、巻きの多さなどが評価の対象になるのだろう。これに加えて葱の太さを極太・太・中・細・極細と分けている。
「僕らみたいな焼き鳥屋だと、肉の間に葱を刺していくようになりますから、あまり太いのは不都合になります。」(by野島さん)
ということだから、これは使う目的によって最適なものが選ばれるのだろう。
冷蔵庫から出してきた、画面手前が極上品、奥が僅差だが質が落ちるものだという。その差は僕にもよく分からなかった。長葱に賭ける人たちだけがわかる品質差なのだろうか。
ちなみに葱の味は、この根を食べることで確認できる。根が付いた泥葱が売ってたら、だまされたと思って洗って食べてみて欲しい。葱の香りが強く拡がるのにビックリするはずだ。
プロの視点から選ぶ葱というのがどんなものなのか、安藤さんに訊いてみた。動画なので。データ量が多い(20MB弱)ので大変だろうが、関心のある人は観て頂きたい。
■安藤さんの語る「いい葱」とは
その1 (動画 18.9MB)
その2 (動画 17.4MB)
さてこの葱商「葱茂」の取引先は、ほとんどが業務用である。プロの飲食店向けということだ。八百屋には出回らないのである。
「普通の葱から比べたら高いですもん。プロにしかわからない価値ってのがあるんだと思います。焼いた時の中身の甘さ、トロ味の強さ。蕎麦の薬味にした時には、ほんの少量でもビリッと強く効き、香りが高いこと。市販のモノに比べて1本から採れる薬味の量が全然違うこととかね。そして何より、保ちがいいんですよ、保ちが。」
という彼の扱う最上級葱だが、なんと僕ら一般の人でも買えるチャンスがある!
「お歳暮用に、この箱にバンと千住葱を詰めて、2500円(送料別)で発送致します!」
2500円+送料なら、気の利いたお歳暮としては安い!いや、葱だろ?と思われる方も多いだろうが、まあここの葱で鍋をすれば分かるはずだ。モノが違う。おいら、御遣い物にすることにしたぞ。
なんとここで、安藤さんと僕は昭和46年生まれの同い年であることが判明!なんだよ早く言ってくれよ。以下、安藤「君」と呼称することに。一気に距離が近くなった。
「じゃあ、鍋食べに行きましょう!」
3人で葱、鶏肉、スープを持って野島家に移動する。今日は野島一家、バードコートの力ちゃんと常連客軍団、千住大橋ちかくにある田中屋の若旦那ノブちゃんという布陣だ。
ワインで乾杯しながら、最初に繰り出されてきたのは絶品豆腐と千住葱のマリアージュだ!
「実はこの日のために、川越の小野食品からいろいろとプレミア物の豆腐を頼んでるんですよぉ!」
小野食品は、今や超有名になってしまった埼玉県川越市の豆腐屋だ。
http://www.nt-slowfood.org/fooder/tan_01.html
バードコートでもここの「なごり雪」という、ムースのようなスペシャル豆腐に高知の塩にオリーブオイルをかけて供するが、豆の強い香りとなめらかな舌触りが実に最高。その小野食品がいろんな豆腐を生み出しているのだ。
青大豆を使った緑色の豆腐のおぼろ・絹・木綿。白大豆と半々にマーブル状に仕上げたものなど、おそらく行列しても買えそうにないものばかりだ!
緑豆のおぼろ豆腐はもう絶品!限りなく甘く、舌がとろけてしまいそうだ。
木綿豆腐にタップリの千住葱を上に載せて食べる。ちなみに薬味として小口切りにする際、僕がまな板で切っていたら安藤君がチッチッチとやんわり制止する。
「葱をまな板で切ると押しつけられて繊維がこわれちゃうんですよ。だから、プロは小脇に抱えてシャッシャッシャッと切るんだね。」
なんと!そういうことかぁ、、、こだわる蕎麦屋などでは数本の葱を抱えてこうするのだそうだ。納得!
こうして刻まれた薬味としての千住葱は、とにかくヅンと辛みと刺激が鼻に抜ける!蕎麦屋がこれを使うのも納得である。しかし、小野豆腐の繊細な香りと甘みを殺すことはなく、引き立てている。
「この辛みの強さが、加熱した時に甘みに変わるんですよ!」
と安藤君が自信満々に言う!それを確認するために、今日は鍋料理も彼の葱を活かす物ばかりだ。
田中屋のノブちゃんが色んな魚の頭とカマを持ってきてくれる。半割にして鍋にして、、、最後の出汁は最高に旨いはずだ!
「俺は魚はいやっていうほど食べてるから、もういらないんだけど、、、鶏食べようと、鶏!」
と言いながら、どんどん頭を割っていく。
ちなみにこの写真右上の大皿に載っているのは鯛のカシラ。小さくみえるだろうが通常サイズ。ということは、左上の赤い頭のアコウダイは土鍋に入らないくらいの凄まじい大きさなのだ。
高級魚ハタのカマとカシラと千住葱を鍋に。蒸し物にすると最高に旨いプルプルネットリ濃厚なハタだが、これを淡い出汁で煮ると上品かつ芳醇!魚の旨さと、煮た葱のこれまたネトッとした中身の旨甘さが合わさると、こいつは何にも代えられない!
そして生粋の江戸っ子ノブちゃんが、お江戸の鍋「ねぎま」を作ってくれる。
「まぐろはさっと火を通すだけでいいから!すぐ食べてねー!」
という声に大殺到する箸たちよ!(↓ヤラセではありません)
「う、旨い!」
刺身で食べる用のマグロの、しかも中トロ部分を、やんわりしゃぶしゃぶと加熱すると、脂が溶け出す融点になり旨味も増す!マグロと葱の相性は言うまでもない!ねぎまってこんなに旨かったのか!
「もう面倒だからマグロブロックで煮ちゃうよ。」
うわっデカイまぐろである。この遠海魚の出汁と葱が絡むと実にきっぷのいい味になるのはなぜなんだろう?。
ほのかにピンク色を残したまぐろと葱を口に放り込むと、肉のような食感と旨味を感じた後にサクリ、ネットリとした葱の風味が、脂気を中和しほどよい旨さ感覚をつくってくれる。
もうみんな鍋・皿に大殺到である。
合わせた酒は、神亀酒造の「仙亀」。精米歩合を上げずに醸した純米は、どしっとして複雑な味がする食中酒だ。やっぱり純米だよなぁ。
「いや実はね、ネギ焼酎ってのを作ったんですよ!呑んでみて!」
な、なぬ?ネギ焼酎だと???それが本当に、酒造メーカと組んで安藤君がつくっちまったらしいのだ。
ネギ焼酎「やっちゃ場」。やっちゃばとは市場のことだ。んー 味についてはコメントは差し控えておこう。ネギの香りと風味がする。ん~、、、話題にはなるよな、これ、、、
「鶏食おうよ、鶏!」
というノブちゃんの声で、奥久慈地鶏の水炊きが始まる!昨晩からとっておいてくれたガラスープで、地鶏のぶつ切りとネギを煮込んでいくのダ!
レア加減に煮て引き出して食べる地鶏はやっぱり最高。ネギとの相性、、、いうまでもないよなぁ。
その他、本当に旨いもんが乱れ飛んだのだ。
(↑これ、例のトリュフオムレツね)
そして最後の〆はやっぱり雑炊!鶏スープと魚スープを足して雑炊にする。ネギタップリ。
ぐおおおおおっ 本日最大級の旨さ!
思わず鍋にもう一杯作ってしまっても、即座に無くなる旨さであった!
こうして千住ネギを堪能する目的は、多角的な料理法にて(鍋だけだけど)様々な検討を重ねられ、出席者全員の胃袋を満たしたことで達せられたのであった。
さて
この葱茂の極上千住葱が、一般の人でもお歳暮用に買える!ということは先述したとおりだ。2500円(送料別)で特製の箱にギッシリと入れて送ってくれる。
※送料は最初込みだったのですが、相場が一気に高くなったので、送料別にさせていただきますとのことです!申し訳ないがお問い合わせ下さい!
「もしヤマケンさんのblog経由で20人分以上売れたら、『葱茂』の刻印入り菜切り包丁を一本ヤマケンさんにあげますよ。」
なにぃいいいいいいいいい
欲しいぃいいいいいいいいいいい!
みなさんどうか私に葱専用菜切り包丁を入手させて下さい(笑)
というのは冗談ですが、本当にお歳暮用に使えるので試してみて欲しい。大晦日にこれで鍋というのもいいし、蕎麦の薬味にはプロの太鼓判がついている。関西の人にはようやく馴染みが出てきたくらいの長葱だが、こういう一級品を食べて判断して欲しいと思う。そうそう、銀座「バードランド」と大阪の「あやむや」では今、葱茂の葱の扱いが始まったはずだ。常連さんはめざとくねぎまと食べて頂きたい。
お歳暮用の問い合わせは下記へ。
■葱茂
http://www.senjunegi.com/
〒120-0034 東京都足立区千住1-7-6
有限会社葱茂
電話 03-3381-0160
ファックス 03-3881-0108
担当葱商 安藤将信あて
お問合せメール:info@senjunegi.com
※注文時に「やまけんのWebを観て」と一言お願い!
ちなみに葱が旨くなるのはまだこれから。霜に当たると、野菜は甘みを増すのだ。今年は暖冬なのでまだそこまでいっていないのだが、晦日に向けて待ち遠しいではないか!
安藤ちゃん、伝統の千住葱の灯をこれからもともし続けてくれ!