僕のよく知る人たちが執筆した2冊の本を紹介したいと思う。
まず、これは今まさに新刊書として並び始めた本だ。
「危ないものを作りすぎた」
徳江倫明 著
誠文堂新光社刊
1680円
著者の徳江さんは、僕にとっては大事な人だ。彼は、有機・特別栽培の農産物の専門流通業者としては老舗の「大地を守る会」の創世期のメンバであり、その後あの「らでぃっしゅぼーや」を立ち上げ、代表取締役を歴任した人物だ。その後、農産物の第三者認証に関するコンサル会社の社長を経て、現在は食品の安全性を認証する「日本SEQ推進機構」の代表である。
僕が徳江さんをみかけたのは、学生時代に大地を守る会やらでぃっしゅぼーやが主体となって開催した、第一次産業を盛り上げようというイベント「DEVANDA(出番だ)」の開会式だ。武部農相(当時)らが列席する中、開会の辞を述べる、やたらと存在感のでかい、髭のかっこいいオッサンがいた。がっちりした体格と鋭い眼光、渋い鋼のような筋の通った声で、高らかに第一次産業の復権を謳い上げていた。
「こんなカッコイイ人が、有機の世界にいるんだなぁ、、、」
と強烈な印象を受けたことをよく覚えている。ルックスは大事だからね。
その後僕はシンクタンクに入り、3年後に農産物流通のベンチャーに転職する。その会社に、徳江さんも執行役員として(当時)参画することになっていたのだ。初めて徳江さんに引き合わされた日のことは忘れられない。まだ入社を決めかねていた僕に対し、
「やまけんちゃん、こういうのはね、3人がバラバラにやってても進まないんだよ。一緒に(会社で)パワーを合わせて事業を立ち上げようじゃないか。」
その一言で僕は転職を決定したようなものだ。憧れの人から口説かれたら、これはもうしょうがない。
その後、徳江さんと僕は多くの時間を一緒に過ごすことになった。プライベートも含め色んな面をみせていただいたが、いまだに敬愛する人であり続けている。
その徳江さんが「そろそろ本を出そうかなぁ」と言うので、僕が自分の本を出版した誠文堂新光社の御園という担当者を紹介したのだ。話は進み、幾多の苦労を経て、見事上梓された。関係者全員に拍手を送りたい。
誰もがこの表紙を観て、引きつけられるものがあるのではないだろうか。鉄条網のパテをバンズで挟んだこのデザイン、色んなものを象徴している。丸善のOAZOでは3カ所くらいにこの本を置いているらしいが、表紙のビビッド感が引っ張っているだろう。装丁は、これまた僕の著書の表紙デザインをしてくれた、クリエイティブマックスの和田さんだ。彼のデザインは本当にスゴイ!本当は本の装丁とはケタが違う広告デザインが主な仕事なのに、安い装丁の仕事を楽しんでやっていただいている。今年度末あたりを予定している僕の次ぎの本も彼にお願いする予定だ。
で、肝心の内容だが、著者がこれまで携わってきた農産物や加工食品の生産・流通における「安全と安心を確保するための方法」として、何をすればいいのかということを、主に生産・流通に関わる人たち向けに解説をしている。もちろん、消費者にも読んでもらうことを念頭に書かれていて、1,2章あたりは「そうだったの?」という箇所も多いはずだ。
特に傑作な内容がある。消費者アンケートなどをみると、「農薬の情報を開示しろ」という回答が多いのだが、じゃあ全部表示してみよう、という試みだ。ある県(県名は伏せられているが)のハウス栽培トマトに使われた農薬等を真っ正直に表示したら、いったいどのような内容になるのか、という実験的な試みをしているのだ。そこに記載されている農薬の種類や量を観たら、思わず絶望的に笑いたくなるに違いない。しかしそれは国が定めた安全基準には適合しており、違法ではないのだ。つまりそれは「安全と判断される」のである。
このような内容は、いたずらに消費者の不安感を煽るために書かれているのではない。むしろ逆だ。消費者が過剰に「安全・安心」を求めるほど、生産と流通のコストは上がっていく。しかし、今そのコストを消費者が負担するつもりがあるのかどうかは疑問だ。そこに着地点はない。その着地点として必要な社会的な仕組みとしての「認証」というシステムを、どのように創っていくかと言うことが、本書の主題なのだ。
後半部分はこうした話が専門的見地から語られていくので、ISO22000シリーズとかなんたらとかが出てきて、全くの素人には難しい内容かもしれないが、ぜひトライして欲しい。