やまけんの出張食い倒れ日記

常夏の楽園・沖縄を食べ尽くす! 第2日目 驚嘆の一撃! コッコ食堂「地鶏ソバとオムレツ丼」

 さて朝食後は一路北部へ。この日は名護市に泊まって、沖縄北部を満喫することにしているのである。

「北部編は、高校時代の仲間のチカシちゃんにアテンドしてもらうからさ!」

この沖縄の日々で強く感じるのは、卓と地元の仲間達との付き合いの深さである。卓の高校時代の親友であるキッペイは、卓の「内地からのダチをもてなしたい」という呼びかけに応じて、この旅行プランを作り、そして本当にそのプランが実行可能かどうかを確認するため、車で全コースを廻ってくれたのだという。

「”気持ち”があるかどうかが大事なんだよ」

というのがキッペイの決め言葉だ。気持ちを大事にするのが沖縄なんだよと言うのだ。もう、僕と加賀谷は彼らに参ってしまった。沖縄は、飯が旨いし気候もいいけど、何より人が素晴らしい。

「じゃーやまけん、海洋博みていこうね!」

と、あの有名な水族館でジンベイザメやマンタを観て、園内の熱帯植物園を冷やかした後、昼飯。僕の九州の弟分からコメントがついている、沖縄そばの名店と言われている岸本食堂に行くのだが、残念ながら閉まっている。

「うーん 残念だけど、もう一店、旨いっていう評判の店があるから行ってみようね。鶏そばらしいんだけど、、、」

といって車を走らせること10数分。道脇に「地鶏そば コッコ食堂 あと○○キロ」という、素朴というか稚拙な手書きの看板を便りにするが、「あと2キロメートル」という看板の100メートル先くらいの広場に、「コッコちゃん食堂はここ」というような看板がみえる。

讃岐うどんの名店にこういう秘境系の店が多いが、沖縄でもありそうな予感がしてくる。手書き看板はお世辞にも旨そうなシズル感が皆無である。

大体、「営業中」という看板が雨ざらしで風化しつつあり、常に出ているに違いない風情を漂わせている。このアバウト感、買いである。


車を降り、全く店舗などなさそうな小径を下る。かなり心配になる寂れた道である。歩きながら我々一同、探検でもしている気分になる。

程なく一件の小屋が出てくる。本当に「小屋」である。と思ったら、「地鶏」という看板が出ているので、ここが「コッコ食堂」だとわかる。もうこの時点で我々のワクワク感は頂点に達しつつある。

幼稚園のような下駄箱に履き物を入れ、プレハブ内に足を踏み入れると、そこは畳敷きの食堂であった。


テーブルを囲む若い女性陣が立ち上がり、「いらっしゃいませぇ~」と迎えてくれる。はっきり言って若い女の子が4,5人いるとは思えない環境なのだが、何なんだろう?時間は11時半過ぎで、僕らが最初の客らしい。

壁をみると、当然ながら手書きの切り抜き品書きがある。

黄金そば 600円
地鶏オムレツ丼 2000円
鶏飯 1000円

ん? 地鶏オムレツ丼がなんで飛び抜けて高いんだ?と思ってよく目をこらすと、2~3人前と書いてあった。うーむ フツフツと闘志がみなぎってくる。
キッペイが聴いたという評判は黄金そばだろう、これは旨いらしいというのだから、押さえだ。しかしオムレツ丼ってのは、面白そうである。

「黄金そばとオムレツ丼だな、、、みんなも食べようぜ!」

「いや、、、やまけん、俺たち全然腹減ってないよ、、、」

という卓とキッペイを尻目に、おねーちゃんにオーダーを通す。僕と加賀谷はフルサイズの鶏そば、きっぺいと卓は二人で一つの鶏そば、そしてオムレツ丼を一つである。

、、、さて、、、


ここからが長かった。

待てども

待てども


何も出てこない!


バイトのねーちゃん達は5人くらいいるんだが、食器洗いでもしているのか、一向にそばを持ってくる気配がない。


「パイナップルお食べ下さい!」


とパインを切ったモノを出してくれたが、俺たちはそばとオムレツ丼が食いたいのである。結局、都合20分は待っていただろうか。これも沖縄時間だろうか。

そして他のお客さんも3人くらい入ってきたあたりで、ようやく黄金そばが運ばれてきた!

「おまたせしましたぁ~」

なるほど!予想通り、卵がふんわりと麺の上に乗っかっていて、その上には鶏肉を甘辛く煮しめたものが鎮座している。

「うーむ 綺麗なプレゼンテーションだ、、、 いただきますっ!」

スープを啜ると、これはもうきっちりと鶏のスープである。なんだか、沖縄に来てから鶏スープを飲むのは久しぶりな気がする。やはりカツオだし+豚肉だしという組み合わせが多いんだろうか。

鶏肉はジューシーに煮しめられていて、ソーキとはまた違った旨さだ。卵はあらかじめフライパンかなにかで炒められているらしく底に焦げ目が付いている。フンワリとして旨い卵。これを崩しつつ、水面下から麺を引っ張り出すと、コシのある太い麺がお目見えする。音を立ててすすり込み口いっぱいに頬張り噛みしめると、慈愛に満ちた優しい味がする。

「おおお、、、 こういう方向性もアリだなぁ、旨い!」

そう、旨いのである。コッコ食堂、おそらく養鶏業者が直営している店だろう。鶏肉、ガラ、卵は無尽蔵に入手できるに違いない。果たして、バイトの女性に訊いてみたら「マスターの弟さんが養鶏農家さんなんですよ」とのことであった。

と、そうこうしているうちに、本日最大のショッキングひと皿が出てきたのであった!

「オムレツ丼(↓)でーす」

みよ、このスケール感! おそらく使われている卵の量は8玉くらいあるだろう。その下に敷かれたご飯の分量は、たとえて言えばジャポネの「親方」より少し多いくらいであろう。とにかくどでかいオムレツは鶏肉と青菜が混じっており、それがご飯に乗せられた上から中華風の甘辛醤油餡がかかっている。

このあまりの迫力に、我々一同は笑うしかない。

「本当に驚いた時とか、想像を遙かに超えるものに出会った時、人間は笑うしかないんだね(笑)」

というシャープな一言は、卓の言である。

そうこう言っても始まらないのでがっつりといただくことにする。結論からするとこのオムレツ丼、かなりイイ線いっている。大量の卵には、沖縄特有の野菜である「ふーちばー」(よもぎ)が入っていて、くどさやしつこさを緩和している。オムレツの中にはやはり鶏肉が入っていて、これでもかこれでもかと言わんばかりの攻撃である。

「ん~ 旨いからみんなも食え!」

と3人の別皿によそうが、「やまけん、俺、すこしでいいよ!」とキッペイと卓は早々とギブアップしている。

しかし、僕と加賀谷はかなりいい食べっぷりを見せたと思う。とりあえず、これがきっちりと完食させていただいた証拠写真である。

「沢山たべましたねぇ~」

とおねーちゃんが下膳に来る。

「バイトさんなんですか?」

と訊くと、面白い答えが返ってきた。

「うーん 私らは元々は週末にこの店にご飯を食べに来たんです。そうしたらマスターが『手伝いに来い』っていうんで、面白そうだから来てしまいました。」

なんだそりゃ!
どうやらこの店、沖縄内でもちょっと噂になっているらしく、各地から食べに来る人がいるらしい。しかし、客をバイトにハントするあたり、ここの親父はかなりヤルな。

「そんな成り行きで働き始めるなんて、てーげーでしょ?」

はい! 「てーげー」とは「もう、たいがいにしろ!」の「大概」の意らしい。その「てーげー」という口調が何とも素人臭さを感じさせ、佳い。

気に入った! ちなみにあまり触れなかったけど、そばはマジで旨かった。オムレツ丼は、基本的には5人くらいで食べる用だと思う。しかしこの量と味であれば、かなり人気は出るだろう。この絶妙なロケーションも、食い倒れの観点からいえば非常に面白い。

「ごちそうさまでした!」

会計をすませ、来た森の脇の道を歩いて登る中、不思議ワールドを満喫したという充足感で一杯になったのであった。