今回は日帰りで秋田である。日帰りというのは実に辛いものだ。大体空港というのは郊外にあるため、空港から目的地まではさらに1時間以上をかけねばならない。往復2時間に会議を加えると、日帰りでは飯を食うのがやっとということになる。こう言う時に、空港に旨い店があると嬉しいものだ。宮崎空港の「魚山亭」が大好きなのはそういう理由である。
で、秋田だ。ここ数ヶ月、最低でも月に2回は秋田に出張が続いていることは述べた。秋田というのは外食文化よりも内食文化の色が濃い地域で、秋田県のポテンシャルを最大限に発揮した旨い郷土料理にありつくまでにかなり時間がかかった。この辺も読者の皆さんはご存じだろう。ま、店との出会いがあるまでに相当右往左往したのであるが、実は大きな落とし穴があった。秋田空港に、入門編とも言えるよい郷土料理屋があったのである。
========================
先回来た時にはまだ真緑の田んぼだったのが、1ヶ月足らずで稲の穂が黄色みがかり、穂が張り充実を始めている。今年は作況指数が105くらいになりそうだというのがよくわかる、豊作年だ。とはいっても、きょうび豊作になると貧乏になる。米の単価が下落してしまうので、産地としては売るに困る状況なのだ。それは悩ましいことだが、でもやはり稲がたわわに稔っていくのを観るのは嬉しいものだ。
「今日は昼に、農家さんがやっているレストランに行きましょう。」
N氏が車を差し向けたのは、空港から車でわずか10分程度のところにある、農家が経営しているというレストランだ。レストランと言っても、外観は普通の家の二階。モロヘイヤうどんなどの麺類を製造していて、それを食べさせるのがメインの店らしい。靴を脱いで(下駄箱があるのだ)店内にはいると、中はこぎれいなログハウス風だった。
■ゆう菜や
秋田県雄和町向野字前開45
018-887-2866
http://www.pref.akita.jp/fpd/nookaminshuku/sanpo-08.htm
モロヘイヤうどん、野菜の天ぷら、本日の一品などが並ぶゆう菜家セット1050円を大盛り(200円)にして頼む。
モロヘイヤを練り込んだうどんはよくみかけるが、よく考えたらあれはネバネバするので、粉のつなぎになるのだろう。見た目を緑にするだけではないんであった。運ばれてきた膳は完全に野菜と穀類で構成されたものだ。
オーナーが農家さんだから、自家野菜中心であり、どう考えても新鮮。天ぷらもうどんも旨かった。秋田に来たら絶対どうこうというのではなく、地元の人たちが昼食を食べに来るというような感じで、満杯の客を迎えていた。
さて
本日の仕事を終える。田んぼの中にヌボっといきなり近代的建築が建っているというアンバランスな農業試験場に、あきたこまちなどの銘柄米の稲穂が飾られている。この試験場であきたこまちが生まれたらしい。
================================================
さてそして空港である。秋田空港の2階には数店舗のレストランが入っているが、エスカレータを上がって一番最初に目に付くのが「杉のや」という、民芸風の外観の店だ。ディスプレイや品書きをみると、わっぱめしや稲庭うどんなどの郷土料理が並んでいる。こういう店ってかなり微妙。郷土料理を出す店という位置づけはすぐにわかるのだが、旨いものが出てくる試しがないというのがほとんどではないだろうか。しかし、それ以外のセレクトはなさそうで、あとはなんだかカフェレストラン風の店しかない。秋田の飯を食べる店は、空港ではここしかなさそうなのだ。まあいいか、と思い入ることにした。
民芸調なのに洋装のウェイターさんがメニューを持ってきてくれる。
「何か秋田を満喫できるようなメニューありますかね?」
「あ、それでしたら、、、 一番お高いメニューなんですが、秋田三味御膳というのがあります。」
『秋田三昧』は2075円だ。確かに安くはないが、内容はかなり充実している。
・鰰(ハタハタ)の麹漬け
・比内地鶏とマイタケ煮物
・とろろとんぶり
・蕗(フキ)の葉ご飯
・がっこ(漬け物)
・稲庭うどん
これだけ付いてきて2000円ならいいかと思い、これをオーダー。
程なくして運ばれてきたのがコレだ!
あまり期待していなかったのだが、なんだか結構充実している。それと、一品一品がしっかり調理されているような感じだ。
■蕗の葉ご飯
メニュー写真をみただけだと、高菜の漬け物みたいなのでご飯を巻いた物かと思ったが、違った。
「フキの葉で山菜ご飯とフキの煮物、ニシンを巻いて、蒸してあります」
手が込んでるなぁ、、、ご開帳したのがこれだ。
なんとまあ美しいたたずまい。ご飯を食べると、ほのかにフキの葉の香りが鼻に抜ける!ご飯もきちんとほどよく蒸されていて、インスタントな出来ではない。
「う、、、旨いじゃん これ、、、」
初っぱなから、いい意味で予想を裏切ってくれる。ニシンの身をほぐし、併せて食べる。どこの料理なのかはわからないが、とても美しいご飯であると感じた。
■鰰の麹漬け
ハタハタは秋田を代表する魚だが、このハタハタの寿司が最高だ。寿司と言っても握りではない。米や麹で発酵させた、いわゆる飯(いい)寿司だ。なれ鮨といってもよい。前に和歌山でサバの深なれ鮨を食べたが、あの部類である。しかしハタハタの寿司は非常に上品で旨い!今回食べたのは麹(こうじ)漬けで、厳密には寿司とはいわないようだが、純米酒の最高のつまみになりそうな味であった。
■チョロギの漬け物
がっこ(秋田弁で漬け物)の中に、あのチョロギがあった!関東、関西にはこれを漬け物にして食べる習慣はほとんど観られないと思う。東北だけですな、コレが観られるのは。コリコリしていて旨い。思わずこの後、空港売店で買ってしまった。
■とんぶり
■比内地鶏とマイタケ煮物
これに稲庭うどんがついてくるので、かなりお腹にも溜まる。
「旨いね、ここの料理」
というと、ウェイターさんが微笑んで
「ありがとうございます。実はこのメニューは、結構お得だとお思います。」
とのことだった。後で秋田県庁のN氏やI氏に訊いたところ、
「空港ですから、ヘタな物は出せないと言うことで、わりといい物を使っているはずです」
と仰っていた。
飯、旨ければ全て佳し。日帰りのあわただしい出張の中、充実した食空間に出会ったのであった。