いやぁー 久しぶりに血のたぎるいい夜だった!
まだ六本木3段活用を書き終わってないけど、酔いに任せて書いてしまおう。酔っぱらい食い倒れは久しぶりだ。今、秋田に来ているのだ。明後日からタイ出張だというのに、秋田で飲みつぶれているのである。しかも今日は、ご存じ秋田を代表する祭事である竿灯祭りの真っ最中である!竿灯って最高だ!今までは「提灯あげるだけだろ?」と思っていたが、全然違った!あの玄妙な竹竿のしなりが、心をしなやかに惹きつける、極めて魅惑的な祭りだったのであった。
秋田県は、先日書いた太田町という米作地帯の仕事と、もう一つ別件で、大潟村の仕事をしている。大潟村は、八郎潟という湖を干拓して出来た、日本でも有数の大規模田園地帯である。日本の田園といえば、非常に小さな田のクラスターの集まりであるが、ここでは新規の土地に入植者を募ったため、最初から大きな面積を一生産者が保有できるという好条件だったのだ。
この大潟村には奇縁がある。僕が大学院時代、農業とインターネットに関するセミナーの講師として招かれたのだ。その際には、講演料と別に稲庭うどん10Kgといぶりがっこ3Kgをいただいた。それが秋田との初めての出会いだった。そして今年、この大潟村でのある検討委員会の村外委員として、就任する運びとなったのである。
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秋田市内のアルバートホテルまで車で送っていただき、一息いれてから竿灯を観に行くということになっている。
「いや、まんずお疲れ様でした。竿灯祭りを観てから一杯やりましょう。1時間後にお迎えに挙がりますので、チェックインして風呂でも浴びて下さい。」
しかし、一息つくどころか、山積している別件をリモートで片づけなければ何もできない。ホテルのインターネット回線とFAXを駆使して企画書と見積書を作成し、東京の企業に送付しているうちに、ホテルを出る時間となった。
竿灯祭りといえば、東北を代表する祭りの一つだ。しかし僕は実際には観たことがなかった。僕は高校の時から7年間、和太鼓をやっていた。全国のとんがった郷土太鼓を見て回ってはいたが、竿灯は太鼓芸ではないので、ノーマークだったのだ。正直、「それほど惹かれないなぁ」と思っていた。
しかし!予想をはるかに上回る素晴らしい祭りであった!
「長い竿に提灯が連なっているのは、稲穂を表しているんですョ。」
そうか、これは稲穂なのか!この、総重量にして60Kgくらいはある稲穂提灯をぐぐっと揚げ、片手で掲げ持った後に額だけで支えたり、手を離して腰だけで竿を支えたりという荒技を競い合う、まことに男っぽい芸能なのであった!
上空を吹く風に竿はぐぐっとしなり、持ち手はそれを手元の角度を微妙に調整しながら支え、片方の手で扇子を扇いだりして余裕をみせる。なんともいなせだ!
見物客も、ぐわっと倒れそうになる竿を観て「おおおおおおお」と声をあげながら熱狂している。「どっこいしょぉおおおどっこいしょぉお」というかけ声を上げながら、持ち手を鼓舞している。桶胴太鼓で打ち込まれる囃子の直線的なリズムで、腹の中がグワングワンと沸いてくるのである。
しばし観覧した後、余韻にひたりながら秋田市内一番の繁華街である川反(かわばた)の奥へと足を運ぶ。
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■食酒や ふきのとう
http://www.f8.dion.ne.jp/~yama_bk/fukinotou.htm
秋田市南通亀の町5-27 山蕗1F
018-833-9750
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「ここは、山蕗という割烹に併設している、気楽に入れる店なんですよ。で、若女将は僕の同級生です。」
座敷にはすでに酒肴が並んでいる。これがまた、秋田ならではの皿ばかりだ。
「これは『カスベ』ですねゃ。エイを煮込んだものです。軟骨の部分まで柔らかくなってるんですよ。」
噛みしめてみると、エイ特有のアンモニア臭はほとんどせず、ゼラチン質を多量に含んだ、こっくりと旨味の濃い魚肉だった。
もずくは、「これがもずく?」と言うほどに「ザキッ」という歯応えのあるものだ。乾物ではなく生であることは間違いない。
「これは鰰(ハタハタ)の寿司ですねゃ。私たちが子供の頃はトロ箱一つで100円程度でしたから、おやつと言えばハタハタを食べてました。」
今や高級魚のハタハタがおやつ代わりである。うーん
ハタハタ寿司は、和歌山のサバなれ鮨や琵琶湖の鮒寿司と同じような飯寿司である。しかしその個性は非常に上品で高貴な香りだ。これだけで酒がどんどん進んでしまう。
「はい、日本海のウニ!」
と運ばれてきた殻付きのウニは、何も言うことのない、ひたすらにクリーミーに甘い品だった。
「いや、秋田県の人間は総じて口下手なんですよ。でもそれではこれから何ともいかなくなる。山本さん応援して下さい!」
モチロンですよぉ
私は旨いもんがあるところは完全に応援します。この他、助役とはじっくり様々な話をした。県庁から出向で村の助役に任じられている彼は、秋田県の産業振興に情熱をかける素晴らしい方である。僕がこの仕事を引き受けたのも、彼の熱意と、ある意味、行政らしくない現実感とバランス感を持った態度に惹かれたからだ。大潟村は、外部の民間の力を導入していこうと志向している。安易に合併をせず独自に前進しようとするその態度は、多くの市町村が学ぶべきだろう。
酒は徹頭徹尾、地酒「飛良泉」の山廃純米である。きりりと締めあげられた酒質で、食中の口を程度よくほどけさせる美酒である。この他、別の純米吟醸を頼んだが、上立香ばかりが鼻につく、よくあるつまらない吟醸だったので、以後脇目もふらずに飛良泉を飲み続けた。
「山本さん、くじらは食べられますか?」
モチロンである!そう、前回も太田町の仕事で県の人に連れて行ってもらった「海味」にて、塩鯨鍋が旨いと聞いていたのだ。一も二もなく所望する。
濃厚な味噌ベースのスープの表面は、鯨のコロ(皮つきの脂身を干したもの)から滲み出た脂でギトッとしている。コロの刻んだのと茄子、豆腐とネギが鍋の具だ。
「この茄子が入ってるのが、味のポイントなんですよ。」
と助役が仰る。はたして口に運んでみると、コロのねっとりしつつあっさりとした食感が、茄子の香りとマッチして旨い!出汁の風味も美味しく、この鍋は実に風流である。
先日食べた比内地鶏のきりたんぽといい、こんなにこってりした味の鍋があるのは、秋田の厳しい冬の寒さに耐えるため、脂肪を蓄積する意味合いもあるのだろう。その環境下では、塩分を強くして血圧を上げ、寒空に立ち向かう必要があったはずだ。かように食文化には意味がある。近代栄養学の割り切り方ではつまらないのだ。
この他、岩ガキやガッコも食べ、実に満悦。そして〆はやはり稲庭うどんである。
冷えた稲庭うどんを啜る。やはり東を代表するうどんといえばこれである。
「実は、商業ベースに乗らない稲庭うどんがあって、これはその名字が「稲庭」というんですが、その店を訪れる人にしか出さないうどんなんです。マスコミや代理店や小売店には出さない。料亭にも出さない。そう言うところのが最高です。今度入手できたら送りますよ!」
ぜひ!
楽しみである。
いやー 食った食った。竿灯で感動し、先日食べられなかった塩鯨の鍋をたべることができ、満足だ!
しかし、本日の最高のご馳走は助役の人となりである。なんといっても竿灯で高く高く持ち上げられた提灯を見上げる助役の顔は、口を軽く開けて子供のようにニンマリしていた。一瞬、僕を連れているのを忘れて魅入っていたに違いない。その表情を僕は忘れることがないだろう。しばし、その笑顔に魅入ってしまったくらいなのである。男というのは、笑顔で人生を語るものなのだな、と思った。