結婚式があけて初めての開店日。寿司処 匠に行く。ネタも全て新しくリフレッシュで一番いいタイミングだ。
「どうだい ゆっくり休めたかよ?」
「いや、まだ引っ越しが終わんないんだ。」
お疲れさんである。
と、ネタケースを覗くと、なにやら小さい切り身が、、、
シンコだ!
「なんだよ もう出てきたか!」
「今年初のシンコ! すっごい手間かかるから限定だけどね!」
もう今年もそんな季節になってしまったのだな。嬉しい。この日は、昔、関連会社で一緒に仕事をしていた山崎君と、その同僚の牧野ちゃんとの久しぶりの飯である。一通りコースを食べた後、シンコと対峙する。
「悪いねぇ、シンコは手間がかかるから、コースには入らないんだ。」
そう、シンコは、魚自体はそれほど高くない(出回り時期は高価だが)のだが、膨大な手間がかかる。だから、とてもじゃないが3500円のコースには入れられない。そして単品では、結構な値段だ。
それでも頼む価値がある。大体いまから1ヶ月の間、大きさが変わってくる。出回り当初の今は、実は味としてはあっさりしすぎていて物足りないくらい。人間でいえば12才くらいか。半月ほどもう経って16才くらいになった頃が、僕には美味しいと思える。けど、味の問題じゃない。
「シンコを食べた」
というのは、粋かどうかの話なのだ。
小さい切り身を加藤ちゃんが、技巧を凝らして握り始めた。
「これだけはヤマケンサイズは勘弁してよ。」(加藤ちゃん)
そして出てきたシンコだ。
豪勢なことにシンコ6枚くらいつけてくれている(日によって変わるので何枚ヅケかで文句を言わぬこと)。
即座に口に放り込む。小さな身から淡いコハダ味と香り、酸が感じられる。まだ味は乗っていない。けれど、これが粋というものだ。12才の処女の味を存分に味わってしまった。うーん
こうやって書くと、またみんな頼むからすぐに無くなってしまうのだろうなぁ。シンコは、先にも書いたとおりムチャクチャに手間がかかる。匠には今、板前が加藤ちゃんしかいないから、なおさらだ。なので、見つけたら即、注文だ。
わりとネタが単調になる夏の寿司を彩る、粋なオンナの味を楽しもう。