2004年6月 7日 from 出張
(23時45分 とうとう完結まで書きました!)
(その1から続きます。読んでない人はこちらからGo!)
水澤君の課題部門の時間だ。ステージ向かって右側で演技が始まる。マティーニは、以前にも書いたとおり彼の得意中の得意種目だ。カクテルの基本といえるこのマティーニ、おそらく他の出場者も拮抗した実力だろう。
この審査で重要なのが、「適正な分量」だ。商売としてカクテルを出すのだから、人数分のグラスに注ぎ終わった段階で、飲み物が余っているようでは無駄になる。かといって必要な分量が調合されていなかったら、それは「お出しする商品にならない」ということだ。だから、マティーニについては、5客のグラスの他に一つ小さなグラスがあり、余り分を注ぎ黙視できるようになっているのだ。これが実にわかりやすくて、みんな足りないと言うことはおおむね無いのだが、大きく余す人がたまにいる。
が、しかし!われらが水リンは驚いたことに一滴の余りもなくフィニッシュした!観ていてこれほど誇らしく思ったことはない。ここでも回線余力がある人には、マティーニ調合の様を観ていただこう。
観客も食い入るように一人一人の演技を見つめている。10組が2部門を行うので、タップリ2時間かかる。その間、ずぶの素人が観ていても、だんだんと傾向がつかめるようになってくる。まず、味はともかく審査員の主観評価というのが重要らしい。これは、いわゆるバーテンダーとしての所作、雰囲気だ。傾向としては皆、一つ一つの動作をきっちりキメる。中には力が入りすぎていると思うような人もいる。動作ごとにビシッと力を込めているのだが、まるでボディビルコンテストを観ているような気になってしまう。その点、水澤君の動作はとても自然だ。動作を停めずに決めているのだ。まるで流れるようなフォームだ。これは、動画を観ていただければおわかりの通り。どうひいき目を抜いても、他の出場者たちの中で、これほどスムースで大きく優雅な動きは皆無だった。
オーパの若手、内藤君が言う。
「ぼくらは、水澤が、この日本で一番と言っていいくらい練習していることを知ってますから。」
そう、営業時間が終了して夜の2時や3時から、練習を行うのだ。どれくらい練習をするのだろうか。開催一週間前に僕が飲みに言った時に水澤君は言っていた。
「久しぶりに整体に行ってきたんですが、先生からもうボロボロ、酷使しすぎだと言われました。」
彼は間違いなく命をすり減らしながら、一つの競技に向けて自分を高めている。それを門仲に集う面々は間近で観てきた。そして、僕たちの目にはどう見ても、20名の中で水澤君の動きが最も美しい。それは、彼の高い精神性とプロフェッショナリティが醸し出しているものであるはずだ。
2時間かけて20名のバーテンダーの創作・課題部門の実技が全て終了した。これから審議の時間に入り、会場はパーティ用に模様替えとなる。ぼくらはテラスで神戸の青空と風に吹かれながら、ぶらぶらと過ごした。
会場の横には、午前中に観客無しで行われていたフルーツカット部門の作品が並んでいる。これは、当日に使用するフルーツが提示され、それを使ってフリーテーマでカッティング・デコレーションを行うものだ。これがまたスゴイ。スーパー向け青果物の仕事をしている津田ちゃんは、「すっげぇ参考になる!」と、全てのカットを写真に収めていた。
その隣には、ジュニア・カクテル・コンペティションの出品作品が並べられている。これが圧巻だ!バーテンダーの卵らしい若い人たちが、真剣なまなざしで気になるカクテルをチェックしている。推測だが、このコンクールの観戦者の5割程度がバーテンダー業界、3割が酒造メーカ・輸関連業者、2割が一般という感じだろう。一般の目にさらされながら、バーテンダーとしての技能を磨く登竜門。実に素晴らしい大会だ!
臨席していても、ピンと張りつめた緊張感、トレーニングをしてきたということが、所作からわかる出場者達の態度が伝わってくる。
「ああ、こんなにすごい大会やとは思ってなかったけど、これは来て良かったわ、、、」
そう言いながら、パーティの開始を待つ僕らだった。。
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午後6時、パーティが、ジャズバンドの演奏で幕を開けた。しかし我々はきもそぞろである。すぐに発表してくれればいいのに、延々とアトラクションが続く。アトラクションの前に来賓や後援の紹介があったが、ご多分にもれず、長々とつまらない話をする、場を読めない輩がいて、遅々として進まない。乾杯になったとたん、会場は弾けた。
ジャズバンドの演奏を聴きながら、料理に群がる。オーパ一団が占拠したテーブルには、オーナーでありトップバーテンダーである大月さんがいる。全国のバーテンダー業界で知らぬとはいないほどの有名人であり、この大会のやはり過去優勝者である。それに加えて、昨年度の大会でも、オーパ銀座店のカツマタさんが優勝している。つまり、もしかして今回水澤君が優勝したら、オーパ史上3人目、2年連続の受賞ということになるのだ。オーパ、恐るべしである。
とはいえ、大月さんは明らかにそわそわしている。時折「胃が痛いっすよぉ」と言いながら、過剰なトークを繰り広げる。
こんな写真↓もその発露だ。(頭に乗っけてるのは伊勢エビの殻)
そこから、本当に緊張しまくっているんだということが伝わってくる。僕ら観戦者はそれを見守るしかない。
水澤君がやってきた。やるだけのことはやったという顔だ。
これから、出場者全員のカクテルが振る舞われるという。一つ一つをまともに作って分けてたら、数百人分になって大変なので、小さなプラカップに分けて供される。プラカップにいれたとたん、駄菓子のような色になってしまってチープにみえるが、、、
他の出場者の作品を飲んでみて、正直「水澤君のスプリング・ヒルが一番旨い」と思う。何だろうか、他の作品は何か強く突出しているものがあったり、いがらっぽかったり、もしくは脆弱だったりする。
ある均等な空間を創りだしているのは、スプリング・ヒルだけだった。ただし、その「尖りのなさ」が、もしかしたらおとなしめと映ってしまったら、、、と思うと、非常に不安になる。審査員の先生方の傾向や如何に。
ダダダダダダダダダダーーーーン!
さて
成績発表と表彰が始まる。全員が息を呑んで見守る。とはいっても最初は、ジュニアの式だ。ジュニアは出場者も数十人と多く、どちらかというと今後を励ますような意図なのだろう。ブロンズ賞10人、シルバー賞5人、ゴールド賞3人というように多数の人間に賞が授与されていた。優勝したのは、たしか宮城県の仙台にあるバーの人だったと思う。地方からの出場者が勝った。いざ勝負の場では、東京も地方もないのだ。
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さあ、いよいよバーテンダー技能競技会の結果発表が始まった。さすがにジュニア大会と違い、賞は何人にも与えられるものではなく簡潔にまとめられている。
・ベストテクニカル部門…シェイキング等の技術
・ベストフルーツカット賞部門…フルーツカット技能
・課題部門…マティーニの課題実技
・創作部門…創作カクテルの課題実技
・総合得点…全て通じての賞
20人がステージ上に出てくる。水澤君の顔は緊張のあまりか、こわばっている。そして、それまで談笑していたbarオーパの面々も口数が少なくなる。大月さんは「のどが、、、胃が、、、」とつぶやき、ビールでしきりに喉を潤している。
もう、とにかく一番最初に総合優勝者を言ってしまってくれぇえええという気分である。
「それでは、最初にベストテクニカル部門の受賞者を発表します!」
これは一人だけの受賞だ。テクニカル、、、これがナンバーワンということは、「技能」という意味においては国内随一ということになるのだ!果たして、、、
ダラララララララ(ティンパニの音)ララララララ ダーン!
「エントリーナンバー2番! 東京都新宿支部の水澤さんです!」
うおおおおおおおおおお
やったぁあああああああああ
オーパの面々が拳を突き上げる!
とりあえずベストなテクニックを持っていることは立証されたぁああああ!
沸き返るオーパの面々。しかしここで僕は少し不吉な気がしていた。早い内に入賞するというのは、よくない傾向、、、その後、最高の優勝をどっかに持ってかれちゃうんじゃないの?と下世話な勘ぐりが。
そう思う暇もなく、次の部門だ。
「次に、フルーツカット部門の発表です!」
実はこのフルーツカットについては、津田ちゃん曰く「水澤さんのはとっても綺麗で細やかなんだけど、少しこじんまりとしてるわ。それがマイナスにならないといいんだけど、、、」とのことだったので、ちょっと心配なのダ!
これは三人の受賞。まず三位には愛媛県からの女性バーテンダーが受賞。そして、、、
ダララララララララララララララララララララララ ダーン!
「二位、エントリーナンバー2番! 東京都新宿支部の水澤さんです!」
うわああああああぉおおおおおおおお
フルーツカットも二位入賞! やったぁ!!!!!
あまり期待してなかっただけに、これはかなり好予感がする!
二つの賞に入選したのである。これで、かなり上位を狙えることは間違いない!
そして、、、次に、課題部門の発表だ。僕の大好きなカクテル、マティーニを一番美味しく創ることができるのは、20名のうち、誰なのか!?
これも三人の受賞。
ダララララララララララララララララララララララ ダーン!
「二位、エントリーナンバー2番! 東京都新宿支部の水澤さんです!」
おおおおおおおおおおおおおお
マティーニも2位だ! ほ、本当か? これで全ての賞に入賞しているのは彼だけだ。ということは、、、
そう、水りんが2位に入った時に1位だった人も、他の賞は取っていないことが多い。そう、コンスタントにこれまで全ての入賞しているのは、水リンしかいないのだ。
「次に、創作部門の発表です!」
これは、水リンにとっては一番欲しい部門だろう。なんと言っても創作カクテルが評価されるかどうかが、メインイベントだ。
これも三人の受賞だ。
ダララララララララララララララララララララララ ダーン!
「一位、エントリーナンバー2番! 東京都新宿支部の水澤さんです!」
だぁああああああああああああああ
創作部門は、全国でトップということだ!!!
やった!ベストテクニカルと、ベスト創作を獲った!それ以上にどんな評価があるというのか!
もう、僕らのいるオーパの面々が集うテーブルでは、お祭り騒ぎだ。対照的に、水リンの顔はドンドンとこわばっている。あまりのことに、もう制御できないのであろう。
さて、、、
ここまできたら、あとは総合得点しかない。どうなったのか。
お願いだ。ブロードバンド回線を持っている方は、この動画、40MBくらいあるけど、絶対に観て欲しい。歴史的な瞬間の動画なのだから、、、
「それでは、第31回バーテンダー技能競技会、優勝者の発表です。」
ダララララララララララララララララララララララ、、、
「総合優勝は、、、エントリーナンバー 2番! 水澤さんです!」
やったぁああああああああああああああああああああああああ!!
両の拳を突き上げる面々。対照的に、一言声をあげた後、無言で水澤君をみる大月さん。そこへ、周りの関係者が握手を求めに来る。
画面に映った水澤君の顔は堅くこわばっている。自分が今いる状況がつかめないような顔である。
会場では爆発が続く。関西地区での大会のため、関西出身者への応援が一番多いのはいたしかたのないことだが、それでも関東代表の水澤君に温かい拍手が送られる。
僕は、歴史的な場面に立ち会うことができた。本当に感無量だ。友人に連れられていったバーで旨いマティーニを飲んだ。以後、少しずつ調合を換え、自分好みのマティーニを作り出すのに水澤君はずっと付き合ってくれた。その彼が、、、なんと日本一になってしまったのだ。
それも、ぶっちぎりの優勝である。総合的に観て、全ての部門でベスト3に入っている(というかほぼ1位と2位)ということは、歴然とした実力差があるということだ。
水澤君へのインタビューが始まるが、彼は固まっており、ろくなことが話せない。ただし、次の言葉をはっきりと会場に伝えた。
「自分一人ではこの舞台に立てなかった、、、多くの人に助けられてココにいることができるんだということを実感しています、、、」
チームbarオーパは、最強だ、、、本当に素晴らしいではないか。若手バーテンダー2人が、水澤君が沢山もらいすぎて持ちきれなくなった賞状や盾を持つため、助っ人に走る。口々に「来年からどうしましょう、、、やりにくいですよ、、、」と言いながら、その目は引き締まっている。
と、受賞インタビュアーが美しい女性を壇上に招く。
「実は、水澤さんの奥様も、日本バーテンダー協会の会員で、レディース大会の優勝経験者です!」
なんとそうなのだ!美男美女カップルは、実力もまた持ち合わせた大変な二人だったのである。
奥様にマイクが渡される。
「、、、嬉しいです。彼が本当に苦しみながら練習をしているのを間近で観ていましたので、、、本当に良かった、、、」
この時、水リンのこわばった顔が一層歪み、少し涙が伝ったようにみえたのは僕だけではないだろう。世界一いい男だよ、水リン!
テレビインタビューを受ける水リンを激撮する。これが日本一のメダルだ!
そろそろ緊張も解けたらしく、水リンの顔にも笑顔が戻ってくる。もう、彼は雲の上の人である。今を逃してツーショットのチャンスはないだろう!ということで、しっかり撮らせてもらった。まごうことなき、日本一のバーテンダーとのショットである。僕はこれを宝物にしたいと思う。
若手ちゃん達から、「やまけんさん、二次会もぜひ」というお声がけをいただくが、これは内部の人たちだけでやった方がいいのではないかと、僕ら三人は先に出る。もう、夢遊病者のような気分だ。すでに21時。3時からずっと観ているのだ。足はむくれ、腰が痛い。けど、しかし、興奮しすぎていて、このままでは眠れないだろう。繁華街に出て、韓国料理屋で餃子と冷麺をつつき、ジンロを飲む。
そうこうするうちにまたもやオーパ若手から連絡があり、僕らも二次会に参加させていただくことに。ありがたい。
二次会席上には、東京の新宿ブロックの面々が。みな、水澤君を囲み、しみじみと語らっている。しみじみとしていないのはオーナーの大月さんで、冗談ばかり言って笑っている。でも、この人がこの日、周りで一番気を揉んでいたことだろう。
僕はなんと水リンの奥さんの隣に座らせていただいた。ヨーコと呼ばれる美しい奥さんは、日本酒ぬる燗を頼み、ぐびぐびとコップに手酌で飲んでいた。
オーパはおそらく現時点で最強のバーテンダー軍団である。実は、前大会のチャンピオンのカツマタさんも、オーパ銀座店のバーテンダーなのだ。これが、その貴重なツーショットだ(いや、別に貴重ではないか、同じ店だもんね)。
カツマタさんは今年、ラスベガスで開催される世界大会に出場する!
そして、、、来年は、フィンランドのヘルシンキで開催される世界大会に、水リンが出場するのだ!
ああ、、、
今度はヘルシンキか、、、応援旅費、かかりそうだなぁ、、、
まさに望外の慶びを味わいながら外に出る。断続的に降っていた雨がいつのまにか上がり、彼を祝福している。日本一のバーテンダーと握手をすると、いつものスマイルが戻っていた。
「明日はやすむんでしょ?」
「いえいえ、月曜日から出ますよ!」
このblogを読んだ貴方、ぜひ門前仲町に足を運んで欲しい。そして、カウンターに陣取ったら、一言こういうことをお奨めする。
「日本一を獲った創作カクテルを。」
おそらくこのように動画や画像を沢山使って、翌日に情報を配信できたのはこのblogが一番最初ではないだろうか。blogをやっていて本当に良かった。歴史的な一夜の末席に、座ることができた。長い生涯、こんなに感動できる夜をあと、何回体験することができるだろうか。楽しみになってきた。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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