やまけんの出張食い倒れ日記

豚丼王国帯広の奥深さは底知れない 炭火焼き豚丼「とかちっこ」

 最近、豚丼の知名度が向上してきていると感じる。が、その多くは残念ながら牛丼の吉野屋が出している豚丼(ぶたどん)のせいである。北海道とくに十勝の人間にとっては、あれは「豚すき焼き風煮丼」だ。豚丼という料理は、フライパンか網で、タレを絡めて焼いた豚肉を熱々ご飯に乗せたものを言うのだ。それ以外のものは豚丼ではない。

 さて過去このblogにも数々掲載している帯広の豚丼だが、今回また素晴らしい店に連れて行って頂いた。そして今回も懲りずに豚丼屋二軒をはしごした。おそらく今回の物量的には、たった2軒で、これまでの食い倒れ人生史上最も困難な道だったかも知れないので報告しよう。


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「こないだヤマちゃんが来たのは3月だから、この景色はびっくりでしょ?」

と岡坂さんが言うように、帯広の初夏は一面の濃い緑だった。ビート(砂糖大根)、大根、じゃがいもが収穫の時を待っており、その傍らで今年は大豊作になりそうな小麦畑が拡がっている。幕別町は国内有数の大型産地なのだ。

 昨年、農林水産省の実証実験で長いもを実験的に出荷してもらった。その長いもだが、こんな畑で栽培しているとは、読者のみなさんもしらないだろう。鉄の支柱にネットがかけられ、それに長いものツルがからんで葉を茂らせ、太陽光と積算温度によって根部が肥大していくのである(専門用語でした)。これが長いも畑だ。

 畑を視察し、事務所で販売関連の戦略の打ち合わせをする。飛行機の中まで持ち込んで作った資料は概ね方向性として受け入れられたようだ。

「じゃあ、ヤマちゃん、混まない時間のうちに行くかい!」

「よしゃ!今日は連れてってくれるんですよね、『とかちっこ』!」

そう、岡坂さんとノムさんから、耳にたこができるほど訊いていたのだ。新しく店を出した「とかちっこ」というチェーンの厳選豚丼というのが、やたらめっぽうに旨いのだと。分厚い肉が炭火で焼かれ、ドドンと乗ってくるという。俺の食欲は瞬間的にたぎり立ったのだ!

 幕別町から30分ほど車を飛ばし、帯広の西側にある新興住宅街のあたりへ。

「このへんはさぁ、ほら、あの黒い豚丼の鶴橋があるところだよ。」

おお!そうか、あの真っ黒ド迫力豚丼の鶴橋の近くか!それならばとかちっこで食べた後に鶴橋にはしごするか?と思ったが、さすがにとかちっこの大盛りを食べたらそれは無理だろう。

 と、大通り沿いに、新築ログハウス風のイマドキな外観に目立つ看板の店が。

「ああ、あった、あれだよとかちっこ。」

なんだか予想とは違って、かなり商業的なチェーン展開をしそうな店構えである。というか、実はすでにチェーン展開をしているのであった。帯広でガソリンスタンドなどを展開する燃料会社がこのとかちっこチェーンのオーナーなのだそうだ。なるほどなぁ。

店内に入ると、過剰なまでに愛想の良い「いらっしゃいませぇ~!」がこだまする。ホールに3人、厨房に3人程度で、店員はみな若い。そして、お客様への対応は非常にしっかりとしており、好感が持てる。こういう社員教育の行き届き方に、さすがにSSを展開している企業が出社しただけはあるなと感心。

 しかし!残念なことが判明した。なんとこの日からとかちっこは、開店1周年記念キャンペーンに入り、メニューが限られてしまうのだ。

「普通の豚丼と厳選豚丼の二つのみで、肉増しとかはできないんですよ、大変申し訳ありません。」

うーむ、、、口には出さなかったが、岡坂さんも俺も、ここですでに「次は鶴橋だ」と思っていたのだった。ま、それはともかくとかちっこの豚丼である。

「じゃあ、厳選2つ。」

「はい!」

さて豚丼には大きく分けて、炭火で網焼きするか、それともフライパンで焼くかの2派がある。前者だと、網焼きの過程で油が落ちるし、タレは焼きながらつけるのと、ご飯に乗せた後にタレをかける方式になるので、見た目はゴージャスだが以外にあっさりしているのが特徴だ。一方フライパンだと、肉を焼きながらタレを煮詰め、肉に浸透させるので、コッテリした味になる。ここの豚丼は炭火焼き、しかもオープンキッチンで客前でジュウジュウと焼くのであった。

若手の店員君が豚肉をドカッと出してくる。実にきめ細かいサシの入った肩ロースで、みているだけで旨そうだ。厚みも十分で、1cm程度ある。

これを、タレの入った雪平鍋に一回つける。肉のまわりにタレを絡めて、炭火網の上に載せた。瞬間ジュワッといい音がする。

炭火コンロにはふんだんに炭が熾っており、幅も広い。この方式だと、一度に時間差で数人分が焼けるので効率がいいと言うことに気づいた。フライパンだと、一回作っているロット分以上は、中身を空けないと焼くことが出来ない。網だと、端っこで次のロットが焼けるのである。うーん 効率優先するなら網焼きがよいのだな

 さて焼き網の上で一回ひっくり返し、ほどよく火が通ったら再度タレの鍋に絡ませ、さらに焼く。この辺、ノウハウがありそうである。焼きながら、眼鏡の店員君がぼくらにフランクに話しかけてきてくれる。

「東京からいらっしゃったんですか、ぜひご感想を書いていってくださいね。」

かなりフレンドリー度が高い。店員には、あきらかに商売上のテクニックとしてではなく、本当に真摯な態度を感じる。これは帯広の他の店でも感じることだ。総じて十勝の飲食店の店員さんの態度は佳い

「でしょぉ。僕らは十勝から出たくないもんね。大抵のお店で、肉だけもう一枚乗せろとかワガママ言っても、やってくれるもん。その分いくらとられても文句言えないけどサ。」

とは岡坂さんの言だ。

 さて豚丼は最終局面に入った。肉が焼き上がり、鉄板で厨房に運ばれた。中ではほどよい大きさに切り分けられ、どんぶりご飯に乗せられている。そして最後にタレをかけて、運ばれてきた。

これがとかちっこの厳選豚丼(通常価格1200円)だ!


実に旨そう。肉の圧倒的迫力が素晴らしい。もうすでに極限状態で待っていたので、何はともあれ肉にかぶりつく。

「!」

この豚は旨い! すんごい豚肉である。むっちりと柔らかく油が甘く溶ける。そして素晴らしくジューシーだ。タレはあっさり味で、豚の風味を殺さない。しかし、炭火焼きで焦げた部分はタレの濃さが出ており、食べながら食欲が増進されてしまう。

「岡坂さん、これ旨いっすよ!」

「でっしょお。山椒かけるとまた旨いよ。」

山椒をかけてみる。これまた甘いタレに渋い「麻」の痺れ感と香りが絡んで旨い!ご飯の盛りは少なめ(ヤマケン比です)なので、瞬く間に食べ進んでしまう。これは本当に旨いなぁ、しかしお腹一杯になろうとすると厳しいな。肉増しにして、ご飯も大盛りにして1500円くらいかなぁ。

「肉をもう一枚載せると、がつーんと来るんだけどねぇ。あと、この店はやっぱり普通の十勝の人間の感覚からすると高いよ。高いけど旨い。だから、お金じゃなくウマイの食いたいという人は来るね。ま、ヤマちゃんには足りないでしょ。もう一軒行こう。」

よっしゃ!
店のアンケート用紙にはぼくのwebアドレスを書いておいた。次にいったら一番大盛り食べますよ。

そして、焼き手の店員君に礼を言って店を出る。最後まで店員一同、ナイス笑顔だった。佳い店でした。


 そして、、、驚愕の後編へと続くのであった。この後、僕は人生最大の豚丼に出会うのである。