先日、僕が10年くらい連載を書いている農業雑誌「農耕と園芸」を出版している誠文堂新光社から、「ハーブスタイル」という雑誌というかムックが創刊された。季刊誌なので年4回の販売となる。
ごらんの通りの地味な装丁なのだが、なかなか販売好調らしい。ハーブを使った生活・料理ネタを紹介している入門編的性格のムックだ。
で、なんで紹介しているかというと、、、ここで連載というか、写真日記的アホらし連載が始まったのだ!その名も「スパイスボーイズ」! 俺はもう33歳なのに、なぜボーイズ? その趣旨がまたアホらしい。
「やまけんがさ、スパイス売ってる店に突撃して、レシピ聴いて、バカ辛い唐辛子とかで玉砕すんの。その様を写真日記にしてマンガにしちまおうよ!」
これを、老舗出版社である誠文堂新光社(「天文ガイド」や、真空管アンプ専門誌「MJ」のような気品ある雑誌を出している名門である)の編集者である御園氏が言うのだ。そんないい加減な企画でいいんだろうか。
「でもさぁ、取材費でスパイス買うから、好きに使ってくれていいんだぜ!」
おお、これでぐらっときた。
「じゃあさ、アメ横の大津屋っていうスパイス専門店があるんだけど、あそこで俺が好きなスパイス買ってイイか?」
「うん、原稿料は出さないけど材料費は出るから、それでいいよ。」
ちゅうことで連載開始と相成ったのであった。で、すでにこのムック、販売されている。正直、あまりに恥ずかしいのでそのページはここには載せない。そんなことよりも、大津屋である。
今回は、僕が被写体となる企画だったので、なんとプロのカメラマンが僕のような、全く写真ばえない素人を激写してくれた。こっぱずかしいったらありゃしない。誠文堂からは、「雑誌に掲載していない画像は載せてもイイよ」という寛大なお許しを得たので、プロが撮影した写真でゴージャスリッチにお送りしよう。
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さて、カレー好き、スパイス好きのマニアの間ではアメ横「大津屋」は有名な店である。雑多な店が軒を連ねるアメ横の中にひっそりとたたずむ外観。店頭には豆類などの乾物が並んでいるため、一目みただけではそこがスパイス販売のメッカであるとはわからない。
■インド食材専門店 大津屋商店
http://www.ohtsuya.com/
上野アメ横 (株)大津屋商店
東京都台東区上野4-6-13
TEL03-3834-4077 FAX03-3834-4078
お問い合わせ専用電子メールアドレス
info@ohtsuya.com
しかし!
一歩店内に入ると、みたこともない食材・スパイス類がガバッと並んでいるのである!これを目当てに来るアジア系外国人も多く、モノが本物であることが伺える。
ホールスパイスからミックススパイスまで何でも並んでいる。
僕が話をしている人が、この店の二代目となる竹内さんだ。家族経営なので若旦那という感じである。スパイス屋だけあって、
「毎日カレー食ってます」
とのことだ。
この大津屋、国内のスパイス輸入商社やメーカから、サンプル商品のテスト販売を請け負ったりすることもあるくらいの店であり、スパイスマニアからは熱い視線を贈られている超マニアスペースなのだ。しかし、ここで働く人たちはとても優しく、全然マニアックではない普通の人たちだ。ちょっとびっくりした。
僕も過去、ここでスパイスを何回か買ったことがある。とにかく鮮度がよく安い! これはみな見落としがちなことだが、スパイスは生鮮品だ。香り成分は揮発性なので、購入して置いておくと、ただの色つきの粉になってしまう。しかし、スーパーで市販されている瓶入りのスパイス類は高くて、買うのにためらうことが多い。ふんだんに使うのがちと惜しくなってしまうのである。
ところが大津屋では、だいたい200g程度入っているパウダースパイスが400円程度で買える。ホールも勿論ある。素晴らしいのはナッツ類で、カシューナッツやアーモンド、殻を剥いたピスタチオなどの生のホールが手に入る。ここで重要なのは「生」ということだ。安く売っているのはローストしたものがほとんどで、これだとすぐに酸化してしまいがちだ。ナッツの脂が酸化したものには猛烈な毒が発生することもあるので、お勧めできない。しかしここでは生のホールが、しかも安く手に入る。僕が知る中では最もリーズナブルだ。これからバジリコのペーストを作る季節だが、僕は大量に使うナッツ類はここで仕入れる予定である。
スパイスだけではなく、その周辺素材も沢山販売している。例えばインド料理には絶対に必要な油である「ギー」は、オリジナル商品が置いてある。カレーのコクのある風味を出すにはこのギーが必須だが、なかなか置いてなかったり、高かったりする。写真の商品はでっかいやつで900円程度、半分くらいのだと600円くらいで買え、全然使い切らないのでリーズナブルだ。
また、香りのよい長粒米(インディカ米)であるジャスミンライスなんぞも販売している。これがインド系のサラサラのカレーにばっちりマッチするのである!
この日の企画としては、とにかく大津屋のお母ちゃんがいつも家庭で作っているレシピを教えて貰い、その通りに作ってみるということになっている。そのために買い求めなければならないスパイス類が下記である。
■ホールスパイス
カルダモン
シナモンスティック
ベイリーフ
クローブ
■パウダースパイス
クミン
コリアンダー
ターメリック
カイエンヌペッパー
ガラムマサラ
■そのほか
マンゴーチャツネ
ホールトマト缶
ヨーグルト
鶏肉(モモ)
カシューナッツ
アーモンド
ジャスミンライス
バジルシードのジュース
などなど、、、
そして、、、これに加えて、特選素材があるのダ!
「ええとですねぇ、、、長胡椒ってのがあるんですよ。」
インドではよく使われている長い胡椒、本当に長い! 松ぼっくりのような細かい模様が外側についており、見た目はちょっと気持ち悪い。
「生で噛んでみます?」
といって袋を開けてくれた。正直、俺は噛みたくない!けど、カメラマンはすでにセットアップ済みである。うーん しょうがない、、、
口に入れて噛む。かなり硬い!「ガリっ」という硬質な音と共に、衝撃的な刺激成分が俺の脳内物質を大量に分泌させた。駆けめぐる胡椒の香り。かぐわしい、確かにかぐわしい!しかしあのブラックペッパーの香り成分を50倍くらいにした香りの塊が鼻孔を抜けてゆき、その後にすさまじい辛みが味蕾を直撃した!
「ヒー!」
の顔の写真は、雑誌掲載されているので残念ながらここではみせられん。が、とにかくすさまじいパワフルな香辛料だ。
「これ、やっぱカレーに入れるんですかね?」
「う~ん、僕は使ったことないからわかんないですね、、、」
そんなもん、俺に食べさせないでくれ!
ま、しかし、この長胡椒を使って、カレーを作ることになったのだ。スパイス類をたんまり買い込んで、大津屋・竹内ファミリーに別れを告げる。目指すは編集者・御園氏の愛の新居(湯島)である。
(後編・カレー作り編へと続く)