真のドラマを観た!第31回全国バーテンダー技能競技会で、門前仲町「オーパ」水澤君はどう戦ったか!?(その1)

2004年6月 7日 from 出張

 予報に反して晴れ渡った神戸の青い空のもと、全国から集まったバーテンダーの精鋭達による技能競技会は、僕などが予想もし得ない厳しさと誇りを持って開催された。この戦いの顛末をこうして送り届けることができることを僕は誇りに思う。今回は長くなる。でもぜひ最後までお読みいただきたい。その代わり、これを読んだ後、必ずカクテルが飲みたくなるはずだ。

 のぞみの車中では、一冊の本も読まず、考え事をしているうちに新神戸駅に着いた。空は晴れている。東京で降っていた雨はどこへ消えたのか。お世話になっている熊本の農家さんからは朝、記録的な土砂降りだと連絡があったのに、なぜだろうなぁ。予報に反し晴れたのは、第二回食い倒れオフ会と同じダ!幸先がいいナと思いながら、駅に隣接する新神戸オリエンタルホテルへの渡り廊下を歩く。と、和歌山から来た津田ちゃん、そして地元神戸の人間であるニシガイチと落ち合う。二人ともよく上京する人間であり、そしてそのたびに僕は門前仲町のオーパに連れて行き、カクテルを飲んでいる。協議会の観戦とパーティへの出席で12,000円のチケットも「おう、そんなもん観られるのも最初で最後やろ、高くないわ」と言ってくれたので、一緒に観戦することにしたのだ。

 バーテンダー競技会というイベントにいったいどれくらいの人が集まるのかと思っていたが、新神戸オリエンタルホテルの9Fに上がると、もう人いきれで一杯だ。酒販メーカの試飲ブースが並び、ドレスアップした人々が行き交う。いつもの黒Tシャツ&ジーンズの僕は急いでザックからジャケットを取り出した。

「以前は内輪の大会だったんですけどねぇ、、、一昨年くらいだったか、横浜のパシフィコで開催した時、2000人くらいお客様が来てしまって、大変だったんですよ。」

とは水澤ちゃんの言葉だったが、僕のような一般でも観戦できるようになった今年、本当に沢山の人がこの競技会を観ていた。

 開場に入るすでに、ジュニアカクテルコンペティションが行われていた。ジュニアとは、26歳までのバーテンダーのコンクールだ。ステージの上にバーカウンターを模した演台が設置され、そこで大会が用意した道具を用いてカクテルを作り、技術を競い合うのである。彼らの対面には厳正な審査を行う審査団がいて、一挙手一投足を観、できあがったカクテルを一口すすってジャッジをしているのであった。

 braオーパ銀座本店と門前仲町店のスタッフが、ありがたいことに僕らの席を最前列から3番目に取り置いてくれていた。最前列にはおびただしいビデオカメラの群れ。若きバーテンダーがシェイカーを降り始めると、一斉にカメラのシャッターが切られている。ものスゴイ雰囲気である。

 のっけからこの風景にびっくりしたのであった。なんと立派な大会なのだろう!僕はこんなに厳正に厳かに整然と進行される会だとは思っていなかった。バーテンダーはこの舞台で戦うことを夢見ながら毎日、シェイカーを振っているのだ。まさに晴れ舞台である。

 さてこの競技会の厳正さは、手渡されたブックレットを開くとかいま見ることができた。「大会マニュアル」と称して、進行と規則が記載されているのだ。この厳正さスゴイ。「服装は白コート、黒酢本、黒靴、黒蝶タイ、白ワイシャツ。」から始まり、4ページに渡り競技の内容が記されているのだ。

 どのような競技なのか、かいつまんで説明しよう。参加するバーテンダーは20名。この全国の各ブロックで開催される予選大会を突破してきた精鋭たちである。競技は学科部門、フルーツカッティング部門、創作カクテル部門と課題カクテル部門の4つで構成される。これらを総合して高得点を勝ち得たものが、優勝することができる。
 課題カクテルは協会が決めたカクテルを作り競うものだ。今年はなんとマティーニだ!水澤君が作るカクテルの中でも僕が大好きなマティーニなのだ。これは吉兆と思っていいのではないだろうか。使用する機器、酒の銘柄等はあらかじめ決められている。例えばマティーニの材料は、

・ウィルキンソン・ドライ・ジン47.5°…45ml
・チンザノドライ・ベルモット …15ml
・レモンピール

と、銘柄までか使用量まで定められているのだ。この分量が非常に重要になってくるのだが、それは後述する。

 創作カクテル部門は、各々が生み出した創作カクテルを競う。こちらは材料に制限はないようだが、時間は6分。課題部門のマティーニは5分で仕上げなければならない。これらは、デコレーションの美しさ、味覚・香りの評価、シェイキングまたはステアの技術をみるテクニカル評価、そして総合的な態度をみる主観評価という内容でジャッジされる。

 このように、ルール、会の進行、審査の厳正さ、全てが一流のコンクールであったことに圧倒される。まさに檜舞台なのだ。

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さて、ジュニアのコンクールが終わり、いよいよ本番である競技会が始まった。照明が落とされ、入場曲が鳴り響く中、白いジャケットを着た一軍が入場してきた。オーパのスタッフによると「水澤はエントリナンバー2番で、一番最初のクールです」という。この順番にもかなり運があるようで、barオーパのオーナーである大月さんは「もうこのくじ運引いた時にヤバイって思ったよ!」と言っていた。
 しかし水澤君は堂々と入場してきた。出場者の中では背も高い方で、何より自信に満ちあふれている。壇上にあがり、歩を進める。

 と!
 ここでハプニングが起こった!水澤君の手が、出場者のナンバープレートを載せた置き台にあたってしまい、プレートが落ちる!慌てる水澤君。かけよる職員。大笑いである!
貴重なショットを掲載しておこう↓

 いきなりのこの事態に、大月さんの心中幾ばくか。水澤君、治してから列に並び直したが、超微妙な顔である。でも、この一事をみて僕は確信した。
「これで彼は緊張しない!」
最初ででっかいことをしてしまって、今は頭の中が空っぽの真っ白になっているだろう。けど、この興奮状態が過ぎると、軽い躁状態になり、自信が出て落ち着くはずだ。そして、善し悪しにかかわらず、審査員に印象づけているはずだ。吉兆である。

 競技は、ステージ上に4台の演台が設けられる。課題部門が右、創作部門が左側で2名ずつ同時進行で行われる。審査員団は課題部門と創作部門で違うので、ステージの双方で同時進行しながら競技が進行するのだ。
 水澤君はエントリナンバー2番なので、いきなり創作部門の第一組で登場だ。名前が呼ばれ今度は何も倒さず(笑)入場。各々、台上の道具、グラス類を自分ように位置調整し、後ろに下がって合図を待つ。

「それでは、始めて下さい。」

 戦いが始まった。創作部門、課題部門共に、開始直後に行う動作が、審判用に5客用意されたグラスを冷やすための氷の投入だ。一つ一つの動作が非常に競技会向けにセッティングされている。つまり、店では通常みない、軽くデフォルメされた美しい所作である。自動車の免許を取る際の試験で、指さし確認とかしなければならないようなものなんだろう。

 水澤君の創作カクテルは、ご存じの「スプリング・ヒル」である。まさしく春の丘に暖かなな風がそよいでいくような、桜の香りのするカクテルである。
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■スプリング・ヒル
ホワイトラム・バカルディ 30ml
桜リキュール・ヘルメス サクラ 10ml
洋梨シロップ・モナンボワールシロップ 10ml
フレッシュレモンジュース 10ml
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 水澤君の動作にはよどみが全くない。かなり落ち着いて作っているようだ。あたかも門前仲町のカウンター内にいるような、堂々とした所作だった。

 シェイキングの瞬間になると、カメラマンが立ち上がりシャッターを切り出した。

ちなみに、関東ブロックから出場する選手は、やはり全国的にみてもレベルが高いのだそうだ。バーの店舗数などが関係しているのであろう。やはり競合が多い環境であればあるほど、レベルも高くなるのであろうか。その代わり、関東からは4人出場している。ライバルは数多いのだ。

 そんな調合中の水澤君の動画を撮影している。回線に余裕のある方はぜひ観て欲しい。
■スプリング・ヒル調合中の水澤君(16MB)

 優雅に、堂々と、水澤君の創作部門が終了した。時間にして6分。最後に瓶や器具の見栄えを整え、台を拭いて一礼する。ここであることに気づいた。水澤君の演技からは、器具がグラスやシェイカーに触れる「カチャリ」という音が目立って聞こえてこなかった。それが彼の印象的な優雅さに大きくつながっていることは明らかで、他の出場者からはしきりにカチャリという音が聞こえていたのだ。このことは、競技が進むにつれ確信的にそう思うようになった。
 ともあれ、創作部門は、とても安心して観ていることができた。彼の退場後(何も倒さなくてヨカッタ、、、)、9組の演技を経て、次は課題部門。僕のフェイバリットであるマティーニだ。

(続く、、、本日中にアップするゾ!)