書かねばならないネタが溜まっている。カストールの絶品今だけのホワイトアスパラ。原宿のアジアンキッチンのナイスな弁当。しかし、、、今日、びっくりする路麺に出会ってしまったのだ!
昼、農業関連団体の部長さんと商談をしたのだ。この方はそば好きで、シビアな商談が終わるとすぐに顔をほころばせ、「やまもとさぁ~ん、いい店があるんですよぉ~」と、そば屋に誘うのである。新橋・虎ノ門界隈なので、僕からは山形そば「出羽香庵」にお連れし、好評を博した。そして今回は、部長さんの番なのである。
「あのね、げてものって言われそうだけどね、冷やした盛りそばの上に甘辛く煮た肉がドバッとのってる、肉盛りそばっていうんだよ。」
おお、旨そうではないか!肉そばとか肉飯とか、「にく○○」という名称にはなぜか旨そうだという感覚を覚えてしまう。で、なぜかそういう感覚は大抵、昼飯のみにしか発動しないのだ。
肉盛りそば、旨そうである。この時点では、まだ通常の盛りそばに肉がのっているだけだと思っていた。
虎ノ門から愛宕方面に向かって歩いたところで部長が交差点の向こうを指さす。
「やまもとさん、あそこなんですよぉ~」
指さす方向には、別に何もない。黒っぽいかっこいい、背の低い雑居ビルみたいなのがあるだけである。ん?いったい何なんだろう?と思ってよく目をこらすと、この黒いモノリスビルの下の方に、背の低いガラスが入っていて、内部はカフェのようになっているようだ。ま、まさか!?
「そう、あの黒い建物が、そうなんですよぉ!」
これは驚きである!
■港屋
東京都港区西新橋3-1-10
実はこの建物、以前はたしか稲庭うどんを立ち食いで食わせる店だったと記憶している。こんなところで、しかも立ち食いで稲庭うどんとは珍しいと思い入ったが、伸びてて不味いこと極まりなかったので、以後捨て置いていた。そこが改装されて、こうなっているようだ。
「かっこいい外観ですねぇ、、、そば屋ってかんじじゃないですよ、、、」
店に近づきエントランスに立つと、その感はもっと強くなった。
店の前まで来ると、さすがに「港屋」という小さな看板が出ているが、なんだか麻布十番とか六本木の裏通りなんかにあるような店構えではないか。中をのぞくと、すでに軽く行列ができている。が、割とスムースに進むので、店内に入ってみた。
、、、そこには、見たことない立ち食い路麺ワールドが展開されていたのであった!
店内は黒で統一されており、まるでカフェのような内装。そして店の中央にどでかい正方形のカウンターがある。というか、そのカウンターしかない!これを囲んでみな、そばを食べている。画像でおわかりの通り、でかい正方形の内側には水がはられており、清涼感を演出している。でも、テーブル分割してここに人がもっと入れるようにしたほうがよかったんじゃないの?とも思うのだが、野暮ってもんか。
ここは入り口で食券を買って、そばを作るカウンターに並ぶ方式。品書きをみると、安くはない。肉盛りそば850円、大盛りは100円増し。肉盛りメンマそばというのもある。僕は、初めての時は、一番上か一番下を頼むことにしているので、迷わず
「肉盛りメンマそば大盛り!」 (←1050円である)
と言う。部長がびっくりしたように「やまもとさぁ~ん、この店、すごく盛りがいいんですよ、、、」
望むところである。1050円といえば、そばとしてはかなりの高い金額だ。盛りがよくなければ困る。食券を持って列に加わる。店の奥にカウンターがあり、食券を受け取った女性がお盆を並べる。厨房スペースには、黒Tシャツを着た若い兄ちゃんが、そばを作っている。
ここで気づいたのだが、女性も兄ちゃんも、二人ともまるでスターバックスカフェのように明るく、あか抜けた客対応だ。にこやかな笑みを浮かべ、「少々お待ち頂けますか」、「はい、肉盛りそばです。」など、声を良く出している。造りもカフェスタイルであれば、客対応もカフェだ。
さて厨房をのぞいてみる。
奥に寸胴鍋があって湯がたぎり、麺を茹でている。その隣のシンクでは水であら熱を取るのだろうが、そのまた隣のシンクをのぞき込んでびっくりした!シンクの中に、すっぽりと立方体の氷がはめ込まれているのだ!水洗いであら熱を取った麺をそこにじゃっと入れ、氷で引き締めるのだろう。このでかさの氷(業務用シンク一杯分)であれば、一日は保つと思うし、常に凍りを足す必要がない。非常に練られた店舗設計だと思う。
まず女性が、椀にダシと、なんとなんとラー油を注ぎ入れる。部長が「ね、けっこう驚くでしょ?」本当だ、、、 そして男性が、シンク一杯の氷でギリッと冷やされしめられたそばをどんぶりにドカンと盛り、そこにぐわっと甘辛豚肉を汁ごと豪快な分量乗せる。そして僕はメンマも頼んだのだが、上品なもんじゃなく、ぐわしっとメンマだらけになるほど乗せる。その上にさらに刻み海苔をこれでもかというほどに積み上げ、「はい、お待たせしました。」
「部長!これ、麺にたどり着くまでに3層くらいあるんですけど!」
「そぅ~なんですよぉ~」
とのたまいながら箸を入れる。海苔とメンマを避け、肉を口いっぱいにほおばったところでそばが発掘された。かなり茶色の濃い、そしてコシのあるそばである。一瞬、乾麺ではないかと思うほどにコシがあり、中心部にはゆだっていない部分が少しのこり、まるでアルデンテであった。しかし、それが絶妙に、旨い。残念ながら蕎麦の香りは、ラー油や大量に入っているゴマによって隠されてしまうが、かみしめるとがしっと来る歯ごたえと、濃いめの蕎麦味。これはこれですばらしい!
この個性の強い麺に甘辛く煮付けた豚肉が絡む。これは、徳島ラーメンの名店「いのたに」の肉そばの肉と思ってもらえればいいだろう。そしてタレは甘めで、そばづゆと言うよりもラーメンづゆに近い。勿論、ダシは昆布と鰹の香りもするのだが、ラー油の個性でその辺が結構吹き飛んでいる。
ここでハタと膝を打った。
「そうか、これはいわゆる『つけ麺』だ!」
そう、池袋「大勝軒」や高田馬場「べんてん」に代表される中華つけ麺の、そばバージョンと思えば間違いないだろう。メンマや肉の処理、そしてカウンターで次々と調理される手際、蕎麦屋とは思えない客あしらいに内装、調度は、そう考えれば合点がいく。
見当はずれかもしれないが、この店はラーメン、つけ麺に範を求めているのではないだろうか。そうでなければ、相当に突出した感覚の持ち主の店主だ。だって、小さい調理場であのシンク周りのオペレーションは、そう簡単に錬られるものではない気がする。
なんて思いながらひたすら麺をほおばり(すするとかいう次元ではない)、肉を食い、メンマをかみしめる。とにかく分量が多いのだ!1050円は、この分量からすればまあ妥当といえるだろう。がっつり食えて、僕でもほぼ満腹になれるのだ。
こんなラー油まみれのつゆだが、ちゃんと熱いそば湯が出る。それもコーヒーポットのデカイので出てくる。そば湯割りを飲むと甘めでなかなかのものだ。
いやしかしインパクトが強い、アヴァンギャルドな路麺だ。おそらくしばらくこのショックを忘れることができないだろう。
はっきり言ってこの店は「買い」である。何で今までこのコンビネーションを見つけられなかったんだろう?というほどマッチした、新しい蕎麦の世界だ。自由でいいじゃないか、という思いが伝わってくる。だから、オーソドックスな蕎麦好きには薦めない。大体立ち食い路麺だしね。でも、外装も内装も綺麗なので、女性客は多かった!
とりあえず間をおかずもう一回行くことにしようと思う。今日はあまりの外装・内装・調度・シンク・盛り蕎麦の見た目と分量、味にびっくりしてしいまい、軽い興奮状態できちんと味わえなかった気がするのダ。
とりあえず虎ノ門・愛宕界隈に行くことがあったら、まずここで肉盛り蕎麦だろう。いやほんと、びっくりした!