2004年3月26日 from 出張
冷麺を腹一杯食べて、講演の最中は寝てしまいそうになったが、なんとか1時間40分くらい話しまくった。竹鶴社長&専務&杜氏ご一行に 「おおお 山本センセイセンセイ!」 ともてはやされ、気恥ずかしい。
さてこの日夜は、なんと石川達也杜氏のご自宅に泊めて頂くことになっている。今をときめく地酒界の超注目杜氏であるタツヤンと、こんなに仲良くさせて頂いていいのだろうか?いいんだな、きっと。だってオイラは日本酒業界の人間ではないから。きっと、業界関係者だったら色々と商売上の思惑や遠慮も出てくるから、こんなに仲良くさせて頂いてないと思うのだ。もちろん日本酒は米からできる、農産加工品といってもよいものだ。だから農産物の世界にいる僕とは、周辺領域で繋がっている。そのつながり方がよいのだろうな。
さて石川家は広島県西条にある。西条といえば、広島の名門酒蔵が集まる酒蔵の町である。賀茂鶴、賀茂泉など、有名な酒蔵にことかかない。石川杜氏も、実はこの酒蔵の血筋を引いているのだ。というのも、親父さんは賀茂鶴酒蔵に勤めておられ、石川杜氏の幼少の頃は賀茂鶴の蔵内にある社宅に起居していたということなのだ。子供の頃から蔵人の働く背を見て育ってきた。だから、彼が酒造りの道に進んだのは極く自然の成り行きであると言っていい。
この日は、もう一人ゲストがいたのだ。僕が連載を持っている「やさい畑」の編集者である神吉さんも、なんとお爺さまが賀茂鶴酒造にお勤めだったのだ!石川杜氏のお父さんとは、無二の盟友であったときく。ということで神吉さんも急遽参加しての、にぎやかな会となったのだ。人の縁って不思議だ。
石川家にあがらせて頂いてまず最初に目に飛び込んできたのは、、、食卓わきにドデンと据えられた、業務用の”酒専用”冷蔵庫だ!こんなのが普通の一般家庭にあっていいんだろうか?
「あ~ いや、 学生時代もこれよりは小さかったけど、下宿に冷蔵庫持っとったよ。」
そんなのは日本中探してもアンタだけなのである。この冷蔵庫の中には、彼が全国の名酒造から収集した、とてつもなく貴重な酒が、新聞紙で密封されて熟成されている。宝の山なのである。もし石川家に泥棒が入ったら、それはきっと日本酒関係者であろう。
そうそう、この日はタツヤンがこういうのだ。
「ヤマケン、今日はね、君を驚かす食材を用意しているんだよ、、、(ニヤニヤ)」
一体なんだろう?ずっとわからなくて楽しみだったんだが、ひょんなことからそれがわかってしまった!僕が今最も好きな地鶏である「駿河若シャモ」の生産農家である鈴木恵美子さんから、僕の携帯に電話が。
「広島に送っといたけど、どうぉ??」
「え?俺、頼んでないよ??」
ここでぴんと来た!サプライズ食材は若シャモだったのだ!そう、石川タツヤンはこの若シャモを食べているのだ!それは、僕の静岡の導師である岩澤さんからのプレゼントで、タツヤンもこの若シャモの旨さに参ってくれたのだ。ああ、そういうことかぁ!!隣でタツヤンが「しまったぁ、、、」という顔をしている。
でも、若シャモを何に使うのだろう?これが、この日いただいた、スバラシイ郷土料理に変化するのである!その料理を「びしゅ鍋」という。鶏肉と野菜を、鉄板の上で酒をふりかけて炒りつけ、塩・こしょうのみのシンプルな味付けでいただくという料理だ。これは元々はこの辺の酒蔵で生まれたらしく、その際には「びしょ鍋」といっていたようだ。びしょとは、蔵人が汗だくになって「びしょびしょ」な状態のこと。蔵人が精をつけるために食べたから、この名前がついたのだという。それが今は「美酒鍋」ともいうように変化したそうだ。
鈴木さんから届いた若シャモは実にすばらしい仕上がりだった。これをさばくタツヤン。彼は、銀座では知らぬ人のいない鶏料理の名店「バードランド」が阿佐ヶ谷にあった、いわば無名時代にアルバイトしていたこともあり、鶏をさばくのもお手の物なのだ。
静岡が誇る駿河若シャモの最高峰の生産農家、鈴木恵美子さんが育てた若シャモの、輝やかんばかりの色を観て欲しい。肝(レバー)がオレンジ色なのだ!鈴木さんはほぼ無投薬で鶏を育てている。通常のブロイラーには薬を大量に投与している。本物はこんな色になるのだ。これが正常、健康な鶏なんですぞ。こんなに健全な鶏は免疫が強いため、鳥インフルエンザなんぞとは一切無縁である。まあそんなことよりもバツグンに旨いというのが駿河若シャモなんだが。
このスバラシイ鶏肉を、熱した浅い鉄板に投入し、ニンニク片を少々入れる。長ネギ、タマネギ、もやし、こんにゃく、厚揚げなども追加し、日本酒をザバリとかける!しかし「煮る」ではなく「炒りつける」なので、日本酒は材料が湿る程度に留める。これに塩と胡椒を振って、あとは食べるだけである。
これがしみじみ旨い!日本酒のアルコール分は飛んで、その風味と野菜の甘み、そして鶏肉からにじむ旨みでイイ味がでている。鶏肉がメインだけど、この旨みを存分に吸った野菜が実に最高!最初に少しだけ投入するにんにくが実に味のキーになっていて、スバラシイ。これぞ、酒造りの蔵人たちが愛した鍋か!
このびしゅ鍋に合わせるのは、もちろん竹鶴の酒だ。にごり酒のお燗は実に最高!そして写真は、たしか14BYの山田錦の大吟醸である。よくあるフルーティーなだけの大吟ではなく、料理と一緒に飲める大吟醸だ。
飲みながら、神吉さんと石川さんのお母さんの間で、昔話が繰り広げられる。神吉さんもお母さんも
「おじいちゃんが呼んでくれたんだ!」
と大喜びで、スバラシイ会になったのだった。
びしゅ鍋はいよいよクライマックスに。若シャモのモツである。鮮やかなオレンジ色はキンカン卵。つまり腹の中にある黄身ですな。そして腸管、砂肝、、、そしてレバーが半生のうちに口に運ぶ。瞬間、全員がのけぞる!
「ふぉ、フォアグラより旨い~!!!」
これはマジである。いっぺんの臭み・嫌みもなく、ただ濃厚かつ芳醇な旨みだけが溶け染み入る。一瞬で舌の上を去っていくのが残念だ。こればかりは食べてみないとわからないだろうなぁ
ちなみに、一部の日本酒業界では有名なんだが、タツヤンの奥さんは超美人である。奥方の良枝さんも酒造で蔵人修行をしていたことのある熱い人なのだが、タツヤンに惚れ込み一緒になったと言うことだ。いつもは強面で硬派なイメージのタツヤンなのだが、、、家ではなんとこの良枝さんとデレデレである。いいなあ夫婦って。おそらく日本酒業界の人が見たら卒倒しそうなカットを下記に公開しよう↓
デレデレ加減がわかるだろう!そして私もありがたく記念撮影させていだきました。
この後、鶏を手配してくれた静岡の岩澤さんからこういわれた。
「山ちゃん、幸せもんだな! 石川さんが電話をくれて、山ちゃんを喜ばせたいから鶏を送ってくれというんだよ!愛されてるねぇ、、、」
幸せもんです!でもおいらもタツヤンと竹鶴酒造を愛してるもん。
石川家の皆様、本当にご馳走さまでした。大変に楽しく暖かいひとときを過ごしました。また遊んでくださいね、、、
というスバラシイひとときとともに、延び延びになっている竹鶴酒造の仕込み風景を次のエントリで公開する決意を固めるのであった!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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