2004年3月 4日 from 食材
大学院生の頃、米作で有名な秋田県大潟村に講演に招かれた事がある。その際、わがままにも「最高級の稲庭うどんといぶりがっこを数か月分送ってくれ」といってみたら、本当に最上級の桐箱入りの稲庭うどん(40cmくらいの長さのものだ)を10キロと、いぶりがっこ5キロを下宿に送ってきてくれた。以後、僕は稲庭うどんについては口がおごってしまって、スーパーなどの商品ではとても満足できない。
で、「いぶりがっこ」は衝撃的だった。知らない人のために解説すると、「がっこ」とは秋田の方言では「漬物」を意味する。 「いぶり」とは「燻し」のことで、燻製(スモーク)にしたもののことだ。つまり「いぶりがっこ」とは「燻した漬物」と言う意味なのである。
「なんだそれは」と思う人が居るかもしれないが、これがまた最高なのだ。沢庵(たくわん)の外側がしわしわに燻された色に茶色ずんでいて、うすく切り分けた一切れを口にした瞬間に、口内にスモーキーな香りがブワッと拡がるのだ。以来、気の利いた本格居酒屋で品書きに「いぶりがっこ」があると、必ず頼んで堪能するのであった。
さて 嬉しいことに、次の年度には僕は秋田でも仕事をすることになりそうだ。その下準備で上京してくださる方に、厚顔にも「いぶりがっこ買ってきてください」とお願いをしてみた。すると予期せぬお返事が返ってきたのだ!
> さて、26日お伺いする際に持参するいぶりがっこですが既にご賞味された御経験
> はあるのでしょうか?
> また、乾いている系や甘い系などお好み等もございますか?
なぬ? 乾いてる系や甘い系、、、? てことはいろんな系統があるってことかぁ!
ここは地元の人が一番旨いと思うのをもってきていただきたいということでお願いをしておいた!
そして当日、、、来訪者I氏はニコニコとされながら、ぼくに3種のいぶりがっこを持ってきてくださった。
「お口に合うかどうかはわかりませんけど、、、」
「いや、でも地元の人がふつうに食べる食べ物が一番美味しいと思いますから!」
と言うと、I氏はなにか複雑な顔をしている。そして驚愕の事実がわかったのだ!
「やまけんさん、実は私の家は両親が農家でして、自分の家でいぶりがっこを作っているので、他のものを食べることが少ないんです」
うええええええ そういうもんなのぉおおおおお?
しかも驚愕は続く。
「ですから、家の横には いぶりがっこ専用の小屋があるんですよ。」
ここで解説が必要になるだろう。いぶりがっこはどのように作るのか? よく言われるのが「たくわんを燻せばいいんだろう?」ということなのだが、実は順序が逆である。「燻した大根を沢庵にする」のが真なのである。その大根の燻し方だが、小屋のなかに洗濯紐みたいなのを貼り渡してシナッとした大根を引っ掛ける。床の囲炉裏に炭を起こし、ナラやクヌギといった燻し材となる木をくべて、あとは延々と燻すのである。こうして出来上がった強烈な香りの大根を、麹と塩でたくわんに漬け込むのである。
と、そこまでは僕もしっているのだが、その小屋というのがどういう単位であるのかは知らなかった。村で一つとかそう言うくらいかと思っていたら、、、なんと一家に一軒そんな小屋があるのであった!
「いやぁ うちは4世代同居の農家ですから、、、そんなもんです。いつも自分の家のがっこばかり食べてますから。秋田では外食率が低くて、うちみたいなのがほとんどです。」
なんて羨ましいんだ! 僕はその話を聴いて、がぜん秋田に対する関心が高まった!外食が無いということは、その分、家々の味が多種多様に展開されているはずだ!これは素晴らしい。ぜひ秋田で仕事をしたいと思うのであった。
さて 自分の家のがっこしか食べないI氏ではあったが、僕のために評判のよい漬物屋で、3種のいぶりがっこを買ってきてくれた。
2種は醤油の醸造元が製造しているもので、かなり伝統的というかストイックなつくりのもの、もう1種は地元の有名メーカが作っている、かなり調味料を駆使したものだ。どれがどれだかはお分かりだろう。
しかし結論からいえば、いつもこんなかんじで申し訳ないけど、「どれも旨い!」である。原材料に甘味料とかアミノ酸とか書かれているのは、やはり味がくっきりしていて食べやすい。これはこれでよい。そしてストイックな方はといえば、とにかく余分な味がない。煙の香りと大根と麹の香りのみ。それが非常に好ましい!写真の皿盛り分に加え、ほぼ3分の1本分をボリボリボリボリボリボリボリと食べてしまったのであった!
実はこのいぶりがっこ、飯とともに喰うのが一般的ではあるが、なんとスコッチウイスキーに合う。いぶりのスモーキーさ加減が、やはりスモーキーなスコッチにびったしマッチするのである。
いぶりを入手できる方はぜひ試されたい。いや、いぶりは僕が入手しよう。その代わり質のよい上物のスコッチを持参してくれ、、、
ともかく
次年度、秋田にて新しい食い倒れストーリーが始まりそうな予感である、、、
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
本サイトの著作権はやまけんが保持します。出版物・放送等に掲載される場合はご連絡を下さい。トラックバックはご自由に。