2003年12月15日 from 食材
実を言うと、僕も知らなかったのだ。
カボスといえば、鮮やかな緑色で、ちょっと強めの酸味と香りがパッと立つ果実を想像されるだろう。しかし、実はあれはまだ未成熟果。強い酸を前面にだすためにはあの堅さ・熟度で出荷し流通されるが、樹においておけば、熟成が進んで真っ黄色になるのだ。
ここまで熟成が進むと、果汁はとてもまろやかで、尖った酸味は感じられない。円く、ふくよかで腰の入った香りがする。これがカボスか、と目から鱗が落ちた思いだ。
このカボスは大分県臼杵(うすき)市の産。ひょんなことから知己を得た後藤さんが送ってくれたものだ。彼女は地元では有名な製薬会社の経営をしている。色んな関係から、このカボスのような、本当に身体によい食材をビジネスに載せていくことが、日本社会に必要なのではないかと真剣に考えているのだ。まろやかな酸味は、全ての料理を引き立てる。塩分や糖を制限されている人の食卓でも、カボスの絞り汁は使うことが出来る。もちろん酸味は立派に塩の代替委になるのだ。
こういうスタンス、僕は大賛成である。アメリカのファイブ・ア・デイ運動(一日5品のやさいを食べようという健康運動で、それなりに成功を収めている)に例を引くまでもないが、国家が国民の健康を向上しなければ、国が破綻するという危機がいずれ訪れるはずだ。事実、アメリカの成人病患者がこのまま増え続ければ、早晩国家予算を保健医療費で食いつぶしてしまうと言われている。
健康とは、人間生活の基本であり、それはまず食から生まれるものなのだ。それをヨーク考えてからFTA等を論じるべきである。開放は良い。その後、内部をどのようにすべきか、というビジョンを伴っているならば。ま、そう言う話はいいか。
ということで熟成カボス、最高なんである。後藤ちゃんを三顧の礼で迎えるため、寿司 匠に連れて行く。無論、カボスを持って。通常匠では白身や貝に天然塩とスダチを使うのだが、これにカボスを使って貰う。という算段だ。
結果はいうまでもないだろう。淡泊な平(たいら)貝の握りに一塗りしたカボスのかぐわしさは、貝の切り身を一枚も二枚も高級にしてしまった。文句なしの旨さだ。スダチや若いカボスだと、刺激が強すぎてこうはいかない。単なるアクセントになってしまうのだ。熟成カボスは、りっぱな調味料である。それも、他には望めない麗しい香りのたつ、万能調味料だ。
匠には大きいのを10玉置いてきたので、今週中に行って「カボスで!」と所望すれば、出してくれるはずだ。その際には、遠い大分県臼杵市を思い浮かべて頂きたい。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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