皆さんは、蕎麦の粉を挽くところから蕎麦を打ち、茹でて食べるという経験をしたことがあるだろうか?まあ、身内に自家製粉するこだわりの蕎麦屋でもいないかぎり、ある訳ないわな。今回はそれをやってしまったのだ。しかも、そのソバを生産した農家の家で、、、とてつもなく贅沢なことをしてしまった。
しかも笑えることに、まずはソバ挽き用の石臼マシンの改修作業から入るのだ。
「ちょっと機械を直すからサ。」
といって岩崎氏、電ノコで火花を散らしながら鉄板を切り始める。石臼マシンとは、簡単に言えば、石臼を自動的に回し続ける機械だ。ソバの剥き実を石臼内に流し込み、それを回転する石臼が挽き続けるのだ。そうして出てくるソバ粉は、まだ粒子が粗いので、目の細かい網でふるって、粒子の粗い粉を再度投入して挽いていく。ふるいにかけるのも自動的に行う機械があり、石臼マシンと篩(ふるい)マシンをドッキングさせたのが先の改修内容だ。これを繰り返し数時間かけて、数キロのソバ粉が出来上がるという算段。
■これが石臼&篩マシンだ! 今、ソバむき身を投入しているところ。
■これが剥きソバです。ソバは秋の終わりに収穫後、製粉所で殻を取ってもらう。このむき実を一つまみ口に入れる。唾液が浸みると粒がボロっと崩れる。その瞬間、なんとも甘い、優しい味が拡がる。本当に旨いんだ。生でも。
■石臼が回転して、ソバ粉が出てくるのダ。
このソバだが、先に書いたように、他にはあまり出回っていない品種だ。10割で打てて、しかも薫り高く旨いということなのだが、作りにくく収量が少ない。まあ、それでは誰も作らないわな。でも、味はバツグンなのだ。実はこのソバ、地元の蕎麦屋や製粉所でも大評判になっており、来年以降は作付けを増やして出荷するそうだ。
通常、ソバは輸入だと1俵3000円程度で販売されるという恐ろしい安値なのだが、岩崎農場のこのソバは1万円をはるかに超える高値で売れるというすさまじい高級食材になるのだ。このソバ粉は、、、まあ、俺は数度食ったことがあるので、何の疑問もないのだが。
さて粉を挽くのに時間がかかったので蕎麦打ちは翌朝。ああ、ちなみに先程来、「ソバ」と「蕎麦」とかき分けているのにお気づきだろうか。原料としてのそばは「ソバ」と標記し、調理の手が入ったものを「蕎麦」と記載するのである。
さて蕎麦打ちは全くの素人ではないが、家でトライしても生地が割れたりしてナカナカ繋がらない。岩崎氏の指導のもと、トライすることに。これが意外にもすんなりと伸び、繋がってくれるので本当にビックリ。やはり素材の良さが最も重要なのだと痛感する。
■捏ね鉢とソバ粉
■水回し。適量を見極め加水していく。ここが命といって過言ではない
■捏ねた生地を「のす」作業に入る。面白いように滑らかに伸びてくれる
■伸びた生地を切る。あっしも結構旨いんですぜ。揃ってるでしょ?
■茹ではほんの数十秒
■完成!画像ではわからないだろうが、新ソバ特有の青みがかっている
さて打ち立て茹で立てを食べる。
蕎麦通はよく何もつけずに蕎麦を一口すすり、味を確かめるという。が、おいらは濃い味好きなのでそんなんはどーでもいい。どーでもいいんだけど、まずはつゆにつけないで食べてみようかな、と一口すすってみる。
衝撃が走った。
蕎麦が、甘い、、、
また、噛み締めた後に、蕎麦の香りが強く濃く香り立つ、、、
どこの名店にいっても味わえなかった(竹藪にはいったことないけど)蕎麦の味だ、、、
呆然としながら、つゆにもつけずに半分くらい食べてしまう。岩崎夫妻が次の蕎麦を打ちながらにやにや笑っている。お母ちゃんが通りがかりに
「あたしはねぇ、街に出てもぜったいに蕎麦屋には行かないんだよ。どこいってもがっかりしちゃうからね、、、この蕎麦を食べちゃうと。」
それはそうだろう、、、でもお蕎麦屋さんは泣くよ!
いや本当にビックリである。この蕎麦には薬味のネギもいらない。僕が薬味好き、濃いダシ味好きであることを知っている友人がこのシーンをみたら驚くと思う。そんなの要らない味なのだ。
しかしそれより価値崩壊だ。それなりにいろいろと回って旨い蕎麦店を発掘していたつもりだったが、価値の尺度が根底から覆ってしまった。ああこれからどうしよう、、、お母ちゃんのようにがっかりしてしまうのだろうか。
そうはならないように、とりあえずソバ粉はしっかりと分けて頂いた。ありがとう!家で打ちます。岩崎家では年越し蕎麦用にまとまった量の粉を挽き、その後は大体1月~2月で食べきってしまうそうだ。ううううう またそれまでに行こうと心に誓った俺だった。
申し訳ないがこの岩崎農場の蕎麦については、まとまった量が出荷可能になるまではあま詳しいことは教えられないのであった。ふふふ どうだ羨ましいだろう? これぞ優越感というものである。
蕎麦を食べ終わり、千歳空港へ。途中、北海道でしか売っていないアイテム(清涼飲料水コアップガラナ、ナポリン、ガラスープの素など)を買い込み、しばしの別れを告げる。
ああ、北海道。そこは夢の世界だ、、、