さて帯広に別れを告げ、特急「スーパーとかち」に乗り、一路夕張を目指す。帯広インデアンカレーの余韻が消えないうちに、と車内で原稿を打っていると、にわかに景色が変わってくる。いつの間にか雪が降っているのだ。みるみるうちに空が曇り、パラパラとまばらに降っていた雪が、すぐに横殴りに降り積もる重めの雪に変化する。これが北海道なのだ。
カレーの余韻に浸る2時間はあっという間に過ぎた。新夕張に着くと、雪は止んでいた。簡素な駅の簡潔な改札に、ツナギを着た岩崎英伯(ひでのり)氏が迎えに着てくれていた。彼との出会いは7年ほど前。農業情報ネットワーク全国大会というイベントで出会い、その後、北海道に講演として呼んでくれたのだ。
この岩崎氏、夕張特産のメロンの生産農家としては僕が今のところベストと思う人だ。実際、一昨年前までは僕も売らせて貰っていた。夕張メロンといえば一玉5000円クラスが相場だが、彼は殆どを直販で売ってしまうため、見栄えにこだわらず(ネットが綺麗でなかったりという些細なこと)、とにかく味を追求している。彼のメロンを食べたら、おそらく今まで口にしていた夕張メロンとは何モノか、と思うこと請け合いだ。
ちなみにメロンは昨期がほんの一時期に限られてしまう。彼の農場では主力商品として中玉の高糖度トマトを作っている。こちらは僕の好みの味ではないのだが、かなりいい条件で販売ができているようだ。それと、日本では珍しくルバーブも生産している。東京近辺で手に入る生のルバーブがあったら、ほぼ間違いなく彼が生産したものだと考えて良い。築地市場には彼のものが入っているし、新百合ヶ丘にある某有名洋菓子店のルバーブケーキも彼のものが使われている。とにかく、一生付き合っていきたい素晴らしい生産者なのだ。
今日は、せっかく北海道にきているので、彼の家でお世話になることにした。実を言うと彼が上京する時は、僕の家に泊まることが多い。まあ、持ちつ持たれつと言うことだ。
新夕張駅から車で20分くらい、栗山町という田園地帯が彼の拠点だ。一昔前に流行ったウインダムヒル・レーベルのCDジャケットのような自然風景が目の前に拡がっている。隣家との距離は通常200メートル先という感じだ。今のメイン品目である中玉トマトの巨大ハウス内を観る。イスラエル製の養液栽培システムを導入し、コンピュータ管理をしながらトマト生産をしている。養液水耕栽培は僕はあまり好きではないのだが、彼の作る中玉品種のレッドオーレはいい線いってる方だとは思う。岩崎農場の一族(母ちゃん父ちゃん、そして嫁さん)となつかしの再会をし、夜は近所のジンギスカンに行く。
■ジンギスカン 「かねひろ」
・上ジンギスカン 9人前
・野菜セットA 1つ
・野菜セットC 2つ
・大盛ご飯1杯+普通盛りご飯1杯
このジンギスカンがムチャクチャに旨かった!北海道内でもジンギスカンには2種類ある。ラム肉をあらかじめタレに漬け込んで焼くものと、味付けしていない肉を焼いてタレにつけて食べるものだ。栗山町ではタレにつけ込む派。僕もどちらかといえばこちらの方が好きだ。それにしても全く臭みが無くて旨い。思わずご飯大盛と普通盛りの2杯を食べてしまった。
この後、彼の部屋で酒盛り。本場韓国産のジンロ(日本で出回っているジンロは不味い。)と金沢の銘酒「萬歳楽」1本を空ける。話題は農業の話からシュタイナー教育、そしてインターネット産直の話へと変遷を続けていった。
朝がきた。さてお楽しみの本番である。この岩崎農場にて、販売を目的として作っていない作物がある。「ソバ」である。自家製と、好きな人にだけ分けている分しか栽培していないというソバなのだ。しかも、幻の品種である。とても旨いのだが、収穫量が少ないということで試験場では採用されなかった品種のソバなのだ。このソバはものすごくて、終了は少なくても10割ソバとして(つまりツナギなしで蕎麦になる)食べることが可能な蕎麦なのだ!
ソバの収穫は秋の終わりだ。岩崎農場でも収穫し、つい先日堅い殻を製粉所で取り払い、むきソバにした状態で保管をしていた。つまり、ちょうどこの日、岩崎家でも今年の新ソバを初めて食べるタイミングだったのダ!
6年前にこの地を訪れた際にも、このソバを蕎麦に打っていただいたことがある。無論、美味しかったのだけど、実を言うとあまり心に残っていなかった。しかし、今年の蕎麦は全く違った。自分のこれまでの蕎麦観が変わるような体験を、してしまったのだ、、、
(その2へ続く)