帯広での質量ともにおびただしい夜が過ぎた。仕事は終わったので、本日は夕張の生産農家の友人宅に遊びに行くことにしている。 僕はホテルの朝飯は陳腐なのでいつも頼まない。それより、町に出て何かおもしろいものを探す方が楽しいに決まっている。特に、昨晩農協のOさんから聞いた一言が頭から離れない。
「山ちゃんさぁ、帯広でカレーって言ったら、ふつうみんなが思い浮かべるのがインデアンっていう店のカレーなんだよ。」
帯広にもインデアンという店があるらしいのだ。フジモリという駅前にある食堂がその発祥で、道内に数店舗のインデアンというチェーンがあるとのこと。帯広の学生たちはこのカレーを食べて育つのだそうだ。ご存じの通り、大阪の名店「インデアン」カレーは、この出張食い倒れ日記の殿堂入りを果たしている(右側のツールバーを参照のこと)。名前が同じだし、旨いカレー、しかも地元での評判が高いということで、行ってみたいと思う。
まずは帯広駅のビル内の喫茶店でコーヒーを飲む。やたらとひとなつこいお姉ちゃんで、
「まだいるよね、ちょっと買い物行って来るから」と客に店番をさせ、20分ほどもどってこない。帰ってきた姉ちゃんにフジモリの場所を聞くと、
「フジモリも近いけど、駅前のスーパー長崎屋の中にもインデアンが入ってるよ。そっちの方が安いから、、、」
ということだった。ではそっちに行ってみよう。
長崎屋は本当に駅前すぐだ。2Fに上がると食品売場だ。ふつうスーパーといえば地下や1Fに食品売場があるが、ここは2Fからメインフロアが始まっている。もしかして、豪雪で1Fが使いものにならないからだろうか、、、それはともかく食品売場を回る。
僕は初めての場所では必ずスーパーの食品売場とくに調味料売場を回る。その土地ならではのものがいっぱいあるからだ。特に北海道帯広である。調味料コーナーにはまず豚丼のタレが数種類おいてある。一番シェアが高いのは空知(そらち)のタレである。それと双璧をなすのが、ベルというメーカーのジンギスカンのタレだ。
タレだけではない。ラム肉をジンギスカンダレに漬け込んだものが1つのコーナーを形成している。牛肉とか豚肉とかのカテゴリと同じように、ジンギスカンコーナーがあるのだ!思わずかって帰りたくなるココロを鎮めるのに苦労した。
食品売場ですでに興奮してしまったが、そこを抜けると、ほのかにカレーの香りがしてくる。おお、あった!インデアンである。
キッチンの中にはちゃんとした調理スペースがあり、職人さんがタマネギなどを刻んでいる。基本中の基本であるインデアンカレーを注文。なんど380円という安さである。ここでびっくりしたことがある。
このインデアンカレーのシンボルマーク、大阪のインデアンとそっくりだ!!
上の画像の上部の「インデアン」という名前のネオンの左側に、ターバンを巻いたインド人のようなマークがあるだろう。これと、このページにある大阪のインデアンのマークを比べて欲しい。
うーむ なんだなんだなんなんだ? もしかして系列店なのか?そうでなければどっちがオリジナル?
と、カレーが出てきた。ネットリ感の強そうな真茶色のルーが、定番のアルミ皿にもられている。ビーフの角肉の量も多く、ご飯の盛りもよい。一口食べてみる。
これは旨い!380円の味ではないぞ!
糸を引きそうなネットリ感とともに、まずは甘さがドンと舌にくる。大阪のインデアンだとこの直後に機関銃掃射のような辛さが点滅するのだが、ここ帯広インデアンではそれはこない。あくまで甘みが続く。しかしこの甘さがコクと絡み合って非常にイケル。子供から大人まで食べられるカレーだ。薬味は福神漬けを中心に3種。けど、オリジナルのカレーの味が旨いので薬味はいらないかもしれない。あまりに感動して、さきの疑問も含めて職人クンに聞いてみる。
「いや 旨いね~ 東京から来てるんだけど、このマークって大阪のインデアンカレーと似てるね」
「そうなんですよ、、、実はココのオーナー(フジモリ食堂の社長)が大阪でインデアンカレーを食べて感動し、自分なりに作ったのがこの店らしいんです。」
「ええ?じゃあ資本関係はまったくないけどマークは似てるの?」
「まあそういうことになりますかね、、、」
いいんだろうか?これ、意匠としてはまったく近似しているぞ。ま、北海道の帯広に数店舗ということで許容されているのだろう。職人君も、旨いウマイを連発しながらいろいろ聞いてくる俺に興味が生まれたらしく、
「同業者さんですか?」
などと聞いてくる。ちなみに彼曰く
「もう一つある長崎屋の近くにある「一品」という店の豚丼が旨いです」
とのことだ。
いやーしかし旨いカレーだ。そういえば昨晩農協の人に連れられていったクラブのおねーちゃんが
「やっぱりインデアンでは、シーフードカレーが一番よね」
といっていた。
シーフードカレーは670円である。380円からいきなりグレードアップだ。気になる。ということで、もういっぱい食べることにした。本当はカレーを食べて、昼飯には駅で打っている豚丼弁当にしようと思っていたのだが、ここのカレーの方が今となっては興味の的である。
「シーフードもう一つ!」
というと職人君、目を丸くする。そしてやおらナスの細切れをフライヤーで素揚げにし始める。平行してルーを鍋に盛り、シーフードを投入する。さっと火を通し、ナスの素揚げを混ぜ込んでご飯にかけて供される。
これは絶品である!びっくりした!
シーフードは、よくあるシーフードミックスの安物ではなく、小エビ、ホタテ、アサリがきちんと入っている。バター風味がほのかに香る。タマネギ、シシトウ、ナスがうまみを引き立てる。言うことないのである。いやほんとうに脱帽だ。てきとうに探したこの店でこんなにおいしいカレーに出会えるとは思わなかった。やばい、この店も殿堂入りさせたくなってきてしまったが、そうそうは簡単に殿堂には入れられない。しかしこのコストパフォーマンスは、大阪インデアンよりも遙かに高い。
今や職人君も僕とある種の共感を分かち合うようになってしまった。また来てくださいね。おう、また来るよ。
帯広のスタンダードカレー「インデアン」は旨い!
しかも、大阪の殿堂入り名店「インデアン」の影響を受けた店である。必食である。
そして物語の舞台は、夕張の生産農家の親友宅に移るのである、、、北海道編はまだまだ終わらないのであった。