2003年10月10日 from 出張
これは2003年8月8日の記事だ。
自宅で普段使っている塩は「赤穂の天塩」だ。その「赤穂」が地名で、しかもあの赤穂浪士の赤穂だというのはうっすらとは知っていたが、余り正面に捉えては居なかった。しかし今や、赤穂と言えば!それは激旨イタリアンの赤穂と言うほかないでしょう!という認識が俺的宇宙の中で強く礎を築いたのだった! 一言で言ってしまえば「赤穂には素晴らしいイタリアンがある!」ということです。
大阪出張の後、本来なら熊本に講演で飛ぶはずだったのだ。しかしなんと台風が来ているため、前日夜にいきなりキャンセルの電話がかかってきたのだ。うーむ困るなぁ、、、しかし気持ちをエイヤと切り替える。神戸の親友である西垣内(ニシガイチと読むのだ)に相手してくれ~と言うと、「それなら俺も行きたかった店にいってみよか?」となる。いい友だ! その「いい店」が、兵庫県の端の端に位置する赤穂の「さくら組」だ。この店、結構有名らしく、大阪から車で食べに来る人もいるらしい。有名なのは石釜焼きのピッツアだという。けど、海っぺりにあるわけだし、ピッツア以外にも魚貝が旨いだろう。関西方面のイタリアンの実力を知るいいチャンスだ、ということで一も二もなく賛成した。
翌朝、大阪から神戸に移動し、西垣内の車にて一路赤穂へ。これがムチャクチャ遠い。しかも台風の影響で大雨。雨も断続的に降る。いきなりあがる。晴れ間が見える。と思ったら視界20メートルくらいの大雨。大変な赤穂行きになっちまったのである。でもそのおかげで、西垣内の半生をだいぶ理解した。こいつ、本当にいいヤツなのだ。 2時間半くらいかけて赤穂についた。西垣内も実は店の場所はよくわかってなくて、あてずっぽうで走っているうちに、その店が忽然と現れた。
(続きは下記↓をクリック)
瀟洒なつくりの店を想像していたら、小さいカフェのような、しかも雑然とした作りの店だったのでちょっと驚いた。いや、これはいい意味で言っているのだ。綺麗すぎる作りの、いわゆるリストランテではない。漁師町のトラットリアといった風情。実際はピッツェリアなんだが、その雑然さが、なんとも旨そうな予感を漂わせている。しかもすし詰め満員である。 この店に来る前に西垣内が、 「きっと客層の大半が、近所のちょっとお金のある中年主婦ばっかりやろ」 と言っていたのだが、まさしくその通りだった。テーブルを囲むマダム達。思わず笑ってしまった。しかし、予約しておいて正解だ。平日の13時なのに待ちが沢山入っている。ちなみに男性は俺たち二人だけなのであった。
10分ほど待ってテーブルが空く。メニューを観ると、ぉお!あの、本当に美味い店でしか観られない煌めきが見える!メニューはオーラを放つのだ。ひと皿の単価は1200円~1800円と高めだが、それだけの内容なのだろう。じっくり考えたあげく、
前菜盛り合わせ パスタ カジキのソテー ステーキ デザート
というセットを2名で頼み、かつピッツアマルゲリータを頼む。足りなかったら追加するのだ。我々の軽妙なトークで可愛いウェイトレスちゃんを笑わせつつ、キリッと冷えた桃入り白ワインを飲んでいると、前菜の盛り合わせが出てきた。ドドーンと盛られたイタリアによくある威勢のいい前菜は、見た目も味も最高の一言だ。食事はたいていの場合、前菜で決まる。前菜の満足度が低くて、最後まで楽しめたことは少ない。しかもここは盛りがいい。 次に出てきたペスカトーレが出色だ。かなり太めのリングィーネを使ったこのペスカトーレ(漁師風)、とにかく魚貝のダシが濃厚。アルデンテより固めに仕上げた麺にサルターレ(熱を通しながら絡める)をして、濃厚な味を麺に吸わせている。思わず西垣内と顔を見合わせて 「旨いっ!」 麺がもう200gくらい欲しくなるような、そんなパスタだった。
ここでピッツアが出てくる。生地を捏ね、焼いているのは小柄な女性だ。しかし業務用の小麦粉袋を運ぶ彼女はタフだ。プロの匂いがする。出てきたピッツアもタフだった。なよっとした生地では全くない。台はパリっとし、小麦の香りが立ち、熱いチーズとうっすらと塗られたトマトとバジルの香りが相乗する、絶妙の味だ。森下にある某店で石焼きピッツアにがっかりした僕にとっては、目からウロコのピッツアだった。(食べるのに夢中だったため、写真はない。下の写真は、ピッツアを焼く石釜と西垣内だ。) そしてここから怒濤のメインだ。カジキマグロのソテーにはタマネギと赤ピーマンのソテーと粒ケイパーが絡まっており、レモンを搾って食べるだけのシンプルな構成。しかし、旨い。何というか、皿の裏に見えない文脈があるかのようだ。そう、勢いがあるのだ。そのスピード感に乗って食べるのが心地よい。
そして牛肉のステーキ。網焼きではないけど、イタリアンパセリと粒胡椒を載せて、ヘタな味付けをしていないそれは、肉汁と野趣の溢れる、これまたスピード感抜群なひと皿だった。
満腹。はるばる来た甲斐があった。西垣内も満足そうだ。 ドルチェには、桃のプリンとティラミス。桃は、生桃を裏ごしして固めたもの。ティラミスはでかくて甘くて下品で旨い。ヴォーノ!
これで二人で9600円程度か。安いとは言わないが大満足だ。あまりに遠いが、また来たい店である。
関西のイタリアンは旨い!少なくとも赤穂にはいい店がある。これは真実である。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
本サイトの著作権はやまけんが保持します。出版物・放送等に掲載される場合はご連絡を下さい。トラックバックはご自由に。