断言してもよいのだが、「地鶏」と呼称されている無数の鶏種の中で、現在最も美味しいと思うのは「駿河若シャモ」である。現在は生産農家が限られており、また生育日数が通常のブロイラーと呼ばれる鶏種の2倍、最低でも120日かかるため、極めて知名度が低く入手困難な状況だ。
しかし、それほど待たずに日本を代表する地鶏品種になるだろう。
この地鶏、静岡県の超絶飲ん兵衛&食道楽である県職員の岩澤さんが送ってくれたものだ。岩澤さんについてはこちらにも書いているが、とにかく静岡県内すべての旨いものに通じており、また酒造や生産者から絶対的に信頼されている方である。
僕はこの岩澤さんから、
「山ちゃんには静岡の旨いもんをとにかく食わせるから、どんどん世の中に拡めてくれや。」
という任をおおせつかっている。従って飲みかつ食い、そして世に宣伝しなければならないのである。
すでにこの若シャモについては、岐阜県を代表する名料亭「四鳥」に紹介し、その板長である秀ちゃんからは「こ、こいつは旨い!」と絶賛され、取引が始まっている。その辺のいきさつはここにある通りだが、僕もいささか貢献しているのである。
さてこの地鶏だが、特徴としては黒シャモという系統を品種改良して育種したということと、肥育期間を120日~150日まで長く取り、味を濃厚に凝縮させてから肉にするということに尽きる。
スーパーで普通に売られている鶏肉はブロイラーと呼ばれるものだと言うことはご存知だろう。しかしそれら鶏肉が、工場のような窓も無い環境で育てられているところを実際に見た人はいないだろう。60日~90日くらいの短期間で成育し出荷する。効率を優先しリスクを抑えるために医薬品を多量に投与する。その現場を見ると、おそらく食べる気をなくすこと請け合いだ。
無論、それが「悪い」と言っているわけではない。僕も、ブロイラーのあの柔らかくボロボロとした食感も嫌いではない。しかし、「鶏を食べる」という時、どうしても想起するのは、平飼いにした地鶏なのだ。駿河若シャモは、それこそ平飼いの環境で育てている農家さんが多いので、ストレスなく育ち、その肉質は適度に噛み応えがあり、そしてとてつもなく濃い味がする。
この黒い鶏が、駿河若シャモだ。黒いということは旨いと同義なのか、というくらい「黒○○」というのが多い。黒豚、黒麹焼酎、ウコッケイも黒い鶏だ。ちなみにこの写真は、静岡県中小家畜試験場の芝生で撮影したものだ。かなり大柄な鶏で、肉もかなり採れるので歩留まり率は高い。ガラからは極めて濃厚なスープが採れる。
ちなみにこの写真に写っているのが、生産農家の中でもトップクラスと言われている鈴木さんだ。彼女は素晴らしい生産農家さんで、何人ものシェフ・板前が名指しで彼女の飼育する鶏を欲しがる。それもそのはずで、鈴木さんは基本的に無投薬。つまり化学薬品を投与しない。飼料によって「嫌なにおいが鼻につく」ことがあるので、デリケートな飼料を配合している。また、出荷に際しては、飼育日数が何日目だから出荷、という選び方はしない。玉子を生む直前のメスが旨いので、お尻を触って玉子の出産間際の鶏を出荷する。「こだわり」とかそう言うレベルではないのだ。そして彼女の鶏は、やはり柔らかい味がして、旨い。
ちなみに驚くべきことに、彼女は静岡の銘酒「開運」の酒造の娘なのである。僕が手にしているのがその酒だが、なんと12000円もするものである。役得、、、
ま、それはともかく本日は、岩澤さんが飼育した若シャモだ。しこたまいただくことにするのであった。
この若シャモ、一番旨い食い方は、炭火焼に尽きる。一口大に切った腿・胸・肝に天然塩を摺り込み、しばらく置いてなじませ、炭火をぐわっと起こし、強火で炙る。焼けた端から油がジュウジュウいっている肉片を口に放り込む。炭火で燻されスモーキーになっている肉片を噛むと、控えめな肉汁と若干の酸味、旨み成分が口に広がる。レバーはこれまた最高だ。臭みは一片もない。これには軽く塩を振るだけだ。
クライマックスは、釜飯だ。兄弟分の工藤ちゃんからもらった釜飯用のミニ釜に1合米を仕込み、腿肉で取った濃厚な出汁を米にたっぷり吸わせる。肉は甘辛く煮付け、炊き上がる直前に汁ごと釜にあけ、蒸らす。こうして出来た釜飯は実に最高だった。
添え物はもちろん肉で取ったスープだ。ガラがあればもっと面白いのだが今回はガラなし。このスープがまた絶品なのだ、、、
ま、この若シャモ、観るより味わってみなければ、旨さのほどはわからないだろう。本当にびっくりの味なのだ。ただし、一般的に入手は困難を極める。売っているところがないからだ。でも、僕はとりあえず岩澤さんと鈴木さんから「欲しいときはいつでも言いな」と言われている特権階級男である。どーしても食べたい人は相談されたい。