今夜はとても密度濃く、長い夜だった。一言でいうと、
「名門酒造の杜氏とともに、江戸前の名居酒屋と、飛ぶ鳥を落とす勢いの焼き鳥名店で痛飲・痛食した。」
ということになる。行った店は「山利喜」そして「バードコート」だ。
一緒に食い倒れたのは、純米酒業界ではおそらく知らぬ人のいない、広島の名門「竹鶴」の若き名杜氏、石川達也氏である。何でこんなすばらしい方と知り合えたかというと、僕は竹鶴酒造の次女とマブダチで、学生時代に熊本の師匠の農場に行く前に、よく寄って飯を食べさせてもらっていたのだ。その頃、石川杜氏はあの生きる伝説の蔵元「神亀」の修行から、実家のある広島のこの酒造に移ったばかりだったと記憶している。以来、つかず離れずだが、最近とみによく会い飲み食いするようになってきた。本日も、あるイベントのために上京するので、ついでに飲み明かそうという算段だったのだ。 昼間、別件で本郷の喫茶「ルオー」にて食事。ここの看板「セイロンカレー」は間違いなく正統派喫茶店カレーで、襟を正したくなるような筋の通ったやさしさのある味だった。大盛りを食べ、まだ時間があるので、いったん体制建て直しでそれぞれねぐらに帰り、体調を整えてから、出陣。
一軒目は下町・森下を攻める。大江戸線・新宿線の出口を出てすぐのところに、名店が密集している交差点がある。甘めの味噌味ダレで馬肉を供する桜鍋の「みの家」、下町の蕎麦屋を語るときに欠かせない名店「京金」、劇旨カレーパンの「カトレア」、そして名居酒屋「山利喜」、、、「魔のトライアングル交差点」と言っていいだろう。 目指すのは、石川杜氏も私もまだ行った事の無い「山利喜」だ。←この公式HPには、ダウンロード可なメニューのPDFがある。 19時の時点ですでに店外に6人ほど並んでいるゾ、、、人気店である。5分ほど待つと、2Fni相席で通される。目に入ったのは、壁の端から端まで並んでいる、勢いのある品書き短冊。ここの短冊の勢いは良い!期待感をあおる。
■山利喜(森下) 焼きトン6本盛り合わせ 青柳とワケギ、ウドのぬた 煮込み ガーリックトースト 青菜おひたし なすの冷製ゴマ和え 小鯵唐揚げサラダ仕立て
まず、運ばれてきた焼きトンにノックアウトされる。タレは粘度が高い独特のものだが、甘すぎず旨みが濃い。これに添えられているのはなんとマスタードである。このマスタードがかなり利きがよく、鼻にくるのだが、ワインビネガーが香る上質なマスタードだ。これを焼きトンの串につけて頬張ると、普段の串焼きとは次元が変わる旨さだ。
ここのお勧めはブーケガルニを使用しているという煮込み。ガーリックトーストを添えるとよいと書いてある。小さな土鍋に盛られてきたその煮込みは、フツフツと沸いている濃褐色のシチュー。油膜が分離しているのがはっきりわかる濃厚さだが、モツ(←シロだと思う)を口に運ぶと、以外にあっさりしたアタリだ。小口切りの葱とモツ片の相性は最高。嚥下する瞬間ふと、ハーブの香りが通り過ぎる。これがブーケガルニの効用か。お勧めのガーリックトーストをドロドロの汁に浸して食べると、これは最高な酒のアテである。
ちなみに酒は、新潟の正統派本醸造の「鶴の友」。アル添していても旨いもんは旨いという好例だ。その後、品書きにギネスの樽生があるのを発見し、速やかに注文。最後は上喜元。 この店の料理は、ハズレが無い。石川杜氏と分析した結果それは、ちょっとした一手間のかけ方が心憎いほど上手いのだということになった。例えば青菜おひたしには、ほうれん草だけではなく京菜、菊の花など数種の青菜が用いられている。それらを単に皿に盛るのではなく、出汁で洗い、供している。当然微妙な歯ざわりとほのかな鰹出汁が香り、絶品のおひたしになる。それと、料理全体に言えるのは、控えめと派手の境界線上にある、絶妙なバランスの味付けなのだ。鯵のから揚げの甘酢の塩梅(あんばい)もそう。
、、、ただし、本日のメインは、あくまで2店目の「バードコート」。銀座「バードランド」で修行した野島さんが北千住に開き、すぐに予約の取れない店になってしまったという伝説の名店だ。この日も、石川杜氏が電話をすると「うわー9時半からしか空いてません」と言われてしまう。それでも行くということにして、山利喜で下地をつくっていたのである。しかし想像以上に山利喜が良かったので、これ以上居ると下地以上になってヤバイということで、北千住への移動をはじめる。〆て9500円。大満足である。 (バードコート編に続く)