干し大根がたくあん漬けになるには、漬け手が必要だ。干し大根日本一の宮崎市田野町の地場で、漬物文化を守りつつ攻める2社と、家庭の漬物文化を伝える活動をみた! その2

2017年1月29日 from 出張,宮崎

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さて、JA宮崎中央のたくあん漬けの仕込みをみせていただいた後、今度は民間企業である道本食品さんのところへ。道本食品は宮崎を代表する漬物会社で、訪問するのは二度目だ。じつをいうと前回伺った際は、食いしんぼう目的ではない。

いまから8年前の平成20年度、農林水産省の受託事業で食品需給研究センターという組織がトレーサビリティシステムの導入事例集をつくっていたときのことだ。僕は再委託を受けて、調査実務をさせていただいた。その際、漬物企業として道本食品さんに登場していただいたのだ。その報告書はすべて電子データで読むことが出来る。

■トレーサビリティシステム導入事例集 第4集
http://www.fmric.or.jp/trace/h19/casestudy4.html
※第8章をダウンロードすると、道本食品のページがあります。

そう、その頃から道本食品は原料と製造工程のトレーサビリティをきちんとしている企業だったのだ。まあしかし、調査員として来た存在なんて忘れられてるだろうと思ってたら、全然そんなことなくて、社長、専務(従兄弟同士だそうです)ともに「やまけんさん、ご無沙汰してます!」とお迎えいただいた。

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右が社長の道本英之さん、左が専務の泰久さん

道本食品は、宮崎県で7000トン、田野町で4000トンの生産量となる干し大根の実に1500トンもの量を仕入れている!

「でも、漬物需要としての大根の量は減少の一途です。現在、全国の干し大根の生産高は1万トン程度(宮崎7000トン、鹿児島3000トン)ですが、昭和のピーク時には4万トンがあったんです。いま、大根の青果用全体の生産量が150万トン。干し大根を生の時の重量に換算すると3万トン程度。ということは、干し大根は大根全体のほんの2%程度ということです。」

むむむ、たしかに。大根といえばたくあん漬け、と想起するのは昭和生まれの世代だけで、もしかすると若い世代はコンビニおでんとかの用途がメジャーなのかもしれない。

「漬物のトレンドは、時代と共に変わってきました。昭和55年から62年にかけて漬物消費は伸びました。それまでは漬物製造業者は八百屋に樽で販売していたのですが、スーパーが躍進してきたのです。そうなると、樽ごとではなく個包装して店頭に並べることになりますね。そして昭和63年以降はチルド輸送が可能になりました。そうなると今度は本漬けほどの保存性を必要としなくなりますから、浅漬け商品が売れるようになったんです。その次は

キムチの流行です。ソウルオリンピック後、キムチが日本に入ってきたものの、韓国のものは酸味が強く、日本人には馴染めなかった。しかし、平成10年(1998年)頃から、日本人が日本人に合う酸味のない、浅漬け風のキムチをつくりだし(私たち業界でいう「ぶっかけキムチ」)が売れるようになって、今に至ります。次はいったいどんな波が来るのか。それを私たち漬物業界は考えているところなんですよ。」

なんと、漬物のトレンドの背景には、技術や世相の変化があったのだ。そんな観点からみたことありませんでした。

「また、時代によって求められる漬物も変わりました。昔は米ぬかを使って漬け込み、醗酵させていたのですが、今の時代は漬け終わった後の米ぬかは産廃になってしまい、処理がやっかいです。そこで、米ぬかを使わない漬物技術が進みました。また、健康のために減塩をした方がよいということになりました。塩分濃度を下げるために、生大根を糖で脱水して漬けるなどの技術が投入されてきました。このように、私たちも世間に必要とされることを技術などで解決し、消費を減らさず増やすことにチャレンジしてきたのです。」

むむむっ そういうことか、、、僕は米ぬかを使わないたくあん漬けが大嫌いと言ってきた人間なのだが、漬物業界にすれば調味液を吸わせて造るたくあん漬けは、さまざまな問題を解消するために造り出した技術の粋でもあるのだ。それはそうだよなあ。

「私たちも漬物場慣れや減塩志向などの流れに対してディフェンス(防御)とオフェンス(攻撃)をしていかなければなりません。そのための戦略は着々と練っています。でも、作業が終わる前にぜひ大根の受け入れ行程や仕込みをみてきてください」

と送り出していただいた。

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道本食品の規模はまたデカい! 通称ナベトロと呼ばれる漬け樽がどかどかと置いてある。この時期は干し大根の入荷が最盛期なので、それはもう活気があるのだ。

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僕らが廻ったときには受け入れは終了していたが、このプラットフォームにトラックを横付けして、目検をしてのち規格毎に分けて樽詰めするのは、JA宮崎中央と一緒だ。ちなみに受け入れ時に大根のグレードを判断するのは泰久専務。

「いちばん理想的なものの価格を決めておいて、あとはその日の状態によってマイナスする場合もあります」とのこと。

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本漬け用のナベトロに、上から大根をばさっと投げ入れる人と、それを敷いていくチームに分かれている。

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綺麗に隙間無く並べて、塩を振る。

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そして、まんべんなく踏み込んでいく。

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※当たり前のことですが、大根を敷いていく人が履いている長靴は消毒済みのもので、これで外を歩くことはありません。

完成!やはり美しい、、、

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ちなみに、原料が変わるタイミングがあると、上から大根を投げ入れていた人が管理用の紙を新しいものに変えていた。トレーサビリティの仕組みもおそらくアップデートされているのだろう。むくむくと関心が沸いたが、それを追ってると大変なので訊くのはやめておいた(笑)

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さてこうして樽に漬けておいた大根を最終商品に加工するのがこちらだ。

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こちらは今年度仕込んだ大根を原料にした新漬け。

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こちらは昨年度の大根を仕込んだ本漬けだ。

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「さて、じゃあ戻りましょう。」

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会議室に戻ると、社長がなにやら面白そうな商品を出してくれた。

「これ、さっき話したオフェンスの一環です。」

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なんと、たくあん漬けの缶詰めだ! しかも、一種じゃない!

 

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なんとまあ、いろんな味付けのものがある。

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「実はこれ、海外で展開しようとしています。それで、缶詰めの側面だけの情報では分かっていただけないと思いまして、多言語対応の説明を缶の蓋の上に載せ、ポリ製のフタをつけるという形で販売しているんですが、好評なんです!思いもよらない地域で売れるんですよ!」

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ましかし缶詰めだからな、、、というのは、こうした商品は缶に入れた後、高温で殺菌しなければならないので、茹だってしまい食感も香りも無くなってしまうことが多いのだ。缶詰カレーがだいたい同じような味になってしまっているので、よく分かると思うが、、、

「ね、そう思うでしょ?ぜひ食べてみて下さい」

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これは大好評だというピリ辛トウガラシ味。

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口に入れると、、、なんと「パリンッ」とよい歯触りでないかい!あの干し大根のたくあん漬け特有の食感が味わえる。しかも、美味しいよこれ、、、

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こちらは割り母子大根の醤油漬け。宮崎の焼酎に合わせた味付けだというのだが、これがまた、、、ボリボリ感がしっかりあって、味も後を引いて何度も食べてしまう!

なんだこれ、すげー商品じゃんか!海外出張も怖くない!?

「もうひとつ食べていただきましょう。」

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なんだこりゃーーーーーーーーーーー!

「ドイツで売り込む際に、むこうではワインを飲むよね、ってことで、それに合う味付けはないかと思いまして、、、マスタード味なんです。これがね、実に美味しいんですよ!」

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えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

たくあんにマスタード!?

と思ったが、、、

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素晴らしく美味しい!

奇をてらってるわけじゃ無くて、マジで旨いと言える。マスタードの辛み酸味がたくあんの取っつきにくい風味をうまく消しているのだ。これはヨーロピアンにも受けるでしょう。

「こうしたオフェンスはいろいろ仕掛けます。ディフェンスの方ですが、、、じつは学術機関と連携して試験をしているんですが、漬物業界最大の問題である塩分に関して、すごいことがわかってきたんです。というのは、干し大根に含まれるある物質が、血圧を、、、」

以降は、おそらく近日中に同社から発表があるだろうから、想像にお任せしたい。塩が上げるかもしれないけど、その分、干し大根に含まれる何かがそれを下げてくれるなら、大丈夫じゃないかということだ。これは個人的にも楽しみだ。

いやー面白い! 道本従兄弟すばらしい。

漬物の未来はちゃんとある、と思ったのであった。また来たい、漬物の未来を観に来たいと深く感じ入りながら、道本食品のお二人に別れを告げ、もうひとつ過程のたくあん漬けの味を見に行ったのである。 つづく

■道本食品のWebからこれらのたくあん商品を買えるぞ!
http://www.hinatazuke.co.jp/product/index.html