2016年1月18日 from 首都圏
OLYMPUS E-M1 MZD45mm f2
北海道は十勝にあるエレゾといえば、自社で猟師を抱え、確かな技術で獲られたジビエを自社で解体・熟成し、全国の料理人の要望に応じて出荷する面白い会社だ。そのエレゾを率いる佐々木章太くんとは、彼がこんなに痩せていた時代からの付き合いだが(笑)じつに貫禄ついてきた!
「最近、あまり身体を動かせないんですよ」
ということだけど、身体が資本だからね!って俺が言うことじゃないか。
その章太がこのビジネスを旗揚げして初期の頃から可愛がってもらっているというのが、あのコートドールの斉須政雄さん。
「シカやハトを送るじゃないですか。荷物が着いたらすぐに毎回電話をくださるんですよ。今回のシカ、すごくいいよ!今回は脂がつきすぎだね、とか。毎回、思いをぶつけて下さるので、僕もそこに上乗せしてしゃべるんで、電話が長くなっちゃうんです」
と、実に聴く人が聴けば幸せなやりとりをしている。
「え、やまけんさんコートドール行ったことないんですか?じゃあご一緒しましょうよ!」
お、マジか!?
このブログの長年の読者さんなら識ってるだろうけど、僕は都会の有名店を片っ端から廻るという人間じゃないので(そもそも東京の店はあまり識らない)、コートドールも行きたいなぁと思いつつ、未踏であった。これはいい機会!ということで、章太が東京の取引先詣でをするタイミングにくっついて行って参りました。
エントランスで章太が後に来て、お土産をスタッフさんに渡すと、中から斉須さんが!
「いやわざわざありがとうございます!」と章太とガッチリ握手。その時、僕を観て「あっ!専門料理でいつも読んでます!」と言っていただいたのでビックリ。あの斉須さんが!僕の書いてるのを読んでくれてるの!?死にそうに嬉しいです。
伺ったのはランチ。初めてこの辺に来たけれども、建築としても有名な三田ハウスはとても優美なマンション。その中に入るコートドール、歴史を感じますね。妻と僕はコースに一品追加。章太はアラカルトでメインに自分のところのエゾシカをオーダー。
この、エビとチーズをバゲットに乗せて焼いた軽いアミューズからして美味しい。
これが、サワラの瞬間スモークにコリアンダー、ホワイトペッパーをかけたもの。
「僕、メニューにこれがあるときは必ず頼むんですよ。斉須さんの料理の中で一番好きかもしれません。」
と章太が言うこの料理、その気持がよくわかる美味しさだったのだ。
ただでさえ柔らかく身割れしやすいサワラの身だが、絶妙な火入れ。瞬間スモークの温燻の熱だけで火を入れているようだが、スモーク香の強さと火入れをピタッと合わせているということだろう。こういう料理を食べるとき、スモーク香が強すぎて燻り感しか感じられず、素材の味を損ねているものが多い。しかしこのサワラ、スモーク香は注意していれば気づくという程度の軽いもので、そしてビッタシに柔らかく中心部まで暖かになっている火入れが同期している。
しかも、コリアンダーやホワイトペッパーといった、強い個性を持つスパイスを振りかけているにもかかわらず、どの要素も突出せず、舌で感じるのはそれらの総体としての美味しさで、最終的にサワラの旨さが印象に残る。ビーツの酸味がサワラの脂を溶かすアクセントとなり、飽きずに食べ進められるのだ。
「ほんとうにホッとするんですよね、斉須さんらしさが一番出ている料理だと思うんですよ。僕はいろんな店で着席すると、お客さん達の表情を見るんです。有名店には、『あたしはこの有名店に来てる人間なのよ!』という表情をしている女性や男性が多いんですけど、コートドールにはそういう人はあまりいない。みんな穏やかな顔をしている。それが素晴らしいと思うんですよ」
章太、、、いつのまにそんなにオトナになったの!?と嬉しくなる素晴らしい洞察だった。ほんとうだ、ご家族づれやカップル、旧交を温める女子たちや、同業だろうか、4人の若い男性グループなどだが、みなゆったり穏やかに談笑している。
サービスの方々もみなこの店にずっといる感じの方々で、素晴らしい対応をしてくださる。
ホタテのムースとキャベツ。ソースはブールブランぽいが、斉須さんいわく、ホタテの全てを使ったソース、だそうだ。
これがまた、優しくて美味しい!決して華美に走らず、ストレートにおいしいものをだそうという心が見える。
OLYMPUS E-M1 MZD25mm f1.8
メインは章太がシカで僕らがイノシシの煮込みなので、一杯だけ力強い赤をお願いした。
イノシシの白ワイン煮は、ゴボウとにんじん、キノコが一緒に煮込まれていて、なんとなく猟師のつくる味噌仕立ての鍋のようだ。
脂の部分をベーコンのように別のプロセスで調理したものが細かく切って散らされている。赤身部分にこの脂をまぶして食べる感じがこころよい。
章太のエゾジカの火入れ、実にお見事である。何分かけているのだろう、すべての血が肉の内部に留まっているかのような断面だ。
一口もらったが、繊維がサクサクと心地よくかみ切れ、風味も軽やか。若い熟成の若い個体だろう、2歳くらいのシカ?
「これは、、、3歳のメスですね」
おっ3歳か!俺もまだまだジビエの目利きができてない、、、
そしてデセールの前にお口直しででてきたキウイのシャーベットがまた、実に心に残ったのだ。
「小田原の、みかんを送っていただいている生産者さんの畑の下で自生している、肥料も何にもやってないキウイのシャーベットです。本当に小さいので、みんな苦労して皮を剥くんですが、、、」
というだけあって、栽培ものとはまったく違う酸味、そして肥料を与えずに育てているからであろう、奥行きのある風味。美味しい、、、
コートドールほどの名前があれば、いくらでも名産地の最上級キウイを仕入れられるだろうが、それは斉須さんのやりたいことではないのだろう。顔も性格もよくわかっている関係の深い生産者さんの畑にある、誰も獲らない野生キウイの方が、扱ってみたい食材なのだというのはよくわかる。
作り込まない美味、というのがあると思うのだ。このキウイシャーベットの酸味は本当に心に残った。
妻が頼んだ和栗のモンブランと、僕が章太と一緒に頼んだみかんのスフレ。
おみごと、そして、温州みかんを焼くと発生する、ホクッとしたお芋のような香りに満ちて、なんとも心があたたまる味だ。
いやそれにしても斉須さんにかけていただいた言葉がもったいなくて感激してしまった。 「わたしはね、この三田5丁目近辺で生活が完結しちゃってますからね、やまけんさんみたいな方が全国飛び回って産地や食材のことを伝えて下さる情報は”食材”なんですよ、私たちにとって。」 「作りたいものをつくって、必要なだけのものを得られればいいので、それ以上は必要無いんです。温かくて清潔で、家庭的、そんな場所がここでできればいいなって思ってます。」 厨房内を案内していただくと、ランチ終わりでスタッフのみなさんが綺麗に掃除をしているところだった。まさぴっかぴかで、しかも料理道具が台の上においていない。必要な道具を必要なときだけ使い、終わったら速やかに掃除をするということが徹底されているという印象を受けた。斉須さんの清潔な人柄が滲み出ているのだろう! ぼくには滅多にないことだけれども、食べ終わる前に来月の予約をいれてしまった。こんどはあの有名なエイの料理をたべてみたい。もちろん入荷があればの話だけれども。 それにしてもこんなに楽しく一時を過ごせたのは、佐々木章太くんのおかげです。ホントに感謝! いや、本当に素敵な、夢見心地の一時でした、、、斉須さんありがとうございました!このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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