ちょっと前の話になってしまうのだけれども。10月頭くらい、牛肉ガールの荻澤ちゃんから「面白い牛の肉が出てきます」と連絡があった。荻澤ちゃんは、黒毛・短角・乳用種などを分け隔て無く扱い、「ほんとうに美味しい牛肉って何だろう」という疑問を自力で解消しようとする、バイタリティ溢れる変革者だ。
その彼女が「面白い」というのは、ブラウンスイス種である。聞き慣れない人もいるかもしれないが、チーズを愛する人は識っているだろう、乳糖成分が多く美味しいチーズが出来ることで有名な品種だ。島根県の木次乳業や、北海道の新得にある共働学舎、など、すばらしいチーズを生産するところで飼われている、日本では飼養頭数が少ない品種だ。
実はこのブラウンスイス、「乳肉両用」と称されていて、肉にしても美味しい。ジャージー種も乳肉両用。なのだが、乳用種なので骨は太く、サシもそれほどは入らないと言うことで、オスが産まれたときの価値はあまり高く見積もられることがない。
けれども、ブラウンスイスの肉は美味しい。ずいぶん前に木次乳業のブラウンをいただいてから、さまざまなところでブラウンの肉を食べているが、乳用種の中でピカイチに好きな品種だ。
そのブラウンスイスだが、普通出回るのはオスの去勢牛である。酪農家にとってオスは乳を出してくれないので、生まれたら即、肉にするために肥育農家に預けてしまう。
しかし今回のお肉はメスの30ヶ月齢だという。それ、どうしたの?
「種がどうしてもつかなかったらしいんですよ~。岩手の西和賀というところで、放牧にチャレンジしている女性が飼われていて、応援しようと思って。このブラウンちゃん、29.6ヶ月です。放牧以外の餌は圧ぺんコーン2kg 、粗飼料は自分ちのロールで育っているとのことです。」
とのことだった。生産者は岩手県の藤田春恵さん、酪農家である。ブラウンスイスはホルスタインと比べると年間の乳量が1トンも少なく、経済的には非常に不利な品種だそうだ。それを価値化するには、やはり「乳用種の肉」ではなく「ブラウンスイスの肉」として評価してもらわなければならない。そのために骨を折ってくれる流通は少ない。
そこに、荻澤ちゃんとの結びつきが出来たそうだ。いい出会いである。これは応援したいところだ。
さて、ロイン一本買うわけには行かないので、リブロースを分割して2キロほど送ってもらった。僕は、牛の部位のなかでリブロースが一番好きだ。芯の部分に加え、筋肉質なカブリなどいろんな部位がまとまっているからだ。
送られてきた真空パックは、すでにその時点で盛大にドリップが染み出ていた。乳用種で草を食べていると、ドリップ量は多くなる。しかし、この量はハンパないなあ、もうすこし吊して枯らしてからの方がいいのに、と思ったが、生産者の藤田さんいわく、自分も気にはなっているのだが、と畜解体を頼んでいる業者さんとの間に仲介があり、その仲介業者があまり細かいことを聞いてくれないのだそうだ。そういうことあるよね、、、
本当は真空をとって熟成したいところだけど、中途半端な量なのでそうもいかない。ということで真空状態で1ヶ月おいて焼いていただいた。
この焼いているところをみてもらって分かるとおり、けっこう皮下脂肪も豊かである。それと、細かくサシも入っていて、イギリスやフランスの人から見れば十分にFATな肉といわれるような感じである。
乳用種の肉を「ミルクくさくて好き」という人がいるけど、まさかそういう短絡的なことは無いと思う。ミルク臭いといっているのは、ミルクのような肉由来の香りだろう。けれども、たしかになんというか、黒毛和牛の濃いシチューのような香りとは違う独特の香気がある。
そして、牧草中心に与えていることから、脂肪分はやや黄色みがかかっている。これが実にテイスティ、香りよく美味しい!
いまだに、牛肉のことを書いている本で「牛肉の脂は真っ白がいい」みたいな事書いてるのをよく見かけるけれども、バカらしい話である。黄色い脂だとなんでもかんでもグラス臭がするというのは大間違いで、豊かな牧草で育てた黄色い脂は、実に滑らかでコクがあり、美味しい。
このブラウンスイス、とても好印象だった。ただしやはり、枝肉の段階で吊して水分を飛ばし、その上でドライ環境で熟成する方がいいと思う。ということで、発展的に美味しくなる肉だと思う。
藤田さん、ブラウンスイスは美味しい牛さんですから、ぜひ頑張って下さい。荻澤ちゃん、次はぜひ、吊るしとDABの双方で熟成したのを食べたいです。また買うから、よろしくね!
さて、もうひとつの牛の話は、この後に。
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