2015年9月 9日 from
もうすぐ封切りのフランス映画「ステーキ・レボリューション」のhttp://steakrevolution.jp/の映画評を某誌に書いた。ので、いち早く前編観たのだけれどもとても面白い映画だった。ただし、この映画を100%味わい尽くすためには、事前にフランスやアメリカ、イギリス、アルゼンチンそして日本の牛肉の違いを理解しておく必要があると思う。そうするとともっと映画を楽しめるはずなのだ。
映画評の原稿じたいをアップするわけにはいかないので、そこに書かなかったこと中心に。
この映画の監督と、重要な登場人物であり、肉文化のガイド役となるのがイブマリ・ブルドネック。そう、以前のこのエントリで京都にやってきて、熟成肉のサカエヤ新保さんと肉の骨抜きセッションを繰り広げた彼だ。
■フランスの熟成師イブマリ・ル・ブルドネックがサカエヤの熟成肉をさばいた!京都「南山」で繰り広げられたプロ肉屋の饗宴のすごかったこと!
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2015/02/post_2214.html
映画の監督も、そしてイブマリも生粋のフランス人。だから、映画の視点というか視座はフランスの肉文化からのものとなっている。そこがこの映画のくせ者なところだ。というのは、フランスでよいとされる肉は、こういう肉なのである。
ごらんのとおりサシがほとんど入らない、真っ赤な肉。しかもこの牛は経産牛である。フランス人はこのように筋肉中に脂肪が入らない赤身で、何産かお産を経た牛つまり経産牛のほうが、味わいも香りも積み重なって美味しいものだという考え方がある。もちろんそれに異を唱える人もいる(それがイブマリだったりするのだが)けれども、主流は赤身・経産派である。
一方、日本人はその正反対を行っており、サシが入った未経産牛がよいとされている。日本でも最近は肉牛不足なので経産牛を再肥育したものの肉がけっこう売られるようになっている(以前は再肥育なしでひき肉になることが多かった)が、それでも松阪牛のように、処女牛がいい!という風潮は根強い。サシに関して言えば、日本人なら「これはまあサシが多いとは言わない」というA2クラスでさえ、フランス人にとっては「すごいサシだ!」という量だろう。
十歳ぼくは、カルパッチョの製造ラインで、ほんの少し脂の入ったものがおしげなく捨てられるのをみた。2006年から赤身肉がいいよとずーーーーっと言ってきた僕でさえ「これくらいはいいんじゃないの?」というような極小のサシであっても「脂はノン!」と捨てられていた。ほんとうに日本と感覚が違うのだ。
その、フランス人がいいというカルパッチョがこれ。
そして本来ならば捨てられるものを「いいから食べさせて!」と無理矢理もってきたのがこれ。
よく見て欲しいんだけど、粗いサシが2筋くらい入っているだけのものだ。でも、これはもう×。同席したフランス人女性数人に訊いたけど、みんな「ノン」という。でも日本人はみなこっちのほうが美味しいね、と言う。まあそういうことなのだ。
そういう国の映画監督とガイド役のイブマリが様々な国のステーキを体験していく。彼らが日本で食べるステーキはどこの店のなんなのか、きっとそれも話題になるだろうけど、正直うーん、そこなのか、、、というのが僕の感想ではある。料理法としても、肉も、それを日本の代表としちゃうのは、うーん、、、まあ、そこは好みの問題だ。映画をみていろいろ感じてみて欲しい。
ちなみに、アメリカの肉はフランスと日本の中間といえるかもしれない。よくアメリカの牛肉は赤身という人がいるけれども、フランスなどヨーロッパから比べれば十分にサシが入っている肉が多いし、そういう肉がグレードの高いものとされている。
もうひとつもっておくべき視点があって、それは牛が食べる餌だ。日本はアメリカ式の畜産が導入されているので、穀物を中心にたべさせている。もちろん牧草や稲藁など、草資源も食べさせているけれども、本来は草食動物である牛の体調を損ねないために草を食べさせるという意味合い程度で、カロリーベースでいえば穀物が圧倒的。
それに対してフランスなどヨーロッパやオーストラリアなどでは、穀物飼育の農場もあるけれども、牧草や野草を食べさせ、補助的に穀物を与えるというのも盛んだ。そうして育った牛の肉の味は、穀物過多で育った牛の肉とは当然、まったく違う。
そういうことを念頭におきながら映画を観ると、「あ、ここで言ってるのはこういうことなんだ!」というのがわかるはずだ。
10月17日のロードショーまでちょっと先だけれども、とりあえずインフォメーションでした。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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