いろんな熟成肉が出てきている中で、ホンモノの加工肉職人が作るものはひと味違う!ホルス経産牛を特殊フィルムでつつみ、万人に好まれる熟成を追求した町田「クロイツェル」の熟成技法はなかなか興味深い!

2015年7月 5日 from ドライエージングビーフ,首都圏

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3年くらい前からドライエージングという言葉が一般化したように思うが、それにともなって、冷蔵庫にただ置いといただけの肉、腐敗に傾いた肉を出す店がとても多くなってきている。僕の廻りではすでに実害も出ていて、食中毒になってしまった(病院で診断された)人もいる。おいこら関西から出てきて池袋あたりに出店してるあんたら、ちょっとまずいと思うぞ。

ドライエージングは簡単にはできない。いったい誰がどう監修してこんな内容になってるのかといぶかしく思う本がいっぱい出ているが、だいたい温度と湿度と風のことをサラリと書いているだけだ。それをみたにわか職人が、その3要素だけを真似てやってみたのを、客に出す。空恐ろしくなるようなことが行われている。

でも、一方で肉のプロ達が、日本における熟成肉の可能性を高めるチャレンジをしている。今年の2月にうちの会社が開催した「赤肉サミット」に参加してくれた人の中で、最前列近くで食い入るように目線をおくり、休み時間には前に出て熟成肉の香りやテクスチャを確認する人がいた。

「ただもんじゃねえな、、、」

と思わせる、鬼気迫る態度だった。

終了後に名刺交換をして合点がいった。東京の町田市でドイツのハム・ソーセージを製造・販売するクロイツェルという店を営む、吉岡さんという人だった。僕にも突っ込んだ質問をしてきたのだけれども、それがすでに初歩段階と中間段階を超えていて、かなりの核心に迫る内容だった。ひとことでいえば

「ハムやサラミの熟成と共通の部分がありますよね?」というものだ。そう、実はかなり共通している部分がある。

ならば、ということで彼は、知り得た技術による熟成肉を産み出そうとさまざまな試行

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錯誤をしてきたのだという。

「特殊なフィルムを用いて熟成したホルスタインの経産牛を、食べていただけませんか」

ということで、送っていただいたのである。

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経産牛らしい、深い深いワインレッドの肉色。脂はそれほど色素が沈着しておらず、どうやら配合飼料による再肥育をかけたものなのだろう。

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さっそく焼いていただきました。一緒に着いていたピクルスアスピックを添えて、、、

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実は最初から安心していたのだが、とてもコンディションのいい肉だった!というのは、ドライエージングにチャレンジしてみました!という人からいただいたり食べさせてもらう肉の多くが、若干の腐敗臭がするケースが多いのだ。しかし、さすがプロの食肉加工職人、いっさいそうした不安になるような匂いはしない。実にいいコンディションである。

その分、香りなどのフレーバーはあまり濃くないかもしれないと思いながら、薄く塩をしてフライパンで焼いた。

焼き上がった肉を一片、口に運ぶ。熟成香はおだやかですがきちんと存在する。またホルスタイン経産はそれだけでも旨みはある状態のはずだが、その旨みが熟成によって増しているようで、とても美味しい。先にも言ったがいっさい腐敗臭の類いもなく、良好な熟成状態である。僕につきあってよく熟成肉を食べている妻も「これは美味しい!」と言っていた。

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NYスタイルの熟成は細菌由来の美味しさを求めるものと思う。そして、ヨーロッパはどちらかというと細菌に依存しない、加工肉との共通性を感じる。どういうことかというと、フランスで食べた11ヶ月熟成のシャロレーは、まるで純度の高い生ハムだったのだ。今回の肉にもそうしたテイストを感じた。

ただ、ぼく個人の好みとしては、もう少し自由水が抜けている方がいいと思う。NYスタイルの熟成は、入庫してしばらくのあいだ、強烈な風を回して自由水を引き出す。それによって旨みの凝縮度も増すように思うし、肉自身のテンダネスも最高度に達成するように思うのだ。

「じつは、菌をつけると旨みが増し、香りも強く出ることはわかっていました。でもその分、お客さんを選ぶのです。お客様によってはこの強い風味が嫌だという方もいらっしゃいます。そこで、菌による影響をわずかにして、酵素の活性は最大限に利用するという方式をとるために、特殊なフィルムで覆っての熟成を試みたんです。いわば、セミドライエージングとでもいいましょうか」

なるほど!セミドライとは言い得て妙だ。旨みと香りを増すところは重点を置きつつ、フレーバーを生じさせすぎないことで、ふだん食べ慣れている肉の特徴そのままに、美味しさだけが拡張する感じで、万人に勧められるものになるわけだろう。

ただ、それにしてもすこし自由水が多く、水っぽい印象を受けた。それと、フィルムに包むことで嫌気性環境になってしまうので、好気性環境下ではたらく要素が遮断されてしまう。そのデメリットについても指摘したが、それらは吉岡さんも認識している問題だった。

ともあれ、プロが熟成をつきつめると、こうなるという実にいいケーススタディだった。おそらくもうほんの一歩のブラッシュアップで、クロイツェルのセミドライエージングは完成するだろう。とても美味しくて、だれもが取っつきやすい、いい熟成肉だと思う。

吉岡さん、完成を心待ちにしてます。ごちそうさまでした!

■クロイツェル
http://www.kreutzer.gr.jp/