日本最高の茶師であった故・築地勝美さんの後を継ぐものが丹精した東頭(とうべっとう)の茶、きたる。これぞ静岡は本山の茶だ!

2015年7月 5日 from

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しばらく前にこのエントリで書いたように、日本一の茶師だと思っていた築地勝美さんが亡くなった。

■本一の茶師が逝った。 静岡県静岡市 本山の築地勝美さんの茶は、他に真似のできない美しく旨い茶だった!生産から揉みまで全てにおいて完全だった勝美さんの茶をいただきつつ、ご冥福を祈ります。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2014/10/post_2166.html

もうこれで、あの極上の煎茶である東頭ものめなくなるのかも、と思っていた。東頭と書いて「とうべっとう」と読む。これは筑地さんの茶畑の中でも、いちばん標高の高いところに位置する茶園だ。煎茶の茶葉にとって最高の条件が備わった畑で、ここで穫れた茶葉は他の畑のものとは区別して揉まれ、その名前を冠した茶に製茶されていた。

某高級スーパーの店頭で、50g5000円で販売されていたのはこの茶である。それをおろしていたのが、僕がお世話になっていた、静岡でももっともマニアックな茶を商う葉桐という問屋であった。

そして、このとびきり高級で、とびきりに美味しい茶を一般向けに販売するのが「錦園」の石部さんだ。あまりに茶に魅せられたあまり、理想的な急須までてがけてしまっている人である。その石部さんから、お茶がおくられてきた。

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ご覧の通り、いままでどおりの「築地東頭」と書かれている。

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築地さんの晩年に陽の目を見た「蒼風」もだ。

実は、勝美さんが逝く前、甥ごさんが後を継ぐべく修行に入っていると教えてくれた。その甥御さんと、勝美さんの素晴らしきパートナーである美幸さんとが、一緒に茶葉を丹精し、揉んだのがこの茶なのだ!

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みよ、針金のように揉みこまれたみごとな茶葉を!

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これぞ、煎茶なのだ。

世間では深蒸し茶を美味しい茶と錯覚している人がたくさんいる。いや、深蒸し茶そのものを批判するつもりはないけれども、深蒸し茶とはその特性上、茶葉の香りや味わいを後退させて、平準化させたものだと僕は思う。

深蒸しとは深く蒸すこと。薄い茶葉を深く蒸すのと、浅く(短く)蒸すのとでは、どちらのほうが茶葉本来の味や個性が残るか、考えてみて欲しい。さいきん、スペシャルティコーヒーの世界で浅煎りの価値が浸透しつつあるが、豆の個性を活かすには浅煎り〜中煎りのほうが有利である。香味成分などは揮発性のものであり、煎れば煎るほど消えていくからである。あ、もちろん煎ることで他のよさが出てくるので、浅煎りのほうが美味しい、などというつもりはない。そうではなくて、茶の特性のことを言っているのである。深蒸しは、その度合いにもよるけど、茶葉の個性は飛んでしまう。

そして、世間から忘れ去られようとしている浅蒸し(若蒸し、伸びともいう)の茶は、生産する側にとってとても面倒なものである。まず生の茶葉生産の段階でレベルが高くなければ美味しいものにはならないし、よい茶葉ができたとしても、それを収穫後すみやかに蒸して揉み、火を適切にいれるという製茶の技術が高くなければ、とてもこのようなビンと一筋の線に葉を揉み込むことはできない。

この茶をみるかぎりにおいて、築地勝美は甥御さんをみっちり仕込んだのだと思う。ありがたいことである。あの日本最高峰の煎茶を、まだこれからものむことができるのだ。

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これを煎れるのに最適な、たいらな底を持つ急須が会社にあるので、自宅にはいい急須がないのであった。けれどもはやくのみたいので、嫁さんのおばあちゃんが愛用していたという湯飲みで直接煎れることにした。

湯温は、僕の場合、極限までゆるくぬるくして、じっくり旨みを引き出すのが好みだ。沸騰した湯を湯飲みに注いで、指で触れてビビッとこない状態まで、5分以上置く感じ。それを茶葉に注ぐ。

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ビンと一本の筋だった茶葉が、みるみるうちにゆるまっていく。

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世界の発酵茶と違い、日本の煎茶は発酵の力を借りず、茶葉の持つ美味しさを極限まで要素をそぎ落として出す、いさぎよい茶だ。

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ほら、4分もするとこんなふうに筋だったものが、ふくよかな葉に戻る。そして、湯だったところに茶の成分が溶け出して淡いグリーンとなる。

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最後の一滴まで煎れなければならない、最後の一滴が一番旨みが濃い、と茶の師匠である葉桐の会長から習いました。

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これが、煎茶である。

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深蒸し茶とは全く違う文化なのである。

まるで鰹だしのような旨み、それをサッと切ってくれる特有の緑の香りが、喉の奥からフワッと戻ってくる。口の中にはなんともいえないまろみのある世界が、じんわりと持続していく。

まさしく東頭の味である。50g5000円の価値がある、ほんものの極上煎茶である。

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二煎目はやや温度の高い湯でさっと煎れて。一煎目の感動はないが、十分に美味しい。それにしても一煎目のめくるめく世界から一気にあっさり味になり、茶葉の潔さに感じ入る瞬間だ。

石部さんがおくってくれたこの茶、少しでも味を識って欲しいので、僕の事務所に遊びに来てくれた人にはふるまいます。

興味のある人は、すこし安めに値付けしてくれている錦園のWebで買ってあげて下さい。飲み方の解説もついています。

■錦園のWeb
http://www.nishikien.com/index.html

築地勝美さん、よかったね、あなたの味はちゃんと受け継がれましたね。天国で、満足しておられることでしょう。あとは、この素晴らしい煎茶の文化が消えないように、PETボトルのドリンク茶ばかりにならないように、われわれがのみ伝えていかねばなりませんね。