2015年2月20日 from ドライエージングビーフ,出張,日本の畜産を考える
さる1月某日、フランスで有名な精肉商であり、フランスを代表する熟成肉の技師であるイブマリ・ル・ブルドネック氏が来日した。招聘したのは、近江牛の熟成肉でこれまた有名なサカエヤの新保さんだ。
実は昨年からまだ未完のフランス編をお届け中だが、同じ時期に彼もフランス入りし、ブルドネックらと地方の肉牛をみてまわっていたのだった。この時期、都内に黒毛和牛の熟成肉を食べさせる「格之進」を展開する千葉君もフランスに渡っていたので、なにか面白い縁だなと思っていたのだ!
実はイブマリの店には、僕もパリでの滞在中、オリビエに連れて行ってもらったのである!
ショーケースに誇らしげに飾ってある数々の記事。
「専門料理」のフランスの記事を書いておられる加藤雪乃さんの記事を読むと、イブマリはフランス国内でもまれな長期熟成を行う精肉店。通常、30~45日くらいの熟成でも長期というのに、イブマリは60日間熟成のリムーザン牛を名物としている。そのため、長期熟成に耐えうる牛の個体が必要なため、生産者と密に連携している、ということだった。
店内のショーケースは圧巻のひとこと!
もう、片っ端から買って帰りたくなるが、残念ながらフランスの食肉加工品は個人が持って帰っちゃいけませんよ。ここで買ったものは、オリビエの手配してくれたキッチンで火を通して試食させてもらったが、実に美味しかった!というよりも初めての味わいの連続。ブーダンノワールの美味しさといったらなかった!
熟成庫には、うわさのリムーザンがどどどどんと並んでいる。もちろんこれは最終段階の肉を並べているだけのショーケースで、ほんとうの熟成庫は他にあるはずだ(←この辺を理解していない人が多い)。
右側がイブマリ。彼はすでに何店舗か展開しているのだが、どの店でも若手職人が育っているとのこと。
さてオリビエの求めに応じて、リムーザンをカットしてくれるのだが、この厚みをみて欲しい。
フランスではステーキといったらこの厚み、ということなのだろう。日本であれば三分割しても十分に「厚いね!」といわれるような厚みだ。これを手斧を使って骨を切り、カットしてくれた。
これも熟成を施した豚。品種はわからなかったが、皮と脂がついたままで、見るからにうまそうだ。
この時の店内の至るところに、こんなポスターが貼ってあった。
ステーキ(リ)エボリューション。これ、イブマリのドキュメンタリー映画なのである。
ということで、これがイブマリのパリの店。舞台は先月の京都は北山の焼肉「南山」に戻る。ここにイブマリとにいほさんの話を聴こうと肉・飲食関係者がズドドドッと集まったのである。
その白眉は、話のあとに行われた、熟成肉の骨抜き実演。しかもなんと、新保さんとイブマリの共演である!
コック服に着替えるイブマリ。
肉は、ほんとうはフランスの自分の肉でやりたかったのだろうけど、いろいろ制約があるので難しいだろう。ということで新保さんの熟成による肉だ。
こちらの肉はそれほど熟成していないパターン。さてイブマリの肉のサバキ方、まず最初の段階で日本と違う!
それはなにかというと、、、
肩側、つまりリブロースの上側についているカブリという部分を外してしまうのである!
この瞬間、サカエヤの新保さんが「これ、日本でやったらいきなり怒られます(笑)」と漏らす。そう、フランスではこの段階でカブリをとって別部位として販売するとのこと。
骨を抜きながら前に綺麗に並べていくイブマリ。
対して「日本の流儀はこうです」と実演する新保さん。
さすがに僕もこの辺の細かい脱骨の方法まではようわからん。ので、違いがよくわかったというワケじゃないが、文化の違いをまざまざと見せられたという感じはする。
ご覧の通り、脂もサシもけっこう入っている肉なので(といってもA3だろうけど)、きっとイブマリはやりにくかっただろう。
途中、イブマリが南山の若手に「やってごらん」といってナイフを渡す。
いいですね。こんな感じで技術継承がされていくというのは。
そしてもう一本、ハードに熟成のかかった経産牛の肉を新保さんがとりだした!
こんどはこちらの処理である。
やはり、カブリを除去することからスタート!
こうして仕上がった肉はこちら!
骨の先を特徴的に出しているのがミソ。フランスのベーシックな切り出し方だそうだ。
並び立つ日仏ふたりの牛肉屋さん。いい感じです。
イブマリは肉の修行をしたい若手にむけた講座を開設するそうだ。フランス語が使えることが条件とはなるが、日本からも受け入れるという。新保さんもこのクラスに全面協力するとのこと。この辺は、新保さんのブログ「牛肉魂」をお読みいただきたい。
さてこの会の後は、南山の「はなれ」にて宴会!
ほんものの舞妓さんまできてくれて、みなさんめろめろです。
肉は、この日ご参加されていた生産者:西川さんが北海道で完全放牧、というよりは林間にそのまま放って野生状態で育てるアンガス牛「ジビーフ」と、新保さんイチオシの近江牛である木下牧場の肉、そして京たんくろ和牛など。
ジビーフを扱った人はほぼ全員が「手強い肉です」というが、完全に林間放牧で濃厚飼料を食べずに育ったアンガス牛の味わいは、これこそ本来の牛の肉というべきものだ。
この方が西川さん。息子さんは愛農学園の卒業生だ。
僕はとても美味しくいただいた。ただ、これだけ引き締まった身肉の牛だと、熟成もかなりの時間をかけないと、旨味や柔らかさを引き出すのは難しいだろう。新保さんも「まだまだベストにもってけないんです」と言っていた。「個体によって全然違うんでね、、、けど、だんだんいい方向には言ってるんで、もうちょいです」とのこと。楽しみダ!
この日は色んな人に会った日でもあった。彼は「専門料理」の僕の連載をズッと読んでくれている料理人。
また上のステーキに使用した肉を熟成した、エスフーズの関西の熟成担当者さんとも挨拶させてもらった。新保さんがアドバイスをしているということだったので、関東のエスフーズとはちょっと違うというその肉を味わせてもらった。適度な熟成香、柔らかさも出ている。最近、首都圏でみかけるエスフーズの肉は、すこし早出し傾向にあるものが多いようで、水分の抜けが甘く熟成感がいまひとつだなと思うことがあるのだが、この肉は程よい感じで、好感が持てた。ご馳走様でした。
そして最後にサービスカット!
舞妓の一多佳(いちたか)さんであります。可愛い、、、
こうして京都の肉の夜は更けていったのでありました。新保さん、楠本さん、そしてイブマリ!お疲れ様でした!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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