臭みと雑味のない豚は旨いのか!?の究極の問い

2014年12月28日 from 食材

PC260512

いや、今日はとても面白かった。豚に興味のない人には意味が無いエントリかもしれないけど、静かな感動があったので、書いておく。

早朝に福岡を出て新幹線で名古屋まで走り、三重県の松阪市へ。とある銘柄豚のリニューアルの仕事である。

豚肉のブランドを新しく刷新するので、当然ながら味の設計も変えなければならない。現在の豚の味わいはどちらかというと淡麗あっさり系である。目標としては「現状の綺麗な風味は残しつつも、少しリッチなコクを加えたい」というところを設定した。

その目標設定に従い、豚の味を変える方向を探るわけだが、豚の味をコントロールするためには3つの方法がある。

ひとつめは品種の掛け合わせ内容を変えること。

ふたつめは餌を変えること。

みっつめは育て方を変えること。

これら三つの方法のどれかをとるか、または組み合わせるということになる。

ひとつめの品種掛け合わせ内容の変更は難しい。赤身の美味しいバークシャー(いわゆる黒豚)や、昔よく飼われていたしっとりした肉質になる中ヨークシャーを入れるとてきめんに味わいは変わるが、肉の量が落ちたりする。今回は、銘柄豚と言っても極めて一般性の高い豚なので、通常豚の掛け合わせであるLWDで行うことが既定路線だった。

みっつめの育て方変更は、例えば豚舎で飼うか放牧で飼うかというようなこと。これも、一般豚としての位置づけなので放牧はないし、給餌方法も一般的なものでやるしかない。

ということで、ふたつめの餌を変えることで味わいを目標に近づけることとなった。

ちなみに淡麗あっさり系の現状は、そうなるべく餌の設計が行われた結果だ。旨みを十分に発生させつつも、獣臭さや生臭さを消す作用のあるものを与えた。また、脂質をサラリとさせる副原料も与えていた。これはかなり完成度の高い飼料設計で、現在の取引先も特に不満を持っていないという。

ちなみに三重県にはある特殊な、強い抗酸化作用をもつみかん品種がある。これの絞りかすを与えてはどうかという案があった。しかし、僕はその案を見た瞬間、目標とずれるのではないかと思った。というのは、抗酸化作用を持つ素材を与えると、牛でも豚でも鶏でも魚でも、その身肉の味またはたまご等までがアッサリ淡麗な味わいになっていくことが多い。

例えばケーキなどお菓子に使うたまごとしては、それは非常によい特質としてはたらく。逆に、パンチやコクがほしいという場合には物足りない味わいとなりかねない。そこで、その強烈な抗酸化作用をもつみかんカスを与えつつ、これまで使用されていた匂い消し作用をもつ物質の使用を低めては、という提案をした。

結果、飼料給餌実験をすることになり、今日はその実験用の豚の肉が仕上がってきたので、テイスティング評価というか官能試験をしたのだ。

PC260503

実験用に育てたのは、

・実験対照区、つまりこれまでと同じ飼料設計のもの
・抗酸化作用を持つ柑橘を与えたもの
・抗酸化作用を持つ柑橘を与え、かつ匂い消し物質の使用を半減させたもの

この三種をブラインドで焼いて食べたのだ。

PC260506

結果、若干のクセはあるがコクがあって美味しい!と思えるものと、明らかにクセが少なく、その代わり味わいも薄いもの二種。僕は文句なしに冒頭の、コクがあるものが美味しいと思った。餌会社の課長さんも「うーん、同意見です」といいつつ、二人でちょっと「これはまずいよね」と目で示し合った。

というのは、おそらくそのコクがあるやつは、実験対照区の従来の豚なのだ。クセがなくなっている二種が、抗酸化作用の柑橘を与えたものだろう、と。出席者一同のテイスティングシートを開票すると、果たして結果はコクありのものが一番という結果になった。そしてブラインドテストの回答、つまりどれがどれなのかということを開陳。やはり、こくありで旨いとなったのが実験対照区である。

つまり「このまま何も変えない方が旨い!」ということである。

うーーーーーーーーーん、、、、、、、、、

とみなでうなる。40分ほどどうしようか、ああしようかと意見交換。でも、狙っていた結果が出ていないので、どうしようもない、、、

と、その時!

「あれ、これ順番間違えてませんか?」

えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

ビックリしたことに、肝心の「どの皿がどれ」というのを間違って発表していたのだ!本当の結果は、、、なんと、「コクがあって美味しい」の結果こそが、「抗酸化作用を持つ柑橘を与え、かつ匂い消し物質の使用を半減させたもの」だったのである!

なんだよおおおおおおおおおおおおお 間違えないでくれよおおおおおおおおおおお

貴重な時間を無駄にはしたが、結果的に僕らが狙っていた味わいが出たのである。そして、抗酸化柑橘だけではなく、匂い消し飼料を減らした方が旨みや風味が現れるということだ。やはり、雑味は旨みに転じる可能性が大なのである。もちろん抗酸化柑橘のおかげか、食感がよくなるというプラスポイントもあった。バッチリである。

餌会社の課長さんと、試験所の先生と、「よかったぁ~」と肩をたたき合う。いや、ホントによかったです。

と、こんなふうに、銘柄豚の味わいはデザインされているという一例でした。この豚肉、来年3月には市場に出ることとなります。乞うご期待!