昨日、築地の某料亭で発表会が開かれた。僕が心の底から応援する、佳い豆腐を世に送るメーカーである太子(タイシ)食品の新製品である。
太子食品とどうして付き合いがあるかというと、僕が豆腐業界の調査をする際に人脈を探していたときに、ちょうど僕の後輩(慶應SFC)の実家が豆腐屋さんだという。町の豆腐屋さんか?と思ったらとんでもなくて、東北~関東で大きな存在感をみせるメーカーではないか!ということでさっそく連絡を取って、それ以降、僕の著書「日本の食や安すぎる」や、家の光に書いた記事などでフィーチャーさせていただいたのである。
タイシの豆腐は決して「高級豆腐」ではない、。スーパーの平棚に売っている、下位~ミドルラインの価格帯で売られている、手に取りやすい価格の商品だ。それなのに、内容が極めてよいというのがタイシの豆腐なのである。
ちなみに青森~岩手あたりでは太子食品というと納豆メーカーとしてのプレゼンスが高く、それもごく安く売られている商品がシェアを占めているので「え?いつも食べてるあのタイシってそんなにいいメーカーなの?」といぶかしがられる(笑) しかしタイシの真骨頂は豆腐であると僕は想う。
タイシは遺伝子組み換え不使用の大豆を原料にすることをきっぱり言い切った日本最初のメーカーである。その頃は同業者などから酷評されたというが、いまや追随するメーカーが多数であることはご承知の通りだ。
そんなタイシの製造方法は、スーパーでの日持ちを高めたいというスーパー側の要求に応えるため、人が手で豆腐を触らずに製造できる仕組みを作ったり、味を持たせるために超清潔な製造ラインを導入したりという努力をしてきた。そのおかげで、タイシの豆腐は通常2週間程度の賞味期限を誇っている。これは、保存料を使っているとかそういうことではない。僕はこの目で製造ラインをみてきたが、徹底した清潔さでこれを実現しているのだ。
しかも美味しい。原料へのこだわりとニガリ100%使用はこの美味しさを実現するためなのである。工藤社長、カッコイイ。
しかし工藤社長がどうしても気になっていたことがある。それは、「できたての豆腐の美味しさが、パックにして店頭に並べるとどうしても落ちる」ということだ。これは当たり前の話で、どうしても流通の時間がかかるので品質が落ちる。そして容器の中に保存用の水を満たすので、そこに豆腐の旨味が溶出してしまうからだ。
豆腐パックに注入されている水。アレを捨てちゃう人が多いと思う。しかし実はあれに豆腐の美味しい味が出てるので、もったいない話なのである(もちろん安売り豆腐ではなく美味しい豆腐に限る話だが)。だまされたとおもって、豆腐パックの水を捨てずに湯飲みなどにとって飲んでみるといい。豆腐の味がする。つまり、おいておけば置いておくほどに豆腐から美味しさが染み出てしまうのだ。
これをなんとか解消したい!ということでこの新製品ができたのである。
4つの約束というのが書かれている。
厳選国産丸大豆使用。
ボイルなし生造り。
水さらし、封入水無し。
消泡材・乳化剤無添加。
この中で特筆すべきは2つめと3つ目なのである。
ボイルなしというのはどういうことかというと、工場生産型の豆腐商品の多くは、出荷時にパックした商品をある程度高温にかけて、殺菌する。牛乳の殺菌とおなじだ。激烈に高い温度というわけではないが、タンパク質でできた豆腐の成分はやはり変性してしまう。特に、食感は大きく変わる。
「昔の豆腐が美味しいという人が多いんですが、それは本当のことなんですね」
と工藤社長がいうが、そういうことなのである。
ボイルによる殺菌を無くすためには、全行程で菌類の付着がないよう、徹底的な清潔さを維持することが求められる。そこでHACCPに対応した製造ラインを組み、実現しているのである。
次に保存水の不使用。
先の画像をみると、豆腐とパッケージの間に水が湛えられているようにみえるだろうが、あれは豆腐から離水したもので、封入時にいれた保存水ではない。また、よく街場の豆腐屋さんでみるように、できあがった豆腐をみずにさらすということさえしていない。製造した豆腐一パックをそのままパッケージにポンと入れているのである。だから、豆腐の旨味が抜けることはない。離水した水が出るのは仕方がないことで、これもわずかである。僕は家でこれを食べたとき、水を捨てずにそのまま容器に入れて一緒にいただいた。もちろん美味しい、豆腐ホエーともいうべき液体である。
それと、消泡材と乳化剤不使用は、一般にはよくわからないかもしれない。実はいま激安豆腐の強い味方として、薄い豆乳をバチッと固めるためのものすごい液剤が開発されている。それを使うことで、わが目を疑うような安い豆腐ができている。
しかしそんな豆腐は、けっきょくのところ廉価な原料で固めているわけなので、安いのではなく価格相応なのだと僕は思う。大豆タンパクの含有量が多いおいしい豆腐を食べようと思ったら、一丁で200円以上になるのは当たり前のことなのである。
太子食品がニガリしか使わない理由はそういうことだと思う。いやあくまで俺がそう思ってるだけだけど(笑)
さて発表会では絹ごしと木綿が運ばれてきた。僕もこの時初めてだったのだが、一口食べてまずビックリ! 食感が違う! なんというか、もろんもろんとした微少なカタマリがいくつもつらなっているという感覚なのだ。のっぺりしたどこまでいっても同じ食感のゼリーとは違い、タンパク質が微妙な間隔で連携しているということがわかるような、そんな食感。
そしてとても甘やかで大豆の香りが強い!これは、水さらしと保存水を使わないことで得られる、つくりたての豆腐からマイナスするものがないことによるものだろう。文句なしに美味しいです。これで希望小売価格300円ということだが、一丁が大きめにできているので、僕はこの価格は許容できると思う。
工藤社長によれば「豆腐から離水することを考慮に入れて、一丁を大きめに作ってます。値段的にはそれも載せた
いところではありますけど、難しいですよね」とのこと。頭が下がります。
周りにはプレスリリースにあつまったジャーナリストさんが多かったが、みなくちぐちに「味の違いがすぐにわかるわ」と言っていた。ぼく的には、この豆腐の味をきちんと評価するために、100円以下の安い豆腐を一緒に買って食べ比べてみて欲しいと思う。そうすれば誰にでも違いがわかる!
ちなみにこの絹ごしでつくってくれた揚げ出し豆腐の美味しさがきわだっていた。豆腐は味だけではなく、食感も大切なんだな!
ということで、箱入り娘がどこで売ってるか?ということである。いま関東では東急ストア、サミット、ヤオコー、マミーマートなどで食べられる。発表会で配られた販売店一覧をここにおいておきます。お近くの方はだまされたと思って絹と木綿を買ってたべてみてください。他の豆腐といっしょにね!
■箱入り娘 販売店一覧(10月1日現在)
http://www.yamaken.org/work/hakoiri.pdf
ということで、おれは太子食品を応援し続けるぞ。佳い豆腐は適正な価格で買うべき。そして佳いメーカーを支えましょう。
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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