田中一馬君のことは以前もこのブログで書いた。黒毛和牛の元祖である但馬牛で有名な兵庫県の但馬地域で、牛の削蹄(さくてい、爪切りのこと)師をしながら、自分なりの解釈で但馬牛を育てている若者だ。
■但馬の地で出会った美しい牛。この子が半年後、驚くべき評価を生み出すような気がするのだ。(訂正 二年後→半年後です!)
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2012/04/post_576.html
■田中一馬君が完全放牧で育てた純系但馬牛のランイチを、マルヨシ商事の熟成庫にて半DABにしたものを食べた。やっぱり黒毛和牛は赤身も特徴的に美味しい!サシを入れるばかりが黒毛の価値じゃ無いことをしっかり表す味だと思う。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2013/04/dab_2.html
この時、彼らの庭先に放牧されていた「夢」がとうとうと畜され、肉になった。夢はこの牛↓だ
それに加えて、待望のドライエージング熟成も行ったという。熟成は現在日本でトップの技術をもつさの萬さんである。すこしでいいから買わせてくれと頼んだところ、サーロインとリブロースを分けてくれたので、さっそく細心の注意を払って解凍してたべることにしたのだ。
真空パックをあけて鼻を突っ込んで匂いを嗅ぐと、おお!すばらしいコンディションのドライエージングの香りがする!
上がサーロイン、下がリブロースだ。
肉の表面に網目模様があるのは、真空パック内にドリップ吸着用のペーパーが入っていて、それの網目です。ならさないで撮っちゃったのでゴメン。
それにしても立派だ。なにがって、放牧でも若干のサシを作ってくれている但馬の血統が素晴らしいと言うことだ。放牧肥育だから脂の色はじゃっかん黄色っぽいのは当然である。でも、おそらくそんなの、言われなければわからない。
さあこれを塩だけで焼いていきます。
多くの人に分けようという意図なのだろう、薄いカットだったので、強火で表面に焼き色をつけて表裏を焼き、とりだしてバットで余熱を入れる。
カットしていただきました。わさび菜が届いていたので、菜種油と果実酢で軽く和えたのを敷いて。
さて、この放牧ドライエージング但馬牛、一言で言えば「素晴らしい!」。というのは、やっぱり味わいがとことん黒毛和牛いや但馬牛なのだ。放牧で育てているのにもかかわらず、サシの脂質は短角やあかうしでは出し得ない独特の和牛香を湛えている。
ドライエージングの出来は、さすがさの萬さんとしかいいようのない素晴らしいレベル。ナッツ香がブンブンと香り、細胞レベルで軟らかくなっていくテンダネス(柔らかさ)が感じられる。
ただね、やっぱり夢は去勢牛(つまり元はオス)なんだなぁ、ということがよーくわかる味わいだった。脂がギラギラとぎらつく強さがあって、実は僕にとって好ましくない黒毛の特性も発揮していた。まあ、それは好みの問題なんだけど。
僕はやっぱり、経産牛(田中君は敬産牛と呼んでいる。いい言葉だ)を放牧してしばらく育てた肉のほうがはるかに美味しいと思ってしまった。但馬牛の本道は、経産牛をすき焼きにして、その独特の深い香りがブンブンとまとわりつくのを愉しむというものだということを実感しているので、余計にそう思っていまう。
田中家を訪ねたときに出してくれた、解凍ミスで半分凍った肉をホットプレートで焼いた、あの最悪の条件で食べた肉の旨さのほうが、感動としては上だったな。
とはいえ、完全放牧で但馬の去勢牛を育て切り、それをドライエージングにしたという素晴らしき挑戦は、完全に成功と言えるだろう。どこに出してもおかしくない、素晴らしく美味しい但馬牛でした。田中君、おめでとう。そして、これからも楽しみにしています。君はすごいことをやっている!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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