2013年6月 4日 from トルコ Republic of Turkey
D800 TAMRON90mmf2.8Macro f11
Photo by Yusuke Aoki Olympus E-P3 MZD75mmf1.8
さて、週刊誌上にて記事が公開されるまでの間、しばらく今回のトルコ編を自粛だ。ちとお待ちください。その間に、昨年のトルコ編が全然終わってないので進めます。今回は、ようやくといっていいかとおもうけど、トルコが誇る宮廷料理の世界を垣間見ることが出来た。ここ、料理を味わうことを目的に旅行するならマストゴーです。
それにしても、オリンピック開催を巡って、状況がわからなくなってきましたねぇ。今回、イスタンブールの街中でオリンピック招聘の大きな広告をけっこう目にしたんだけど、ご存じのようにいま、オリンピックに向けた公園の再整備計画に反対する市民のデモが起きている。
僕としてはトルコに一票と言いたいところだけど、友人が東京招致を進める団体の仕事をしているので、ノーコメントにしておく。ただ、総合的に観てイスタンブール有利だと思っていたので、今回のデモがあまり問題にならないことを祈っています。
さて、そのトルコの料理の世界は、とてつもなく裾野が広い。だって、トルコの国土は日本の2倍弱もあって、島国ではなくいろんな国々と接している。周辺を統治した帝国として君臨していた時代も長く、つまり文化の蓄積量が莫大なのだ。だから料理のバリエーションも非常に豊かである。
僕は、そのうちのイズミルとイスタンブールしか歩いていないのだから、ぜーんぜんトルコ料理の初心者なのである。スミマセン。
その歴史の中で、オスマン朝時代には宮廷料理が磨かれた。トルコ料理が世界三大料理の一つと呼ばれるのは、この宮廷料理の充実度合いからくるものだといわれる。
僕から観ると、どうやらトルコ料理は下図のように分類できる。
各地方にある郷土料理、それがオスマン朝に収集され、宮廷料理として集積された。そこから時代が過ぎ、郷土料理の形も変わりつつあるが、さらにその二つを現代の技法を使って昇華させたガストロノミーの世界が拓かれて来つつある。僕のこの旅の後半戦、イスタンブール編では、主にガストロノミーに出会うことになったのだ。
しかしこの行程の中で唯一、伝統的オスマン宮廷料理に触れる機会があった。それが、この「güler osmanlı mutfağı」(ギュレル オスマンル ムトゥファーウ)である。日本語では「ギュレルオスマン宮廷料理」だそうだ(大使館の人にききましたので正確だと思います)。
イスタンブールのアジア側、ウスキュダルの中心街の近くにこの店はある。以外に下町感のある、庶民のための町という感じ。観光客向けではない、本物のトルコの味を楽しめそうな雰囲気満載である!
店はそれほど大きくはないが、壁に貼られたコカコーラのパネル(笑)以外は確かに古風な感じだ。ちなみに二階もお店です。
この店の主がアリさん。隣はお母さんだそうだ。
実はこのアリさん、今回イスタンブールで会った時、全然風貌が変わっていた!
おいおいおいなんですかそのヒゲ!? というその変貌については後日述べましょう、、、(笑)
さて、もともとアリさんの一家はお祖父さんの頃から料理屋を経営していて、アリさんの世代になった1989年からケバブ屋を営んでいたそうだ。順調だったそうだが、ここしばらくでケバブレストランも増加し、そろそろ違うことをしなければということで2003年よりここギュレル(便宜的にギュレルと呼ぶことにします)をオープンすることになったということだ。
つまりオスマン宮廷料理の世界では割とニューカマーと見えるわけだが、彼は全精力を傾けて宮廷料理を研究し、食材の調達ルートを開拓し、そして宮廷料理を正確に再現することが出来るシェフをスカウトした。以前にも書いたが、トルコにはボル県のメンゲン村という、シェフを輩出する村がある。オスマン朝の宮廷料理を統括した偉大な料理人がメンゲン出身であったため、彼が後輩達を徴用したのが始まりだと言うことだが、今に至るまで、メンゲン出身のシェフは最も有名である。
まず出されたのが、古風な色の飲み物。
「シャルベットといって、これはトルコの伝統的な飲み物なんですよ!うちで出すシャルベットのレシピだけでも38種類あるんです!」
この茶色のシャルベットはタマリンドから作ったもの。タマリンドはマメ科植物で、サヤエンドウをおばけみたいにでかくしたような実がなる。その種の部分がネチャッと甘酸っぱくなるのをペーストにして保存して、カレーなどで使うわけだが、この国では清涼飲料水になるのである!
「このシャルベットには砂糖は使いません。ハチミツと果実の甘みだけです」
というとおり、実にすっきりした甘さ、口にいやな雑味がまったく残らない。タマリンドの酸味がキュッと舌を引き締め、ややだれかけた胃袋に食欲を喚起してくれる!
店内に置いてあった缶、ギュレルのオリジナル品のようだけど、この間の左下の丸ヌキの中に描かれているのがタマリンドである。そうか、これは美食に飽きたスルタンが、タマリンドの爽やかな酸味によって食欲をとりもどすためのドリンクだな!と勝手に解釈するのであった。
さてお次はトルコの汁物、チョルバだ。
「宮廷料理のチョルバには720種のバリエーションがあります。これは緑オリーブのチョルバで、定番中の定番ですね」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 美しいねっ!
しかもこの緑オリーブのチョルバ、めっぽう旨い! 僕のメモ帳にも「チョルバ美味しい!」と書かれている。日本における味噌汁ともいえるチョルバだが、地方によって作り方は多種多様。椀物は懐石のなかでも華と言える存在だが、これはホント素晴らしい味の一皿です。
さあてここからは皿にさまざまな料理を載せて出してくれたので、ひとつひとつの料理についてのコメントはちょっと無理、ゴメン!
しかしどの料理も煮込むというのが基本動作としてとられたものばかりだ。そう、この前菜部分までは「焼きつける」というような動作が入ってこない料理が中心となっている。どれもオリーブオイルや、皿の縁に盛られた各種スパイスを使って味と香りをつけられたものばかりだ。ゆっくり味わう余裕がないのが残念なほどに美味しい。
「スペシャルなピデがあるんだけど、食べるか?」
と訊かれたので、もちろんと答えるとランチョンマットより大きな舟形のピデが出てきた!
ピデは、イタリアのピザになったといわれる小麦の生地に具材を載せて焼いたもので、伝統的に船の形の物が多い。この皿のおもしろいのは、一度プレーン状態に焼き上げたピデの上部をくりぬき、中に肉の炒め物とたまごを割り入れ、再度加熱していることだ。
これ、半熟以前の状態のたまごを割って、そこに小さくちぎったピデをつけながらいただく。こいつが実に美味しいのでビックリ!生地にしっかり塩味と甘みがあり、羊肉にもガチッと味付けがされているのだ。それをトロトロたまごにつけて食べるのだから、これはなんというかすき焼きサンド的な、日本人にも好ましい味付けのピデである。 やー これもう一度食べたいな、、、
もう、お腹いっぱい!と思ってたら、デザートがドドドドンと出てきた!
そうだよな、宮廷で甘いお菓子がでなかったわけがない。それにしても、色んな意味で日本の甘味とはかけはなれているようにみえつつ、どこか日本とも共通するものがあると感じさせるデザートばかりだ。
これなんかみつ豆みたいでしょ。トロトロの白い生地部分には米粉が入っているにちがいない。
この黄色いの、みただけでお米が甘く煮込まれているのがわかる。
こういうハイカラなのや、
チョコレートが使われているのはともかく、
このプティングだってお米の粉が使われています。
極めつけはこの一皿。
これ、トルコではほんとうによく出てくるもので、薄茶色の表面のつぶつぶは粗く挽いたセモリナ粉を甘く煮たものだ。その間に水牛の乳脂肪を固めた絶品クリームであるカイマックが挟み込まれている。
「う、うめえ、うめえ!」
と食べていると、アリさんが作っているところをみせてくれた。
こんな感じの、古式あふれるバットに入った甘いセモリナを、、、
手のひらほどのアルミの型に詰めていく。
あるていど伸したら、、、カイマックを載せてならす!
そこに再度、セモリナを詰めていくのだ。
これを皿に空けて4等分にすれば、、、
デコレーションしてできあがり!
この店に足を運んだら、ぜひスイーツまで食べていただきたいと思う。料理名がわからなくてもこのブログプリントアウトしてみせれば大丈夫(笑)
店の中には、古いオスマン時代の意匠がいっぱいだ。そういうのが好きな人にもお勧めできる店だ。
アリさんはむちゃくちゃ情熱的な人!
俺はこの取材中、ずーっと彼に頬ずりされたり、スプーンで「あーん」させられた(笑) ちょっと、そっち系の人かと疑ってしまったくらいである。けど、彼のあふれんばかりのフレンドシップは、いま思えば本当にトルコ人らしいトルコ人だなあと思える。
「俺は、リアル・オスマンだよ」
と彼は言う。僕も本当にそう思う。アリさん、どうもありがとう!
■Güler Osmanlı Mutfağı
Kurbağalıdere Cd. Hasanpaşa Mh. No: 74/A Kadıköy İstanbul
Tel:216 348 2245
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