2013年4月15日 from 日本の畜産を考える
お〜い田中一馬君。君の取り組みは報われた,と思うよ。本当に心の底から旨い!
写真手前の二種の肉、それぞれ個体が違います。右側が北海道は北十勝ファームの短角和牛のリブロース。そしてより面積の大きな、左側に並べてある肉が、兵庫県の美方郡にて但馬牛の放牧に取り組む田中一馬君の育てた牛だ。この牛、僕は昨年の今頃に撮影させてもらっている。
■但馬の地で出会った美しい牛。この子が半年後、驚くべき評価を生み出すような気がするのだ。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2012/04/post_576.html
そう、この牛さんが肉になったのだ。少し買わせてくれ!と頼んでおいたので、モモを一本分けてもらった。マルヨシ商事の平井君と折半で買って、そのまんまマルヨシの熟成庫に入れて置いてもらったのだ。去年の10月頃だから、6〜7ヶ月の熟成。いや、マルヨシ商事だとそれは意外と普通の長さなんです(笑)
ただし、この時は部分肉加工をしたものなので、真空パックになってしまっていた。本来、ドライエージングは真空パックしないものを熟成庫に入れないとうまく熟成できない。肉の中に湛えられている自己消化酵素が、真空パックのバキュームによって体液とともに引き出されてしまうからだ。
従って、真空パック済みの肉を熟成庫にいれたものを僕は勝手に「半ドライエージング」と呼ぶことにしている。ただ、この半DAB方式でも、菌類の動きが活発な熟成庫で管理すれば、そこそこ香りがつき旨みの凝縮感も得ることが出来る場合がある。
今回も平井君、うまく熟成を仕上げてくれました。
自由水が完全に外に出きって、ブリンブリンの手触り。鼻を近づけるともうすでにナッツ香が漂う。完全に室温に戻し、45度くらいで1時間程度湯煎して内部温度を上げておいたので、オーブンは使わずにフライパンで仕上げることにした。また、北十勝ファームの短角牛リブロースのステーキカットも焼いてみた。
意外に旨く焼けたな!
写真、ちょっとシャープを入れすぎてしまった。ゴメン。
さて、今回はなかなか興味深い食べ比べ。だって赤身が美味しいといわれる短角牛と、サシが価値となっている黒毛の但馬牛を比べるのに、ご覧の通り短角のほうは脂ののったリブロース、そして但馬牛のほうは真っ赤っかなランイチなんだもん。
ちなみに、北十勝ファームの短角は、道内産のデントコーンサイレージと小麦ふすまなどを食べさせた、ほぼ完全グラスフェッドだ。それなのにかなり脂がのる不思議な肥育をしている。安定した赤身の旨さが、DABによってすさまじく花開く。
それはまあいいとして、、、
本題の田中一馬君の但馬牛の味!
もちろん強いかみ応えがあります。筋も引かなかったからかみ切るのはちと大変。だけどね、それイコール硬いということではないのですよ。かみ応えがあるということなんです。そして、黒毛が持つあの巨峰のような濃く甘やかな香りがきっちりある!僕は今まで、和牛香とよばれる黒毛に特有の香りは脂からするものだと考えていたのだが、赤身中心のこの肉からも和牛香がする!しかも旨み成分がとても豊富である。
美味しい。素晴らしく美味しい。
田中君は手探りで自分の求める但馬牛像を追い求めているが、この方向性は間違いなく、本来的な美味しさを発揮した但馬牛の姿だと思う。現在のA5規格の黒毛和牛は、昭和40年代以前には存在しなかった。昔の但馬牛の味って、たまに肉牛農家が食べていた、草を中心に食べさせていた経産牛だったはずだ。但馬で繁殖・肥育農家さんたちに話を聞いて僕はそう思った。
それに現時点で一番近いのが、田中君の牛だという仮説を立てたわけだ。実際に背負うわ40年以前の但馬牛を食べたことが無いので、それを立証することはできない。しかし、この肉は旨いということだけは自信を持って言える。
昨年から一年間かけて、ようやく一つの確信を持つことが出来た。さあはやいとこ、きっちり本にする原稿書かないとね。
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