2013年4月11日 from ドライエージングビーフ
■撮影:リコーGXR A12 28mmユニット
ということで本日は、全米の肉牛肥育生産者協会(→かってに訳したので正式な日本側名称はわかりませんが、、、)のCEOと会食をしながらの情報交換。向こうでは、アイゼンハワー基金とかいうのがあって、有望な研究テーマであれば好きな国に6週間滞在して、コーディネーターをつけて研究に廻ることができる費用を助成する制度があるのだそうだ。そんで今回、そのポリーさんというCEOがその基金で日本にやってきた。
右側は夫君で、なんと肉牛農家。F1を中心に、豚も飼っているそうだ。アメリカではそれほど大きくない、牛300頭に豚1000頭という規模だそう。
そして彼女の関心の中心は、リーンミート(Lean Meat)は日本でどのように受け入れてもらえるのか?ということ。日本で言う赤身肉のことだ。まあそういうテーマであれば、僕に声がかかっても不思議はない(笑)
ということで、日本の牛肉を巡る状況を一通りお話ししてきたわけです。ランチをとりながら、その店はカルネヤ。だから当然、日本の牛をいろいろと食べてもらいます。
用意されたのは、僕が親しくつきあわせてもらっているマルヨシ商事でドライエージングにした黒毛和牛と短角牛、そしてさの萬さんのホルスタインだ。写真手前は6ヶ月エージングの短角(北十勝ファーム)、奥がなんだっけ?忘れました。手前二番目がさの萬さんのホルスタインDAB。三番目が島根県産の黒毛、その奥が山形県産の黒毛。一番左端の黒っぽいゴワゴワをかぶせてあるのがくまもとあか牛。さの萬さんのを除き、すべて昨年11月からエージングしている。
実はこちらからも色んな質問を用意していったんだけれども、とても興味深い話を聴くことができた。まず彼女らは、肉牛業界にいるからかもしれないけれども、A4以上のサシの入った肉に対して露骨にいやそうに顔をしかめる。このミーティングの前に百貨店やスーパーを廻ったそうだが、A5クラスの肉が並んだショーケースを嫌そうに見ていたそうである(笑)
「不自然だ」
ということらしい。いろんなメディアで「日本の黒毛和牛は海外でもてはやされている、NYなどでも」というようなことを謳われているので、本当にそうなのかと思ってしまうが、聴いてみると通常のアメリカ人にとってFat(脂肪)がはいりすぎた黒毛和牛の肉は気持ち悪い!となるので、マーケットとしてはありえないという話だった。
そんな彼女たちが「これは」という顔をしたのが、サシがバンバンに入ってはいたが、ひとつは島根県産黒毛和牛のDAB。これは香りと味わいがとてもよいというコメントだった。たしかにマルヨシ商事の平井君が熟成してくれたこのお肉、熟成によるのか、脂のくどさがまったくなくなり、複雑玄妙な味わいと香りでとてもよかった。
もう一つ関心をもたれたのが、くまもとあか牛(褐毛和種熊本系)だ。個体識別番号を調べるのを忘れてしまったのだが、おそらく南阿蘇あたりのものだろう。サシはあまり目立たず、コーンっぽくない味わい。これこそLeanだろ?という味わいだ。それを食べながら彼女は
「味を作るのは餌だけど、この牛はコーンばかりで育っているのではないと思う。それでいて堅くもなく、くさみもないので、単純なグラスでもないのではないかしら」
というようなことを言っていた。当たり前だけど、全米の肉牛農家のマーケティングを担っているだけあって、実に鋭い味覚だった。
ちなみに彼女の組織の予算は肉牛農家から出ている。なんと、一頭の出荷につき一ドルが協会に寄せられるのだが、その金額が80milionドルといっていた気がする。ええっそれって80億円くらいってこと? うわーーーー日本の状況がいや~になっちゃうよ!
それで彼女らの組織は牛肉のプロモーションやリサーチを一手に引き受けているそうだ。いいなあ、俺もやりたいよそんな仕事。
ちなみにこちらの質問は4つ用意していったのだけど、ひとつは成長ホルモン剤のこと。アメリカの肉牛には、成長ホルモン剤を餌に混ぜて食べさせる。それによって、日本では黒毛和牛の去勢で25ヶ月齢程度まで育てるが、アメリカでは20ヶ月程度で出荷できるようになる。そのホルモン剤があまりよろしくないんじゃないか?という指摘がもちろんあって、むこうのアッパークラスはホルモン剤フリーのオーガニックビーフなどを買っているという話もある。
で、質問事項の紙(日本語で書いて通訳の先生に渡した)をみて、そのホルモン剤の名前を書いたところをちらっと見ただけでポリーさんは笑いだし、「ああ、もう質問の内容わかったわ」と。
「ほとんどの肉牛がホルモン剤投与されています。ただわかって欲しいのは、肉質を安定的にはやく育てるためにやっているだけで、それ以外の変な要素はありません」
という返事。いやでもまあ、その早く育てるためってのが問題だと思うんだけどね。まあ、そういう肉がUSビーフなので、日本の消費者にはあまり受け入れられないんじゃないかなぁ、という気もする。
ただ、アメリカでもいろんな肉牛農家がいて、生産されている肉のレベルもピンキリだと言うことがわかった。アメリカの肉牛飼養頭数を農家戸数で割った一戸あたり平均頭数でみれば、日本とそうかわらない一戸あたり50頭程度だそうだ(日本は42頭)。ただしでかいところはムチャクチャでかいということ。
そんで、プライムとよばれるアメリカの牛肉の最高格付のものは、現在輸出されていない。理由は単純で
「全肉牛の5%未満だから、米国内の需要だけでもまったく足りないのよ!外になんか出せないわ!」
とのこと。そうかあ、プライム中のプライムの肉ををいちど、日本の赤身肉と並べて食べ比べたいんだけどね。
また面白かったのは、米国のバイオエタノールの話。彼女は生産者団体の仕事をしているから、餌であるコーンが近年高値になっていることを憂えている。ぼくが「アメリカがバイオエタノール政策を進めてるからだよね」といったら、
「そう!私たちはあの政策に強く反対しています」
と言っていたのだ。やはりそうなのね!生産者同士で話した方がわかり合えるのかもしれないね、、、
ちなみに、USビーフの全生産のうち75%がアメリカ国内向けで消費される。この内需が旺盛なので、輸出のことはそうそう考えられていないのが現状だそうだ。
「ただ、近年では輸出が増大しているので、力を入れようとは思っている」
と言っていたけれども、おそらくガンガン日本に攻めてきたいという感じではなさそうだ。ホッとしたというか、なんというか。
最後、彼女がプロデュースしているという、牛肉用のシーズニングスパイスをいただきました。カルネヤ高山君に半分お分けしたんだけど、舐めてみたら死ぬほど辛い!こんなスパイスつけたら、どんな肉の味も吹き飛んでしまいそうだが、、、
とにかく面白いひとときだった。今度、彼らの農場に視察にいきたいものだ。コーディネートしてくれた福留さん、ありがとうございました!
このWebはいわゆるグルメではありません。味や価格だけではない「よい食事」とは何かを追求するためにひたすら食い倒れる記録です。私の嗜好に合う人しか楽しめないと思いますがあしからず。
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